12話 会話と契約
「やった! 『人語交換』きた!」
「ボス、言葉分かるの?」
俺の口から発せられたのは間違いなく人の言葉。
それに反応するって事はゴブリントークを使っている俺と同様にエリートゴブリンの耳にはゴブリン語で言葉が届いている証拠。
つまりはこれでエリートゴブリンと会話が出来る
そうとなれば次は【暴力無効契約】。
発動条件は血を飲み交わす、か……。
――ブチ。
俺は早速自分の腕を噛み、傷を付けた。
血がたらっと流れて地面に滴れるが、俺はそれを反対の手で受け止めて器の代わりにする。
「正式な主従契約を交わそう。互いに暴力を行わず、更には主である俺はお前が窮地にたった際助力し、理想の主、ボスで居続ける事を誓う。……さぁお前も血を差し出して誓ってくれ」
「……新しいボス、それに恩人の為、俺は手や足となって働く」
エリートゴブリンは嫌がる様子も躊躇する様子も見せずに自分の腕を噛んで同じ様に手の器に垂れた血を注いだ。
交差する手と手。
俺の腕が短いのを察して自分の腕を畳ながら合わせてくれるその気遣いに、これからのエリートゴブリンの働きに期待してしまう。
――ごく。
喉を通っていく血は濃い鉄の味。
人間の血と違って美味しいとは感じられないが、それでも一滴も残さまいと俺はそれを啜った。
すると、エリートゴブリンと俺の体が一瞬ピカッと光った。
どうやらこれが契約完了の合図らしい。
体に紋様が浮かぶといったような分かりやすい契約の証は無いが、エリートゴブリンに対して不思議と友達、いやそれ以上、家族にも近い感覚が芽生えている。
エリートゴブリンもそれを感じ取ってくれたのか、さっきよりも顔に余裕が見られる。
「これからよろしく頼む」
「はい、ボス」
エリートゴブリンは元気よく返事をするとその場に跪いた。
こういった反応をされると自分のボスという立場を改めて実感すると共に、それだけで満足感や喜びを感じてしまう。
偉い身分の人間は家来を雇い、奴隷を買い、一般人を嘲笑う傾向にあると聞いた事があったが、おそらくはこういった感情に押し負けてしまったのだろう。
今の自分には少しだけその気持ちが分かる気がする。
俺はそんな人間みたいにはなりたくない。
自制を心掛けて出来るだけ親しい間柄でいる事を意識しないと。
「あの、ボス。これから俺は何をすれば?村から新しい人間連れてくる?俺、命令がないとなんだか落ち着かない」
「命令か……」
食料となる人間は今のところ十分。
となればここに来る冒険者を迎え撃つ為の準備と冒険者達が絶えずここにやってくるように仕向ける作戦が必要。
でも取り敢えずは罠等の設備の拡張とレベル上げが最優先かな。
「今後ここに冒険者を招き、それを食って生活する方針をとろうと思う。危険は百も承知だがうまく行けば今までより労力が減る。それに無抵抗の人間をとって食うより、襲ってきた人間を食う方がお前としても気が楽だろ?」
「……うん。正直何にもしてない人間の女、可哀想に思えてた。でも攻撃してくる奴は遠慮無く、食べれる」
「そうだ。人間にも害のある奴ない奴がいる。襲ってくる奴は勿論、例えば女を犠牲にして生き延びてるようなクズは害悪だ。そついったクズ人間を俺は殺して食らい尽くすのが目的だ。分かってくれるか?」
「犠牲……。それって、もしかして」
「ああ。お前が大事にしてた人間の女も自分達が生き残るために犠牲にされたのさ」
「……。そいつ、その人間許せない。俺が食ってやる」
「ふふ。分かってくれたか。それじゃあその為の第一歩としてまずは罠とこの巣の手入れをするぞ」
「了解、ボス」
「っとその前に」
『複数自動洗浄』
俺はスキルを発動させて自分とエリートゴブリンの身体を洗い上げた。
本人には言い辛いけど、もう少し体臭を消す努力をしてくれないかな……。
◇
「――警報装置と落とし穴、それに空いてた部屋に人間を囮に落石罠……。一応それっぽいのは作ってみたけど」
「ちょっとしょぼい」
巣の中をざっと掃除した後、早速骨や木や弦で罠を作ってみた。
エリートゴブリンにも言われてしまったが、正直しょぼい。村人なら引っ掛かるかもしれないけど冒険者がこんなもの引っ掛かるのか?
まぁまだ有り合わせのもので作っただけだからこれから改良してけばいいか。
あーでもこうなってくると物の加工系スキルも欲しくなってくるなぁ。
鉄が作れるようになればかなり幅が広がるだろうし。
鉄製のトラバサミとか作ったら大分楽に冒険者を倒せそう。
「これは巣の中のレイアウト決める為に作ったって事にするか。ふぁ、ちょっと疲れたな」
「うん。でもまだ レベル上げが――」
「それは明日やろう。別に急ぐ必要もない。そう言えば寝床をどこにしようかな」
「俺は元々あっちの脇穴で寝てたからそこにする。ボスは奥にある寝床使うといい。今は卵もなくて広いはず」
「卵か……」
やはり俺はこの場所からあの冒険者達に運ばれたらしい。
今思えば生まれて直ぐにゴブリンの群れと対面しなかったのはあいつらのお陰、か。
「……。その卵っていうのはなんだったんだ?もしかしてゴブリンって卵から孵るのか?」
「違う違う。大分前に襲った人間の血と村で前のボスが持ってきた。あの時はまだボスは強くなかったけど、卵と寝るようになってからぐんぐん強くなって、おかしくなってった」
「……卵の周りに何か特別な力が働いていたって事なのか?」
「わからない。でも、なんだかそれを壊しちゃいけない、食べちゃいけない気がした」
明らかに何かによる細工。
卵の生むの親か誰なのかは分からないが、きっと卵は人間に盗まれた後も誰かの手によって守られていたのだろう。
まるで俺が転生してくるのを待っていたかのように。
「なるほどな。それで卵は人間に盗まれたと」
「うん。よく分かったねボス」
「はは、勘が冴えただけだよ。でもキングゴブリンがいたのに盗まれるって事はその人間は相当強かったって事だろ?」
「うん。強かった。でも仲間同士で足引っ張りあってたからそれだけの被害で済んだ。あれレベル高い」
「そう言えばお前のレベルって聞いてもいいか?」
「俺はエリートゴブリンのレベル3。普通のゴブリンの時にレベル15で進化した」
アナウンスはモンスター限定のもので、知能がある程度あればそれを記憶しているって事らしいが、進化前の事までしっかり覚えている辺りやっぱりこいつは優秀な個体なんだろう。
進化か。
確かレベル5が俺の進化条件だったはずだけどアナウンスがないな。
これってそのレベルに達してもしっかり報告出来ないと駄目なやつか?
『最大レベルで自動的に進化が行われます。今の貴方の場合であればレベル10で自動進化となります。現状は任意での進化になります。進化致しますか?』
『進化します』
進化すればパワーアップするのは間違いない。
今のところデメリットも浮かばないから当然即決だ。
『かしこまりました。進化先は1つのみであり、選択不可。それでは進化を始めます』
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