141-8 酔いどれの国で
「今日の侵入場所は大物だぞー!」
「みんな、気合を入れていこうね!」
「バーブー!」
そうか、まああまり知らない国に行って好き放題されるのもあれなのだが、あそこはまたなあ。
俺は先に様子を見にいく事にした。
もちろん、そこは鍛冶場だった。
親方達はまだ起きていて、魔法鍛冶炉に魔力を注いでいた。
今の時間は夜中の二十三時だ。
「あれ、親方まだ仕事をしていたんかい」
「おう、アルか。
今ちょっと決算期だからな。
どうしても作っておかないといけない物もあって、連日この有様よ。
もう三日も禁酒しているのだ。
決算明けは思いっきり飲むからな。
どうせ花見にゆくのだろう?
それよりも、こんな時間にどうした」
親方が禁酒だと⁉
ここにも決算という名の悪魔の手により、仕事に追われている奴らがいたのか。
まあ、このあたりの人材は実に優雅なものだけれど。
匠の技なのだし。
どうせ面倒な財務なんかは女将さんやドワーフ貴族の奥様方がやってくれているのだろう。
最近はそっちの方面も優秀な王子が二人もいるしな。
厚地の布の上から、ごつい耐火エプロンや同様の手袋をした鍛冶スタイルで腕組みし、こちらを向いた親方。
これは俺だから振り向いてくれるのだ。
ここでよく知らないような関係の奴が、振り向いてくれないからといってあまりしつこくすると、『壁の花』と化す羽目になるから要注意だ。
壁の花といっても舞踏会の参加者のように優雅な奴ではなく、概ね『人間押し花』っぽい感じなのだがな。
これで親方の機嫌が悪い時だと、さらに突進して体重をかけ、思いっきり『プレス』される可能性すらある。
なんというか、瞬間人間押し花製造法っていう奴だ。
「いや、ちょっとヤボ用でね」
隣に立つアレーデが会釈すると、親方も会釈してくれる。
こんな夜中に俺が連れてくるのは訳ありの関係者に決まっているのだから、親方もそういう事には気を使ってくれて、こんな腹芸を見せてくれる人なのだ。
ちなみにドワーフの宴会で見せてくれる、親方の『腹(宴会)芸』もまた見事なものなのだった。
「ちょっと遅い時間なんだが『うちの子達(うちの子は一人しかいないのだが)』が遊びに来るからよろしくな」
「そうか。
じゃあ社会見学でもさせておくか」
まあいいんだけど。
今日はドワーフ達も宴会を始めそうにはないから、うっかり酒を飲まされたりはしないだろうから安心だぜ。
そうこうするうちにやってきた、謎の仮面の集団と黒装束のゴーレム達。
それから、そーっと鍛冶場を覗いているチビ達。
「親方達、まだ起きていたのかあ。
とっくに宴会を終えて寝ていると思ったんだけど」
「そういや、今は三月末だから決算期だよ」
「そういや、うちもそれで忙しいんだった。
御父さん、僕にはまだ御仕事を手伝わせてくれないの。
忙しいから一緒に遊んでくれないし」
「まあまあ、あたしらがいるじゃない。
レオンもまだ二歳なんだしさ」
「ルイだって、その格好の時は大きいけど、普段は一歳ボディだよね」
「ばぶー(0歳です)」
そして抜き足差し足でそっと忍び込む三人。
まあ親方には先に言っておいたし、気配でバレバレなのだが。
それを知っていても、敢えて知らない顔をしてくれている親方達。
だがレオンとルイが、こそっと見えない何かに向かって囁いた。
「「いっけー」」
そして猛然と燃え上がる鍛冶炉の炎。
それを見て驚くドワーフ達。
そこにはドヤ顔をしたサラマンドラゴっぽい感じの精霊がいた。
だが、やけに顕現した体が大きく、また色合いも黒っぽい感じで濃い、更に厳つい何かこう威厳のような物を纏っている。
なんだ、こいつは。
俺も初めて見る精霊だな。
「おお、こいつは伝説のキングサラマンドラゴか⁉」
いたんだ、そんな御大層な名前の奴が。
「うむう、こんな大物が一体どこから現れたのだ!
ドワーフの伝説の中にしか聞いた事がないような、この大精霊が!」
そして、してやったりの笑顔で手を打ち鳴らす三人組。
そこへトイレに起きたついでに、まだ起きている父親達の様子を伺いにでもきたものか、現れたトーヤ。
可愛いアニメ柄のナイトキャップをつけ、イエローのネグリジェタイプの寝間着を着込んで、枕を抱えたまま目をこすっている。
「あれ、レオンとルイじゃない。
するとそっちの子は、もしかしてハイドのメリド王子?」
「ふふ、当たりー」
そして鍛冶炉の暴れ狂う炎と一緒に踊りまくっているドワーフの大人達を尻目に、冷静にレオン達に訊くトーヤ。
「これは!
キングサラマンドラゴとは、また凄い大物を連れてきたもんだね。
こんな珍しい精霊を一体どこから?」
「んー、精霊の森の奥に引き籠ってたの。
ファルちゃんと一緒に行って口説いて、ちょっと連れてきただけなんだけど」
「最初はかなり勿体をつけていたんだけど、ファルちゃんの必殺撫で撫で攻撃で一発デレデレよー」
「なるほどー。
そいつは盲点だったな。
よくチェックしておかないといけなかったか。
もう仕事が押しまくっていて全員総がかりで鍛冶をしているから、火力が不足気味だったんで助かるよ。
これでなんとか花見には間に合いそうだね~。
ところで、その格好は何?」
「ふふふ。
ある時は謎の怪盗、またある時は泥棒勇者、そして愛と正義のファンタジー3さ!」
「そうか、みんな頑張ってね。
うちは御父さん達があれでしょ。
いつもそうなんだけど、今は決算期だから特にねー。
僕は明日も公務があるんだよ。
いや、今が春休みで助かったなー。
じゃあみんな、御休みー」
そう言い終わると、欠伸を連発しながら出ていってしまったトーヤを見送りながら、三人は囁く。
「もう。
トーヤ御兄ちゃんたら、冷めている感じでつまんない。
最近は付き合いも悪いよね」
「まあ王子様なんだからね。
御父さんも御兄さんも公務とかまったくしないタイプの人だから」
「というか、この国に公務なんてあったんだ」
「うん、一応は。
王妃様とか他の女の人がこなしているみたいだよ」
そして彼らは踊り狂い鍛冶祭りに勤しむドワーフ達を、楽しく社会見学していくのだった。




