141-9 ちいさな勇者達の冒険
そして、その後も毎晩夜遊びに勤しむファンタジーな子供達。
さすがの敏腕侍女アレーデも、もうぐったりだ。
「ねえ、魔王様」
「なんだい、HCIA(ハイド中央情報局)局長」
この娘には、なんと地球風にCIAと言ってもちゃんと意味が通じるのだ。
そういう仕事をしているミハエルの子飼いに近いような人物だからな。
「御戯れを。
ねえ魔王様、この監視は一体いつまで続くんでしょうね」
疲れた顔をこちらに向け、自分の顔をパンパンと叩いて気合を入れている王妃様の筆頭侍女さん。
「さあ、多分あいつらが、この遊びに飽きるまでじゃないか?」
「どうせ遊ぶのなら昼間にしてほしいんですけどね」
「夜中じゃないと出来ないような遊び方だからな」
「そうですかあ……」
些かゲンナリしたかのようなアレーデ。
この人は凄い情報通でやり手だけれども、只の貴族の子女に過ぎないからな。
そして今日、子供達は南の国パルミアへ向かうようだ。
あそこの王宮を荒らすのは止めてほしいのだが。
ここロス大陸南部にあるパルミア王国とロス大陸西北端にあるエルトミア王国は、かつてゲルス共和国と同盟していたところだ。
ゲルスとの同盟を破棄した時に多少関わりあったが、あまり俺と近しいところではないので、絶対に揉めたりしないでほしいのだけれど。
しかし、今日はいつもとは少し違う趣の遊びだったらしい。
「僕がナイトでルイが御姫様、そしてメリドが王子様の役ね!」
「おー!」
「バブー」
というか、メリドは役ではなく本物の王子様そのものなのだが。
本日は泥棒勇者ではなく、夜行性の正統派勇者の御一行をやるようだ。
元気に草原を行進していく乳幼児達の集団。
歩くと言うか、全員魔道鎧の使い手なので宙に浮かんで進んでいるのだが。
乳幼児の群れが自前の足で歩いて行進すると、あっという間に電池が切れてしまうからな。
うちの新選組隊長格達は、彼らの事をそっと見守っているに留めているようだ。
あまりゾロゾロと隊列を組むのもなんだし、こういう遊びは子供だけでやるのがいいのだろう。
その辺をよく理解して対応してくれるのが、この沖田ちゃんと斎藤ちゃんコンビだ。
この二人は伊達にうちの子達から人気がある訳ではない。
「あれだな。
なんというか、RPGで街から街へ行く最中の、勇者パーティの行進を表現したプレー?
服装も今日はそれっぽい奴に変えてきているな」
「RPG?
よくわかりませんが、うーん。
この遊び、夜でないと駄目なんですかね……」
だが、実際にこういう人にロープレのPCゲームとかを渡すと、仕事が手につかないくらいに嵌るんだけどな。
「まあ結構珍しい魔物なんかだと昼間は出てこない事が多いので、夜でないと見つからなくてね」
魔王を退治に行くパターンなら、ここに本物の魔王様がいるのだが。
あと魔王エリーン(映画の中の役で)もいるし。
あいつにかかれば、このある意味で最強の勇者パーティといえども、あっという間に寝かしつけられてしまう。
しまった。
小さな子供相手なのだから、エリーンの奴も呼んでおけばよかったな。
これが真理だと甘やかすから駄目だけど。
もっとも、あいつには夜中に子供達のために見回りをする(趣味の)仕事があるから来ないだろうな。
おや? なんだか前方に火の手が見える。
「ん? 性質の悪い盗賊でも出たか」
俺は最初の村で起きた襲撃事件を思い出した。
あれは忘れもしない、俺が初めて人間の敵を斃した忌まわしい血の惨劇を体験した夜だった。
慣れぬ異世界の旅で疲れて油断していたら、見事に間抜けな真似をして村をやられてしまった。
まあ、結局はその後で俺がメインになって盗賊をやっつけたんだけどな。
あの村の復興には俺も手を貸した。
お金や資材の提供に、あと陛下に頼んで税の手心を加えてもらえるようにもしたのだ。
あの村はエルミアの管轄だったから、あの人間のよく出来た御領主様がよくしてくれて助かったよ。
その後は順調に復興し、俺がエルミア教会神父様の奥さんの父親が経営するバルコ商会を支援した御蔭で、あの辺境の街や村の景気も随分とよくなって税収も増し、領民から御領主様への恩返しも出来た。
御領主様も先日は、ついに二階級特進で男爵様に叙爵された。
辺境といえどエルミアクラスの街の領主だったのに、いくらなんでも今までの身分が低すぎだよ。
最低でも男爵あるいは準男爵だって。
エルミアの街がもうちょいと栄えていたら、領主が子爵だっておかしくはない。
これだから辺境という奴は困る。
彼は人格にも問題は何もないしな。
いや、むしろ逸材だわ。
よい御領主様なので彼が統治する村々にもきちんと支援は行き渡ったのだ。
叙爵は優秀な領主への一種の顕彰の意味合いもある。
俺からも陛下に推薦しておいたし。
「ようし、沖田ちゃん。
あそこまで行こう」
「はいはい、ただ今」
彼女達がついてきてくれているのはチビ達もわかっているしな。
大事な足(転移魔法持ち)なんだし。
彼らが転移魔法で向かった先では、ちょうど盗賊が村の建物に火をつけたところだった。
そして、それを見たレオンは言った。
「召喚、ナイトの使い魔たち!」
ナイトの使い魔というのもなんなのだが、要はレオンのペット軍団だな。
大方の魔物は可愛いのだが、中にはゴツイ奴らもいるのだ。
沖田ちゃん達がゲートを開いて、新選組が手分けして起こしてきた魔物達を呼び込んだ。
大蜥蜴系やオーガの子供、飛竜の子なんかもいるな。
例のキノコ山の主の子もいる。
まだ子供ばっかりだが、図体が大きい種族ばかりだからな。
あと、暇な強面の精霊達もやってきたようだ。
現場に俺がいるから、魔力の匂いがぷんぷんしているのだし。
殆ど野次馬みたいなものなのだが、こんな奴らが顕現してきただけで盗賊も村人も大パニックだ。
「うおお、魔物だー」
「なんだ、精霊みたいな奴らもいるぞ」
「畜生、なんでこんな事に」
村を襲撃した筈なのに、何故か逆に自分達が襲撃されてしまい慌てている盗賊達。
ついでに村人達もパニックしていたのだが。
「ひゃあ、怪物の群れだあ。お助けー!」
「盗賊だけでも、豪い事なのにー」
あーあー、もうあいつらは。
仕方がないので、俺とアレーデで回って村人の避難誘導をした。
「ああ、村の皆さま。
あれは村を襲ってきた魔物や精霊ではないので御安心を。
御怪我をされた方はいますか、まだ亡くなった方とかはいませんよね?
いたら回復魔法をかけますから申し出てください。
ちょっと騒ぎが収まるまで、こちらへどうぞ。
何、雑魚な盗賊などすぐに片付きますよ。
ああ、私は通りすがりの高ランク冒険者なので、強力なシールドの魔法を張っておきますから大丈夫です」
俺が出ていいんだったら一瞬で片付くのだがな。
魔法PCのMAPで敵全員に照準を付けて、麻痺魔法のスタンでも食らわせてやればいいのだから。
昔盗賊に襲われた時とは違って、今は魔法などでそういう非殺傷な芸当もできる。
そして何故か奴もやってきた。
千手観音Gブツダムが。
人々は、その異様な、この世界では見慣れない姿に畏怖した。
「あのなあ。
お前、一体ここで何をやっとんのや」
だが、奴は体の前で一対の両手を組みあわせて『押忍』を表した。
傍には御付きのドラゴン(名はアクシスというらしい)も一緒にいて、同じ仕草をしていた。
最大ボリュームで吠えまくるドラゴン、そして震えあがる盗賊及び村人達。
「こらこらこら」
完全に戦力過剰だ。
俺がここにいる時点でもうなあ。
とっくにチェックメイトだっつうのに。
幸いにして村人の中に死者はいなかった。
俺は被害のあった建物に再生をかけて元通りにして何もなかった事にし、怪我をした村人の治療も完璧に済ませておいた。
昔はそこまでやってはと慮っていたが、今はもう自重の欠片も無い。
全ての武器を破壊されて、魔物達に追い詰められて一か所に集められた盗賊どもを、魔道鎧の速度を持って捕縛していく子供達。
全てを終えて、三人組が勝ち鬨の声を上げている。
そして彼らを蔭から見守る俺の隣には、いつの間に来たものかシドがいた。
どうやら、子供達によるあまりもの狼藉をついに見かねたアレーデが報せたようだ。
彼女付きにしておいた、うちのゴーレムが迎えに行ったのだろう。
さすがの彼女も連中の悪戯が過ぎると思ったようなのだが、この父親ときた日には。
「ははは、さすがは私の息子だ」
「へえ、いいのかいな。
世継ぎの王太子様がよ」
「はっはっは。
うちはハイド王国なのだから、王太子たるもの、これくらいヤンチャでなければな。
うちの父も若い頃は『海の王太子』などと呼ばれていて、それはもう血気盛んだったらしい。
そういや君のところの跡継ぎはまだだったかな」
これだもの。
そういえばメリド王子は現海賊王子にして次期海賊王なのだった。
シドも公式な時や蟹漁の時には国王として他国の公爵である俺にも丁寧な口を利いてくれるのだが、こういう普段の時は無礼講なマブダチモードで話してくれる。
「ああ、それが一番心配の種なんだがねえ」
まあ、自分の子供が生まれるのが楽しみじゃないわけではないのだ。
でも、なるべく御手柔らかに頼むよ。
生まれる前から、もうメインイベンター臭がぷんぷんするんだからな。
いつも応援ありがとうございます。無事1000話まで進みました。
まだまだ続きますよ~。
1000話を締めたのは、小さな勇者君たちでした。




