141-6 草原の怪盗たち
ここはザイード王国。
月夜の草原を駆け抜けるチビ達三人組は、何かの魔物の上に乗っているようだ。
少なくとも馬ではないタイプのようだ。
レオンの子分か何かだな。
もしかしたら今晩スカウトした可能性もあるのだが、よく人に慣れているようだ。
その魔物君は、まるで鼻歌でも歌っていそうなくらい楽しそうだな、おい。
ここでのメインとなるプレイヤーはルイで、彼女が柔らかく手慣れた感じで楽し気に手綱を握っている。
あれは『もう一人の瑠衣』である全知のアウターアイだ。
魔物の扱い方くらいは当然のように御承知であられる事だろう。
地球人(異世界生まれ含む)のインナーアイやアウターアイのくせに、イコマやルイは不思議とこの世界の事に無茶苦茶に詳しい。
地球にいる時は奴の言う事が本当に不思議だったものだが、こちらへ来てもそれはまったく変わらない。
おそらくは、こちらの世界の神とリンクして必要なデータをダウンロードしていやがるのに違いないのだ。
そういえば最初に魔法PCを組んでくれた時も、あいつイコマの奴が一生懸命にやってくれていた。
「時間がない、時間がない」と言いながら。
あの時、『神の時間』である霧の中にいられる間だけがスキル構築のタイムリミットだった。
俺はただ、ぼーっとしながら夢を見ていただけなのだ。
そして、あの世界の狭間の中で、龍神大和との霊的リンクを次元断層の隙間に引っ掛けて、インターネットの回線に繋いでおいてくれたのだ。
あれは物理なのか半物理な感じの霊的なパワーなのかよくわからないが、まあありがたい。
アエラグリスタなんかもそうだったのだが、物理的な存在である龍神は、ああいう電波的な物も捜査出来るようだ。
次元の隙間は閉じられたが、物理的次元的な障害をものともしない霊的リンクは次元断層を越えて見事に機能した。
この未知の異世界では、あれで随分と助かったもんだ。
インターネットが無かったら本当にきつかったぜ。
次元を抜ける際に空間スキルをマスターして収納なども用意しておいてくれたのだろうし。
女神ロスと交渉し魔法に対する知識も入手して、魔法習得を可能なようにユニークスキルを構築してくれてあった。
山本夫妻には、そういうものがなかったのだ。
あれは『表の人間』には不可能な芸当だった。
生憎と、あの二人の子供なら自力でやってしまいかねんほどのヤバさを秘めているのだが。
武なんか、自力開発で新魔法体系を手に入れちまったんだから、まったくたいしたものだ。
あの時の次元嵐のような、大変大きな異変のせいなのかもしれない。
普通はインナーアイを持つ龍王のような人間でもない限り、そんな事はないはずなのだ。
あるいは、もしかしたら武の奴も龍王だった可能性はあるのだが。
なんというのかな。
『人柄的に』それも有りなのかもしれない。
第一、龍王なんていう者は、そう珍しい人間ではないのだから。
今では、それも知る術はないのだが。
そいつばかりは、当時武と行動を共にした真理やバルドスにもわかりはすまい。
そういう話はAI武も語るまい。
あるいは実物の武本人さえそれを知らないというケースも有り得るのだ。
やたらとチートな織原なんかはどうなんだろうな。
あいつもフィアの空間内で主神ロスと遭ったらしいので、そこで龍王として中途採用された可能性はある。
半ば『種神官の御付きの人』みたいになってやがるし。
というか、本来は心に衝撃を受けるレベルで『遭った』という事実そのものが龍王であるという事の証なのだが。
ルイが霊光で発光しているので、真夜中の草原を駆ける姿は非常に幻想的で不思議な光景だ。
そして、その前に小さな弟のようにレオンが座り、彼が赤ん坊のメリド王子を抱いている。
弟が出来たみたいでレオンも嬉しそうだ。
そのうちにアントニオのところも二人目が生まれるだろう。
少し気になっているのだが『あれ』は一回限り有効なのだろうか。
あの御腹に吸い込まれていった祝福が、もしも数回使える数次パスみたいになっていたらどうしようか。
その時はレオン達にはわかるだろうから、前もって聞いておくとするか。
心の準備っていうものは必要だよね。
今なら、ファルとコンビで大概の赤ん暴君ならなんとか出来る気がしているのだが。
だが正直言って心許ない。
もうアルスもいてくれないしね。
何かあった時の応援にはグスタフを呼ぼう。
この『ファンタジー3(俺命名)』のチビ達もいるし。
はたして、こいつらが役に立つのかどうかは知らんのだが。
どうせ生まれた赤ん坊を一緒に引き連れて、世界を股にかけて遊びに行ってしまうのに違いない。
これからは王子様もメンバーに加わる事だしな。
人数が増えた事もあって、あれこれと悪戯などがパワーアップしそうだ。
何しろ、メリドはあのシドの息子なんだからなあ。
首が座る前に海の大物を狩りにいくとか普通にありそうだ。
その時には俺が御祝いとして贈った例の奴が役に立つのかもしれんな。
そして、今奴らが目指しているのは『ザイードの王宮』だ。
まあ、王宮といっても移動式のパオみたいな奴なのだが。
それは地球の物よりも大型で遥かにしっかりしている。
別にどこかに王宮を建ててみたっていいだろうに、「いざとなったら民を連れて王宮はどこまでもいく」という、何かこう有り得ない発想をする王族なので。
王族自ら遊牧をしているらしいからなあ。
特に馬を溺愛しているようだ。
そして、その草原の王宮に忍び寄る三つの影。
共にいる図体のでかい魔物、あれは草原の蜥蜴科の魔物だな。
子供達と一緒に、抜き足差しの怪盗ごっこを楽しんでいるようだ。
魔物って結構そういう人間臭い奴が多いんだわ。
こいつらも祝福系のチビなので、仲良くなれる魔物とはすぐに仲良くなる。
もちろん、そうでない狂暴な奴らも多いのだが。
でも『御友達』はちゃんと選んでいるようだから傍から見ていても安心できる。
俺も、こいつらと御友達になるような魔物とは大概仲がいい感じだ。
ザイード王宮である、一際大きなパオの中に忍び込もうとする餓鬼ども。
だが、奴らの不法な御遊びもそこが終点だった。
「こら!
お前達、そこまでだ。
こんな夜中に何をしている!
子供はもう寝る時間だ」
レオンとメリドは、待ち構えていた『王宮の主』に襟首を掴まれてしまった。
まあ、ルイが夜中にあれだけ光っていちゃあな。
「わー!」
「バブウ!」
「きゃあ、捕まっちゃった~」
そして三人(と一匹)は、見事に強制送還決定となった。
そろそろ御眠なメリド君はアレーデがそのまま引き取っていった。
アレーデは寝不足気味の顔で、若干目の下に隈を作りつつ。
「すみませんね、エクード太子様。
うちの殿下もヤンチャ盛りでして」
他国の王太子にぺこぺこしつつ自国の王太子を愛す、大変に情報通である王妃付きの敏腕侍女。
「いや? いやいやいや。
まだ生まれたばっかりだろうに。
さすがは、あのシドの息子というか、そこのアホなおっさんのせいというか」
そう言って、何故か俺が睨まれるのだ。
まあ身に覚えは十分に有り過ぎるのだが。
その一幕を見たレオンとルイは、大慌てで沖田ちゃんと斎藤ちゃんをせっついて、大至急転移して逃げていったのであった。




