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141-5 王宮の怪盗

「えーと、ここは?」

「ベルンシュタイン帝国の王宮、いや帝宮だ」


「え、我々の他国宮殿への不法侵入は、さすがにマズくないですか?」

「何が?」


 俺の即答に思わず黙り込むアレーデ。

 まあ俺はいいとして、自分はどうなのか考えているようだ。


 だがここでは余計な心配など何も要らないのだ。

 何しろ俺の舎弟の家なんだから、いきなり友達を連れていったって何も言われない。

 二人組の見回りの兵士が歩いてきたが、俺に向かって恭しく礼をして行ってしまった。


「えーと、我々が今ここにいる事に対して何一つ疑問に思われていないのですね」


「ああ、それはあくまで俺だからなのだが。

 何しろ、しょっちゅう緊急な重要案件でここへ来ているからな。

 俺の邪魔なんかして何かあったなんていったら、そいつの責任問題になる。

 それに彼らはアルバトロス戦役に参加していなかった兵だから」


「ああ、あれですか」


 情報通の彼女は、あれこれとよく知っているようだ。

 当時はアルバトロスにいたのだしな。

 下手をするとミハエルよりも知っている事が多かったらしい。

 あいつも、たまに彼女のところへ話を訊きにいっていたのだ。


 メリーヌ王女が嫁に行った時に彼女も当然ハイドへついていったのだが、その時にミハエルが言ったものだ。


「溺愛していた妹が嫁にいってしまって凄く寂しいのだが、それと同等に彼女を失った事は大きい。

 うちで一番優秀な情報部員だったのに。

 まあ、それでもハイドやメルス大陸国家の情勢は彼女を通してよく伝わってくるしなあ」


 あの国家諜報を司るシスコン王子にそこまで言わせる女。

 そして今では既にハイド一番の情報通として名を馳せているらしい。

 ある意味で最強の人物だな。


「まあ、あの兵役に参加していた奴なら、俺を見てビビって逃げるし」

「それもまたどうかと」


 あれは全部真理のせいだと思うのだが。

 まあ命があっただけありがたいと思っておいてくれ。

 普通なら帝国全兵士が皆殺しになっていたっておかしくなかったくらい壮烈な戦いだったのだから。


「あ、来た来た」


 俺達はインビジブルで姿を隠していたが、上下を真っ黒な装束、いわゆる怪盗スタイルで決めた沖田ちゃんと斎藤ちゃんコンビが手を挙げて挨拶してくれる。


 そして奴らはインビジブルさえ使わずに、例の三人組として仮面をつけたファッションでやってくる。

 王子様は赤ん坊で、まだ「あんよが上手でない」ので浮いている。

 おそらく、まだ首が座っていないはずなのだが、こんな事をしていていいのだろうか。


 まあスーパーベビーに関しては四の五の言っても無駄なのだが。

 そういえば忘れていたが、これも遠い父『錬金魔王』の血統なのだった。


 うっかりしていたが、なんとこの子ってば俺の義理の甥っ子なんだったわ。

 俺の直接の血筋じゃないだけマシな部類だ。

 場合によっては、それよりももっとヤバイのかもしれないが。


「あの子達、こんなところで何をやっているんでしょうね」

「え、見てわからんのか?」


「わかりません」

「そんなもの、探検ごっこに決まっているじゃないか」


「……一国の王太子ともあろう者が、真夜中に他国の宮殿をですか」

「男の子だからね」


 女の子も一人混ざっているがな。

 あの子も葵ちゃんに似て活発な性格なんだよなあ。

 まだアレなチビ達の中では大人しい方なんで助かるが。

 というか瑠衣の中の人は、ほぼ引率の御姉さん的な存在だよな。


「それは、わざわざ夜中じゃなくったっていいのでは」

「昼間じゃあ他の人間がいっぱいいるから探険の気分が出ないんだろう」


 なんというか、廃墟マニアみたいなものだろうか。

 日本でも夜中に廃墟へ肝試しに行く奴らとかがいる。

 まあ、ここは廃墟じゃないから安心だけどね。


 古家に子供が勝手に入り込んでいて何かあっても、家主の方が管理不十分とか言われるし。

 うっかりと鍵をかけ損ねていたりすると子供に入り込まれて、近所から警察に通報されるんだよな。


 親戚の古家は勝手に外国人が入り込んでいて大変だったらしい。

 確か中米の国の連中だった。

 結構麻薬絡みで色々あるヤバイ国の人間だ。


 そこの犯罪組織はアメリカへも大量に麻薬を送り込んでいたので、麻薬戦争として米軍が正規に戦争をしかけていたくらいだからな。

 日本の片田舎にある、あんな田舎町の古家にすら訳のわからない国から来た外国人が居座っている。

 あれで外人どもは逮捕されたりしないという理不尽さ。

 家の中とか荒らし放題なんだけどな。


 俺の家なんか、白昼堂々小学生男子の集団に入り込まれてしまっていて警察に通報されていた。

 ベランダでサッカーして大騒ぎをしていたから何かあってはいけないと電話されていた。

 名前入りのボールを犯行声明代わりに置いていったし。

 家にもだいぶ被害が出ていた。


 もちろん、そいつらの親も絶対に謝りになんか来ない。

 また警察の馬鹿どもが碌でもない真似をしていやがったので参ったぜ。

 窓開けっぱなしで放って帰るから二階の廊下や部屋がだいぶ腐っていたじゃないか。

 せめて窓くらい締めていけや。


 警官なんて本当に碌でもない連中ばっかりだ。

 サイレンを鳴らしていない時でもパトカーって、わざわざ親切に前を開けて道を譲ってやったって挨拶一つしていかないからな。

 普通の人は大概ちゃんと挨拶したりハザードを付けるくらいする。

 日本で住んでいた街のロクデナシどもだって挨拶くらいくれていくというのに。

 今度から横道から来るパトカーを見たら、敢えて道を塞ぐような形で空けておいた車間を詰めておこうっと。



 そして三人組の後をつけていくと、『衣装部屋』に入って遊んでいる。

 何のごっこなのだろうか。


 傍目にはよくわからないのだが、とても楽しそうだ。

 王子様も笑っているし。

 生まれたばかりなのにな。

 そういやレオンも、生まれてすぐの頃に笑っていたな。

 すげえデジャブーだ。


 でも、お前ら。

 はっきり言って、それは犯罪だからな。

 まあここは俺の管轄だからいいけど。

 よく知らないどこかの王国とかで、そういう真似をするのはやめてね。


 ここに監視カメラとかがあったら、どう思われるのかね。

 警備兵の頭が痛くなるのが関の山なのだが。

 うちも南の公爵が来た時は大変だったな。

 あれにはエド達もだいぶ困っていた。


 それからおチビさん達は空き部屋探訪をして、箪笥の引き出しを開けて回った。


「あれは何をやっているんでしょうか?」


 アレーデは不思議そうに首を傾げたが、俺は苦笑した。

 前にアントニオの家へ遊びに行った時に、連中とちょっとした御遊びをしたのだ。


「あれは『ちいさなメダル』を探しているんだろう」

「は?」


 まあ、さすがの情報通のアレーデにも、そこまではわからなかったか。

 あれは異世界の産物だからなあ。


 あの時は、俺が作っておいてやったメダルを、そっと引き出しなんかに隠しておいたんだ。

 いわゆる超合金、つまり亜鉛ダイキャスト製の奴をね。


 小さいと言ってもそれは名前だけで、小さな子供が絶対に飲み込めない大きさにしておいたのだが。

 なんていうか、小さな御煎餅サイズだ。

 その辺の規格は、うちのケモミミ学園で使う算数用教材セットに準じている。


 どうやら泥棒勇者ごっこだったらしい。

 あれも自分の家で楽しむのなら合法だが、ここはそうじゃないからなあ。

 王太子様の御遊びとしてはちょっと考え物だな。


「あった~!」


「何~!

 そんな馬鹿な」


 だが幼児が指で摘まんで嬉しそうに高々と掲げている物体は、紛れもなく俺が作った亜鉛ダイキャスト製のメダルだった。

 そして、こちらへ向かってピースしている沖田ちゃんがいたのであった。

 そして念話で会話する。


「たはっ、お前の仕業かよ!」

「まあ、こんなものは御楽しみの範囲ですから」


「あのなあ」

「やれやれ」


 真夜中の帝国皇宮に、アレーデの深い溜息だけが響いたのであった。


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