141-2 衣装の支度
ケモミミ園の大広間で、レオンとルイの二人組が裁縫グループの子達と一緒に『衣装』を整えている。
最近はマリーも彼女達の仲間だ。
何しろ裁縫グループの顧問ともいえる、あのリサ先生の娘なのだから。
マリーも、もっぱら仕事的には、お金になるキッチンエリの御手伝いになるのだが、自分でも御人形さんの御洋服とか小物を作っているようだ。
初めて会った時には四歳だったこの子も、もうすぐ小学校に上がるのだ。
成長著しいな。
「お前達、何をやっているんだい?」
一応、レオンとルイに訊いておく。
「「内緒ー」」
何やら、トーヤ達も混ざっているようだ。
その面子を見る限りでは、どうせ碌な事ではあるまい。
最近はルイも堂々とそのアレな姿を披露しまくっているので、ケモミミ園の皆も慣れたものだ。
葵ちゃん的には我が子の小さくて可愛い娘時代を心行くまで堪能したいらしいのだが、ボーイフレンドの性質が悪いのだから仕方がない。
御免なさいね、どうせ全部俺が悪いのさ。
また一人追加で祝福の申し子が生まれちゃったみたいだしね!
何もかもがあまりにも手遅れ過ぎて、もう開き直るしかない俺なのだった。
そのうちには生まれてきそうな俺の子に至っては遺伝子レベルで手遅れなので、俺としてもそっと様子を伺う以外の事は出来ないだろう。
俺はDNAにスキルを仕込む特殊な能力を持っているので、もう随分あれこれと貯えてしまっているからなあ。
これもセブンスセンス同様に地球時代から持っている奴なんだけどね。
というか、セブンスセンスとセットで使っていたと言っても過言ではない。
先方のハイドも今は訪問客が多くてガタガタしていそうなので、また落ち着いてから行くとしよう。
あの子が俺からのプレゼントを気に入ってくれていたらいいのだが。
いや、あのシドの息子なのだから、きっと大の御気に入りに登録されているのに違いないぜ。
◆◇◆◇◆
その夜の事だった。
そこはオルストン家の跡継ぎの寝室。
そこへこっそりと忍び込む侵入者の影があった。
ベッドの傍には主人の警護をする狼系の魔物がいたのだが、彼はそっと片目を開けて侵入者が彼女である事を確認して、またすぐに目を閉じた。
そもそも、最初から匂いで誰かはわかっていたのだ。
「レオン、起きて起きて」
「うにゅう。
ああ、ルイ。
おはよう~」
傍らには可愛いペンギンの赤ちゃんみたいな魔物を寝かせている。
本当は園長先生のところにいるクラゲの赤ちゃんが欲しいのだが、凄く大きくなる海洋生物なので手がかかるからと養子にはもらえなかった。
眠そうな目を擦り擦り、そして欠伸をしながらもペンギン魔物を起こさぬように、そおっと起き上がるレオン。
見かけは、まだまだなんとも可愛らしいものだが、その悪戯な気性は大変油断がならないものであった。
ルイがレオンの御着替えを手伝ってやり、二人は張り切って出かけた。
もちろん行先はハイドの王宮だ。
二人の移動速度にかかれば千キロ程度しか離れていない隣国王都など、そう大した距離ではない。
「アアン、アアン、アアン」
王宮の奥にある王妃の寝室では、メリドと名付けられた王太子が元気に夜泣きして王妃を困らせていた。
ちゃんと自分の傍に置いて世話をしていたのだが、いきなり夜中に泣きだして叩き起こされたのだ。
侍女のアレーデも一緒に見てくれている。
「ああ、よしよし。
おっぱいでもないし、オムツでもないしねー。
メリド、お前は何が悲しいのー?」
「それは、きっと冒険が足りないんだよ」
「ええっ⁉」
いきなり後ろからかけられた声に、驚いて振り向いたメリーヌ王妃の目には珍妙な格好の二人組が映っていた。
一人は光り輝く体に赤い眼鏡のようなマスク。
そう、仮面舞踏会で使うようなアレだ。
体にはスリムな黒い薄手の盗賊のようなズボンと長そでのシャツ、物語に出てくる御忍びの快活な王女様のようなスタイルをした、ふわっと宙に浮いた十代らしき女の子。
もう一人は青のマスクを付けた、なんというか、要するに只の幼児だ。
女の子と御揃いのような格好をしているが、こちらは幼児体系なので可愛らしい事この上ない。
こっちは可愛い真っ赤なマントをつけている。
父親に似て、ちょっと癖っ毛なのがまた可愛らしい。
こちらも宙に浮いている。
魔道鎧を着込んでいるのだが、普段着モードなので見た目は目立たない。
女の子の方は、何らかの自前の力で霊的に発光しているようなのだが。
「まあ、あなた達」
衣装を褒めてほしいのか、二人は若き王妃の前で格好良くポーズを作った。
「おチビさんが夜中に抜け出してきては駄目よ」
それを聞いて二人はコントのように空中でずっこけた。
当然、彼らはメリーヌ王妃の知り合いである子供なので、一応は大人として言ってみただけだ。
だが言って大人しく言う事を聞くような連中なら、今頃ここにはいないだろう。
「だってメリド君が生まれたんだから、じっとはしていられないよ」
「そうだよ。
だって私達ファンタジー3の仲間なんですもの」
そう言って二人は『主題歌』を歌った。
どうやらファンタジー3のメンバーが大活躍する冒険物語のようだった。
それを聞いてメリド王子は泣くのを止めて、嬉しそうにキャッキャッと笑い出した。
本当に冒険が足りなかったのだろうか。
いや、こんな夜中に御兄ちゃん御姉ちゃんが遊びに来てくれたので楽しいだけのようだ。
「もうあなた達の冒険活劇のタイトルになってしまっているのね……」
いつの間にか、生まれたばかりの息子が勝手にこのような腕白団のメンバーに加入させられてしまっていた事に、今更ながら気が付く迂闊なメリーヌ王妃。
二人とも大変に御満悦な様子で、メリド王子にも一生懸命に御揃いの衣装を着せていた。
赤ん坊仕様なので、かなりラフなものではあったのだが。
「あんた達ー、うちの王子を勝手に連れ出したりしちゃあ駄目だからね」
「「はーい」」
しかし、「返事だけはいいんだけど、まったく当てにはならないな」と思うアレーデなのだった。




