第141章 ファンタジー3 シドさんちのメリド君 141-1 第三のベビー
「こ、これは!」
その晩遅くに、そっとメリーヌ王妃の様子を見回りに来た王妃付きの侍女頭、アルシオン子爵家の三女アレーデは驚いてしまった。
臨月を迎えた王妃のベッド、そこに光り輝く何かを見つけたからだ。
その彼らは宙に浮かんだままメリーヌ王妃を覗き込んでいた。
王宮、しかも王国の跡継ぎを宿した王妃の寝室への不法侵入者である。
むろん、彼らが王妃に危害を加えようとしているわけではないのをハイド一情報通の彼女は知っていた。
何故なら彼らは王妃の祖国アルバトロス王国の者で、まだ小さな子供なのだ。
ただし、それはもう本当に厄介な奴らなのだが。
アレーデも物陰からそっと彼らの様子を伺うに留める。
「もうあの子達ったら、もしかして毎晩来ていたのかしら」
そして彼らがキラキラした目で覗き込んでいるのは、彼女が敬愛してやまない主、若き王妃様の【大きな御腹】なのであった。
その傍にはプリティドッグの子犬も眠っている。
相手が知り合いの子供達なので気にも留めていないようであったのだが。
「ねえ、ルイ。
凄いね、この子」
「うん、レオン。
もうじきだね。
うわあ、楽しみだなあ」
そのワンダーな子供達の会話を耳にして、全てを察したアレーデは眩暈を感じたが、かろうじて踏み留まって、そして呟いた。
「み、見なかった事にしよう」
別に彼女が無責任なのではない。
むしろ聡明で何よりも主人を想ってくれる、幼少時期から仕えてくれている忠臣なのであったが、彼女にもなんともならない事は存在するのだった。
何しろ、それをもたらしたのが、あの稀人魔王園長なのだから。
それだけでもう十分に諦めるべき案件であった。
そう、あの問題児どもは、このところ毎晩こっそりと家を抜け出して【新しき仲間】の様子を見にやってきていたのだった。
そして、ついにその時がやってきた。
「ハイド王国の御世継ぎ誕生の報」に周辺諸国は慌ただしく対応に入った。
ハイドはロス大陸で唯一といってもいい海洋貿易国家であり、各国にとっても重要な国家の一つだ。
王太子の誕生祝いの儀には多くの人が駆けつける。
ただ祝いの品をどうするか、そこが非常に悩ましいものなのだ。
そして、あの魔王所縁のアルバトロス王国から嫁いだ王妃の子供なのだ。
ハイド国王自身も魔王とは本当に仲がいい。
そういう意味合いもあって、なおさら周囲を騒がせるような空気が醸成されていたのであった。
またそれについても、アルフォンス商会に祝いの品を発注する向きも多い。
そこで扱われる物品には、各国王室御用達の品も数多いのだ。
商会外商部の担当による豪華な「御任せ稀人式御祝いコース」なども用意されており、それを選択するのも有りだ。
あそこの場合には、よく物がわかっていない人間が下手な物を選ぶよりは全部丸投げにした方がよかったりするので。
ただし皆がそれを使いたがるため個性には欠ける嫌いはあるので、それも良し悪しといったところで、その辺がまた各国において他国の慶事に対する御祝いを担当する文官達の悩みの種でもあった。
特に近年は「日本直輸入」の商品も数多く、選ぼうと思えば無限の可能性がある。
特別な手数料さえ払う気があれば特注のオーダーさえ可能だ。
日本の商品の良さは折り紙付きだ。
その他、地球の日本以外の外国からの商品も特別な物を用意してもらえるし、日本政府から要請してもらって商社に特別な計らいを依頼する事も可能だ。
それに見合う見返りは異世界から存分に供給出来るため、先方の地球諸国も協力するのに吝かではない。
地球にも異世界の珍品名品に対して金に糸目をつけない人士などいくらでもいるのだから。
この先の慶事として考えられるのは、アルグランド王国の世継ぎや帝国の世継ぎなどが考えられるが、そのあたりはまだいい。
大きな物としては、魔道国家アルバトロス王国の王太子の世継ぎとアドロスの魔王の跡継ぎだ。
どちらかといえば世間の目は後者に向いているのがなんなのだが。
いずれにせよ、当面は大国の跡継ぎとして話題に上るのが、このハイド現国王の子供であった。
生まれたのは、おそらくハイド王国の王太子となるであろう男の子である。
ハイドも元々はアルバトロス王国兄弟国のサイラスと上手くいっていなかった。
王太子との縁談においてはハイド王国からの一方的な破談などもあり、アルバトロス王国とも微妙な関係を長引かせたハイド王国。
その御蔭で二国の同盟が成り立たず、暴れん坊の帝国を野放しにしてしまう結果となった。
その、かつての問題児ハイドの新たな慶事であったので、周辺国としても皆関心は高いのであった。
そして『ドワーフ国』からは、なんと!
『王太子専用蟹漁船 プリンス・オブ・オーシャン号』が進呈された。
例の二隻しかなかったスーパー魔導船だ。
今回は乳児室なども特別に用意されている。
まるで生まれたばかりの赤ん坊に巨大魔物毛蟹と戦えと言っているかのようだ。
ドワーフの国王が魔王と共にハイド王家主催の蟹漁及び船上宴会に参加するようになったため贈られたと思われるが、酒絡みの関係のせいで両国の関係もかつてないほどに密になったようだ。
そして魔王園長からは、子供の日も近いため『海の五月人形』が提供された。
日本人から見ても謎である、その異様な品の全容は謎に包まれていたが、どうやら家の中に置いておけるような小さな物ではないらしい。
ハイド国王夫妻はそれを見て大爆笑し、当の王太子自身も心なしか満足そうな顔でいたようで、傍で見ていたアレーデも「血は争えないな」とこっそり思ったのであった。
アレーデ嬢は、ダンジョンクライシス日本を書き出す前の、おっさんキャンプ(おっさんリメイクの当時の略称)の連載を始めてすぐくらいに作られた初期のキャラなのですが、今頃の登場です。
当時、試し書きしていた『メリーヌの恋』という帝国の陰謀・空中庭園編について書かれた外伝の冒頭に登場する人物だったのです。
キャラとしては古株なのですが、メリーヌ様がすぐ御嫁に行ってしまって出番が殆どないため、二年以上出待ちしていました。
メリド王子の出番も今になってしまいましたので、すっかり忘れられていた今頃の登場ですね。
もうすぐ発売の書籍版のWEB特別編にも、本篇には登場しない、昔から登場せずに「設定にいるだけ」のキャラが出ています。




