139-5 マニアッ玄人な方々
今回は参加してくれたエリーンが作っていた物。
それはケンタウロスタイプのヒナダムGだった。
確かにケンタウロスといえば射手座サジタリウスという事で、弓を番えているイメージはあるのだがな。
こいつは女性タイプだ。
男性タイプとは違って胸当て付きだ。
たとえヒナダムGとはいえ、おっぱいは隠さないとな。
ここは幼稚園なのだから。
しかも胸当てさえ各種のデザインやカラーを選べるので、その辺の細かい仕様も御洒落なエリーンにはポイントが高かったか。
比較的シンプルな装備を好むチームエドにおいても、一人だけプレミアで御洒落な感じの装備に拘っていたらしいからな。
最近はゲームやアニメに登場するものか、女性のケンタウロスも少なくないらしい。
俺達の世代は子供の頃から、いろいろな作品でケンタウロスとして御馴染みだったので、そう呼ぶのが好みだ。
昔は出典であるだろうギリシャ語でケンタウロスと呼ばれていたのが、今では何故かラテン語系のセントールになってしまっている。
日本で英語読みはセントールと呼ぶのだろうが、英語読みなら個人的には競馬で御馴染みのセントウルという呼び名が好みかな。
準小惑星セレスとケレスの読みのように、CEをセと読んだりケと読んだりして、ややこしい。
無理やりに読めば、ラテン語系統でもケンタウロスと読めない事もない。
特に日本語は英語やフランス語が和製英語として一つの言葉の中に混在していたり、文部科学省や外務省などの都合で、ある瞬間を以って同じ物を違う言葉で言い換えたりしてしまうので、更にややこしい。
「こいつは最高です。
走るために生まれてきた動物、馬。
その体躯に弓を射るための人の半身が乗る。
これは私のような弓士の冒険者としてはもう、一種の理想の形なのではないかと」
「そうか。
こいつの操縦は鞍に跨り、足の方は自分の足で鐙を押したり、体を使って挙動を伝えたり、鞍を載せた筐体を蹴って合図を出したりなんだ。
かなり玄人向けだが、お前なら操縦しながらでも弓を撃てるだろう。
ある程度は声でも動かせるしな。
ただし、弓を撃つ時はしばらく動けないから無防備だし、下半身が馬だから屈むのが苦手で、上手く相手をバラせない場合があるかもしれないぞ」
なんていうか、あれかな。
スポーツクラブなんかにある鞍型のエクスサイズ器具みたいなものか。
係の人に聞くと、あれはあまり運動にならないらしいんだけどね。
あれも面白いっていやあ面白いんだ。
あれは女の人が好きだよな。
それも男と女で骨盤の形が違うせいなのだろうか。
傍から見た限りでは女性は男性と比べて比較的楽な感じに乗っている気がするのだ。
みんな楽しそうに乗っている。
男は少し、おっとっとっていう感じなんだよな。
特に俺みたいに体の固いおっさんなんかだとな。
たぶん女性は出産のため、骨格的に足を開きやすくなっているからではないだろうか。
そういう意味では操縦システムから見ても、タイプ・ケンタウロスは女性操縦者向けの機体なのかもしれない。
鞍型エクスサイズ器具は子供も乗りたがるけど絶対に落ちるよな。
あれも小学生以下は進入禁止のエクスサイズゾーンにしか置いてないだろうから安心だ。
中学生の女の子なんかは余裕で乗りこなしている。
あともちろん、このケンタウロス・シリーズは弓の腕前がないと使いこなせない機体なのだ。
各部のパーツを止めているボタンを狙い撃ち出来ないと話にならない。
相手をバラそうと思っても『馬上』からじゃ手が届かないからな。
今回は立体機動を備えたヒナダムGなので、本来なら弓での戦いは非常に不利なのだが、この黄金の狩人たるエリーンにかかってはどうなのか。
そういう個人的な楽しみがあって揃えたラインナップなのだ。
期待を裏切らず、エリーンは迷わずこれを選んだ。
まあ四つ足での踏み踏み攻撃もあるしな。
もしかしてリヒターの奴ならば、エリーンに踏まれたいとか思うのだろうか?
生憎な事に、奴は忙しいので今日は来てはいないが。
あいつがこっちへ来ると長っ尻になるから、ドランも最近は中々気軽には寄越さないらしい。
それにあの二人、すぐ決着が付きそうにないしな。
他を見れば、エディはまたマニアックな仕様を選んでいた。
このヒナダムGのルールにおいては邪道ともいえるスタイルだが、まあいいだろう。
そしてトーヤ、それを選んだのか。
まあ奴が選びそうだなと思って用意しておいたのだが。
それにポールの機体は。
うーむ、やはりそれを選んだのか。
『御雛様ナイト』
この競技において、もっともプレミアな存在である御雛様戦士。
だが、そのビューティーヒナに付き従う騎士には、決定的なペナルティがあるのだ。
「ポール、その機体には御雛様戦士とペアで戦える特別な特権がある。
だが、その代わりに致命的なペナルティがあるんだ。
わかっているか?」
「うん。
この大会の参加資格がない、でしょ。
その代わり、御雛様戦士の騎士として仕える事が出来る。
僕はそれで構わないよ」
ああ、この子はマニアックな機体を作れれば、勝ち負けなどは関係ないんだった。
そして妹のために何かしてあげたいのだろう。
その上、ここから更にチューンナップを楽しむようだった。
ファルの機体は、元々身の軽さと高機動が売りである進撃の女神だから、今回の仕様は一番不利になりそうなのだが、そんなものはどこ吹く風だ。
レミは相変わらずの重戦車的指向で、今回はヒナダムジャイアントとして大型版であるレミ2号での参戦だ。
まあ、これで参加するのもまた面白い舞台ではあるのだ。
一応付き添って一緒に組んでやったのだが、はたしてどうなる事か。
例によってトーヤが親方達を呼んできた。
「親方、今回は親方に有利なルールなんだぜ」
「なんだ、そうか。
ではハンデとして片手一本で戦ってやろう」
「いいのか?
後で吠え面かくなよ」
ヒナダムを舐めてもらっちゃ困るな。
まあ正直な事を言えば、相手が片手一本とはいえ、この親方と好き好んでやりあいたい人などそうそうはいないと思うのだが。
何しろ、このヒナダムGは操縦者の能力を取り込む仕様だからな。
ああ、あの人なら喜んで来るか。
呼ばないと、また文句を言われちゃうかもな。




