138-6 宣戦布告
「ふう。
これはもう完璧な変身だわ」
奴は満足そうに、何故か宝塚女優みたいな感じに気取ったポーズを取っている。
相変わらず体は蟹のように横向きなのだが。
確かに人間の女には見えるがな。
だが何て言うのかな。
少し薹が立った感じの女で、それでいてキツイというかプライドが高そうというか。
なんで変身した姿で当たりの柔らかそうな若い美人にでも化けないのだろう。
スパイするなら、そっちの方が受けそうなのに。
同じ魔物でもプリティドッグなんかはそうするのにな。
毛蟹の世界では、少し年季の入った感じが年功序列で貴ばれるのだろうか。
「それで?」
「今回の戦いは、このクラブプリンセス・クララ様が総指揮を執る事になった。
そういう事なんで、一応はあんたに御挨拶をと思ってね」
「そりゃあまた、大層御苦労な事だな」
なるほど、こりゃあ連中も考えたな。
雌の蟹なら俺達に狩られないから。
万が一捕まったとしても、雌ならば生きて帰れるのだし。
まあ、戦の間は捕虜としての待遇になるわけだが。
そうなると、VIPルームというかVIPスペースを生け簀の中に作ってやらないといけないのだろうか。
一応は皇族なのだからな。
毛蟹の皇女様というわけだ。
気分はアクアリウムだな。
あれはやってみたかったんだが、かなり手間がかかって面倒だったので地球に居た頃は結局やっていなかった。
モニターに映す電子アクアリウムでもよかったが、地球では場所を取って邪魔になるので結局買わなかったのだ。
せいぜいPCの待ち受け画面に、泳ぎ回る熱帯魚のスクリーンセーバーを配置したくらいかな。
こっちから日本へ帰れた時に、大きめサイズの電子アクアリウムをトーヤに買ってきてやったら大喜びだった。
ケモミミ園にも小さいのを一個、子供目線の位置に置いてある。
初めてケモミミ園に来た子なんかが、ちょいちょいと動画のお魚に手を伸ばす様子が、また凄く可愛いんだぜ。
「では改めてクラブプリンセスよ。
今年も御世話になるぜ」
「けがに、いっぱいたべるの~」
うちの子の涎を垂らしながらのリアクションに、少々顔を引き攣らせながら奴は言った。
「ふ、魔王の一族よ。
そんな事を言っていられるのも今の内だけよ」
むう。
こいつは一体何を考えているのか。
蟹の考える事など、さっぱりわからんわ。
これは対策を打っておく必要があるか。
それに、どうも『女』の考える事はよくわからん。
クラブエンペラーは曲がりなりにも雄だったからな。
「では楽しみにさせてもらおうか」
「ああ、返り討ちにしてくれるわ」
そう言って奴はぶくぶくと不気味な具合に膨れ上がり、またゆっくりと時間をかけながら蟹の姿へと戻っていった。
こういう無防備な格好を敵の前で晒すのは少々問題があると思うの。
まあ俺達が相手なんだから、敢えて暢気な真似をしているのだと思うが。
こっちはまだ人化する時に比べて楽そうだな。
毛蟹のままで喋れるというのなら、何故人化する必要があるというのか。
やっぱり蟹の考える事はよくわからん。
まあ奴らにも奴らなりの拘りというものがあるのだろう。
地球でも、そういう生物は多い。
そして普通の柔な蟹とは違い、瞬く間に堅い甲羅を手に入れたクララは、脱皮した殻を後に残し、巨大な水飛沫と共に海へと帰っていった。
残されたそれはトーヤが標本用として大事そうに回収していた。
こいつらとの勝負は、どうしても怪獣映画のノリから離れられんな。
「さて、魔王殿。
今年はどのようにするのですかな?」
奴の変態を感慨深そうに見送っていたシドも、興味津々といった感じに聞いてくる。
「まあ、まずは小手調べにこいつからだな」
そう言って取り出したものは、例の網だ。
まず、奴らがこれに対してどんな対策を練ってきたのか見せてもらおうじゃないか。
お楽しみはそれからだぜ。
「それ、こいつを食らえよ」
そして整列した網達は、まるで生き物のように整列してから敬礼して、次々と自ら海へと飛び込んでいった。
まるで特殊部隊の兵隊がアクアラングを背負って、後ろ向きの格好で海中の作戦に向けて飛び込んでいくみたいな光景だ。
そして海中をエイかタコであるかのように泳いでいく網の群れ。
我ながら、またシュールな物を作ってしまったな。
シュール・アミイズム?
間もなくカメラは蟹を捉えたが、何だ?
水中を何かが進んでくる。
岩だ。
大量の岩が飛んでくる。
そして吸い込まれるように網に収まっていった。
「なんだ、こりゃあ」
すると映像を見ていた真理が言った。
「これは魔法ねー。
多分、蟹のじゃない奴」
間もなく、網は腹いっぱいに岩を御馳走になって動けなくなっていた。
クララに見せようと思って急遽作って、機能をかなりシンプルにした奴だからな。
よく見ると、海中に溶け込むようにして何かが泳いでいた。
保護色なのか?
ウミウシとかじゃあるまいな。
「あれは【岩の落とし子】だ」
シドが驚いたような声を出した。
「なんだい、それは」
「いや、岩を運ぶ魔物の一種なのだ。
あれで獲物を倒して、みんなで突くのだ。
一つ一つは小さいのだが、魔法を使うので群れると馬鹿にならん連中でね。
ああやって凄いスピードで岩を運んで攻撃してくるのだ。
船の底を狙われると浸水しまくりで結構厳しい事もある。
しかし奴らが毛蟹とつるんでいたとはな」
「あの連中め。
またおかしな魔物を援軍に連れてきたのかよ」
しかし、これは珍しい生態の魔物だな。
後で捕まえて飼育するか、それとも標本にするか。
もうトーヤが目をキラキラさせている。
これはやはりケモミミ学園にて飼育決定コースだろうか。
うちの子も少し興味が湧いたようで、尻尾をゆらゆらさせているみたいだ。
こいつらに水中フットサルでも仕込んだら、子供達と一緒に海水浴場やプールで遊んでくれるかもしれない。
魔物だからファルの言う事なら聞いてくれるかもしれないし。




