136-3 魔女の節分
「それで、一体何を始めようっていうのかしら」
なんで、こいつを引っ張ってきたのか。
もふもふなドヤ顔のトーヤとエディよ。
「お前が呼ばれたのか、フランネル」
「ええ、このトーヤ君達に呼ばれてきたんだけど。
何をすればいいのかしら」
「仕事が忙しいんじゃなかったのか」
「この季節は魔女業も暇な時期だし、今は学生どもが卒論の追い込みに入ったところだしね。
さあて、今年は一体何人の落伍者が出るのかねえ。
いっひっひっひ」
悪魔か、あんたは。
いや魔女だったな。
まあ、そういうのも大学教授の醍醐味っていやあ言えない事もないのか。
外国の大学は入るより卒業する方が難しいっていうからなあ。
まあ、俺には関係ないからいいんだけどね。
頑張れよ、英国学生諸君。
「フランネルって、日本の節分は知っている?」
「えーと、散弾銃に豆を詰めてナマハゲとかいう鬼を狩る行事?」
「誰から聞いた! そんな胡乱な話を」
「日本からの留学生だけど、違ったのかしら。
私、日本へは行った事がないのよ」
そういや異世界へは何度も連れて来ているけど、日本へ連れて行った事はないような気がするな。
もう、そういう事さえ曖昧であるくらい俺もフランネルも異世界に馴染んでしまっている。
「まあいいや。
相変わらず適当だな、お前のところに来る日本の学生。
どうせ王宮でやるのは真面なイベントじゃないんだ。
あの王妃様が気持ちよく勝てればそれでいいらしい。
他の人はきっとそれで諦めるだろうから。
ドワーフだけは真剣勝負で来るんだろうけどな」
「あはは、いかにもあんたんとこの国らしいわね。
まあ異世界なんだから、なんでもいいかあ」
日本の行事をまったく知らない外国人に、同じくよくわかっていない異世界の王族の和風王宮行事をやらせるのか。
どこまでいってしまうんだろうな、日本の節分。
この本物の英国魔女が呼ばれた段階で、真面な事にはなりそうもないのだが。
そう言いつつ、俺だって他人に仕事を振ったんだしね。
園長先生としては、そんな怪しげな王宮行事なんかよりも幼稚園のイベントの方が大事なんだよ。
「まあ、人死にが出ないように気を付けて、あとは好きにやってくれ。
じゃあ任せたぜ、プロフェッサー」
「任されたわ。
さてさて、それでは御狐さん達。
私は何をすればいいのかな」
「あのね、あのね、新しい魔法をさあ」
聞きたくない、聞きたくない。
というわけで俺はケモミミ園の飾りつけの方に行った。
今は子供達が教室の後ろに張り出す絵を描いているところだ。
やっぱり圧倒的にゴブリンが優勢だな。
結構悪そうに描いてある。
マリーの絵は、なぜかゴブリンが御菓子三昧だ。
他にはゴブリン対ドワーフ、巨大ゴブリンと対決するゴン太らしきドラゴンの絵などもある。
そしてなんと、魔道鎧を纏った俺らしき人物がゴブリンの大群の山のような屍の上に立ち、腰に手を当てて高笑いしている絵なんかもあった。
ひえ~。
も、もしかして、園児から見たら俺はこういう風に見えているのか?
さすがに教育者として反省しなくっちゃあな。
教育上、大変よくなさそうだ。
中にはブラウンゴブリンと一緒に御飯をしている絵とか、彼らと一緒におやつを食べている可愛らしい絵とかもあったが、節分とは何の関係もない。
なんだか、ゴブリンお絵描き会みたいになってしまっている。
副園長の真理が、魔法でゴブリンを吹きとばしている絵もあった。
それを描いたのは、確か真理が迷宮で魔物達から救ってケモミミ園に連れてきた子達だな。
きっと女神様のように想われているのに違いない。
なんというか、荒事専門の荒神様だ。
どんな女神様なんだよ。
地球の神話じゃメジャーどころではギリシャ神話のアテナくらいしか思いつかん。
インドのパールバディなんかも、その類だったかなあ。
「まあいいかあ、全体的には可愛い絵が多いんだし」
うちの園は、その全てがこんな調子なのだからいいんだけど。
こんな事を言うのは今更なのだが、俺は日本で教育者としての資格を持つというか、その手の教育を受けた正規の園長先生ではないのだ。
単に子供をたくさん拾ってしまったので、育てるついでに教育しているだけに過ぎない。
まさか、ここまでたくさんの子供の面倒を見る事になろうとは、あの頃は思わなかった。
真理があんなに子供を拾い集めてくるとは想像も出来なかったので。
今ではそれも俺の幸せのうちだからいいのだが。
とりあえず、行事行事っと。
だがさすがの俺も、まさか王宮の方があんな事になっているとは思ってもいなかったのだ。
「さて、飾りつけの方はどうかな~」
そっちの方は葵ちゃんがやってくれているので安心だ。
『鬼は外、福は内』
そう達筆で書かれた色紙に、真っ赤なプラスチックのお面が飾られている。
その横には柊と南天が飾られていた。
昔はうちに南天の木が植えてあって、よく仏壇に飾ってあったものだ。
赤い実がついていない葉っぱだけでも飾っていたし。
柊みたいな木もあった気がするな。
花が咲くとスズメバチが集ってしょうがなかったので切ってしまったけど。
もちろん色紙を書いてくれたのは山本さんだ。
瑠衣の無病息災も願っているのだろう。
あの人、本当に多才だよな。
和風な事なら何でもお任せだ。
不器用な俺の対極にあるような方だな。
稀人文化命である我が家には必須な人材だぜ。
離宮の方の分も御願いしておいたので、あちらは大きくて立派な奴が額に入れられて飾られている。
これには大魔王シェルミナ様も大感激だったようだ。
「稀人流では、このグランバースト公爵家に敵う家はありませんね!」
まあ、トーヤ達なら情報量には事欠いていないのだが、あいつは日本にそう執着しているわけではない。
日本の製品や技術には興味があるみたいだし、遊びに行くにはいいところだとは思っているようだが。
もう今では日本もたいした事はないしな。
規制大国日本は、少子化と相まって今はもう世界から完全に遅れ気味なのだ。
それも年々周回遅れが酷くなる一方だ。
二十世紀から二十一世紀にかけてのIT関係の出遅れは特にまずかった。
まさに世紀の出遅れっていう奴だ。
経営者がケチで技術者・研究者に金を払わない日本特有の体質は致命的だった。
人材はたくさん金を払ってくれる海外企業へ技術諸共に流出した。
もう搾取しようにも、日本には人口も人材もない。
緩やかな死が待っているだけだ。
ドローンやAIあたりの最新新技術なんかにおいても、活躍するのは米国や中国あたりで、日本の出る幕なんかどこにもない。
せいぜい、連中が上から零してくれる菓子屑程度の御零れに与るのが精一杯だろう。
日本が輝いていたのは、ほんの一瞬だけの閃光のような耀きだけだった。
俺はその刹那の中を青少年時代に生きた。
政治の荒廃は致命傷だった。
その辺りは政治に関心を持たず選挙に行かない日本国民も悪い。
構造改革をやれない国は亡ぶだけなのだ。
日本の国は、それを何度やろうとしても体質的に駄目だったのだから。
それが岸壁に砕け散る白瀚の如くに淡く新聞やテレビの報道の中で虚しく消えていったのを、俺は溜息を吐きながら見聞きしていた。
この先も何一つ変わらないだろう。
一人の日本人としては、実に残念極まる結果だ。
この世界の、稀人国王を祖に持つ人達には決して言えない事なのだがね。
また懲りずに新作をアップしました。
『DNAにセーブ&ロード 【前世は散々でしたが、他人のDNAからスキルを集めて、今度こそ女の子を幸せにしてみせます】』
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