132-5 王子様のイブは終わらない
「ひゃああ、ノルマ、ノルマ~」
「ヤベエ、マジでヤベエ~」
そんな会話をしつつ、白銀の世界の夜空を真っ赤な装束に身を包み、ソリに乗って突き進む二人のケモミミ王子。
それは言わずと知れたトーヤとエディの御狐コンビだ。
御伴をするのは、例によってカーバンクルのロイネスである。
「ねえ、トーヤにエディ。
もうクリスマスは、とっくに終わったよ。
地球のサンタさんも、もう正月休みに入ったんじゃないの?」
相変わらず、容赦なく突っ込む白い奴。
「ええい、うるさい!
これはもうクリスマス云々じゃなくって、エルドア王国の議会で正式に決まっている王子の公務なの!
ちゃんと国民に対する奉仕をこなさないと、暮れも正月も無いんだからね。
くっそ、映画出演とかで、ちょっと遊び過ぎたわ」
それを聞いて呆れかえった、もふもふなカーバンクルのロイネスを連れて、ひたすら自国の夜を駆ける二人の王子。
トナカイ役をしている御友達精霊スカイドラゴン・ペドロからの失笑を御伴に、御狐王子のコンビは、とっくにクリスマスの終わった世界の空を、可愛らしいサンタ姿でひたすらソリを飛ばすのであった。
もう異世界地球では、この季節恒例であるアメリカのノーラッドによるサンタ追跡プログラムもとっくに店仕舞いした頃だろう。
そしてクリスマス・コンパスが導いた場所はエルドア王国の北方にある辺境だった。
そんな中、雪が積もった庭の御手入れをしている少女がいる。
「メイユリア。
お前は目が見えないのだから、雪で足を滑らせないように気を付けなくては!」
そう言いながら、自分が見事にすっころんでいくドワーフの親父。
「もう、御父さんったら。
私は小さい頃から目が見えないから大丈夫だけど、御父さんはもう歳なんだから」
「何の、儂はまだまだ~」
「ふふ。
庭の木達も雪が積もり過ぎていて可愛そうだったから、軽く掃ってやっていたのよ」
そんな親子を、一面の雪景色の中でそっと見張っているトーヤ達。
「ふふっ、おいらって雪の中じゃ保護色さ~」
「でも炬燵とかが大好きだよね」
「そりゃあもう!
あんな良い物が日本にあったなんて!
初代国王船橋武ったら、あんな素敵な物を隠しておくんだもの」
妙に憤慨するロイネス。
どうやら身も心も炬燵の魔力に囚われてしまっているようだった。
カーバンクルってネコ科の精霊だったのだろうか。
「あのね、園長先生じゃあないんだから。
あの人は体一つでこっちの世界へ来ちゃったんだし。
園長先生みたいにあれこれ持ってきていてコピーしたり、セブンスセンス能力を持った龍王なんかじゃなかったんだよ?
そんな無理を言っちゃダメ」
だが、ロイネスも負けてはいない。
「その龍王様は、ラーメンはおろか、うどんの一つも作れなかったと聞くけどな」
「馬鹿、馬鹿、馬鹿。
あの最初に御馳走になった肉スープうどんは、とっても美味しかったんだよ。
あの頃に麺やスープを作ってくれた御爺さんも、今ではアルフォンス商会と取引のある製麺所グループの会頭、いや大会長だけどね」
「うわあ、思わず涎が出そうな話だよね。
それは是非食べてみたかったなあ」
それを聞いて残念がるエディ。
この寒空で頭に雪を積もらせて見張っている状況では、その思いも一入だ。
「いや、エディも最初のスープとかシチューとかは、実にいい食べっぷりだったよね」
「御蔭様で、まだなんとか生きております!」
そんなサバイバルチックに、人生というか生を噛みしめているエルドア王国の王子達。
エルドアの国民が頼りにするのもわかろうという、ここまでの人生のバックグラウンドだった。
そして、今まさに国民達にその成果を見せようという時なのだ。
「さあ、御父さん。
家の中に入りましょう。
夜は冷えるわ。
でも見て。
きっと、この雪は綺麗なんでしょうねえ」
それを聞いて思案する、もふもふな軍団。
その雪の中で固まってミミ寄せ合う姿は、まるで可愛い雪ウサギ。
寄り添って家に入っていく彼らを見て、こそこそと相談する子供達。
「どうしようか。
この腕輪のゴッド魔法やエリクサーに物を言わせるだけじゃ、国民の皆様に対する至高のサービスとは言えないよね」
「じゃあ、どうする~」
「感動を!
彼らだけではなく、その話を聞いた全ての人が感動出来るような珠玉の物語の演出を!」
いい思い付きではあったのだが、なかなか良い案が浮かばない一行に対してクリスマス・コンパスが提案した。
「ちょっといい考えが浮かびましたよ」
「何だい、マホラ」
「もう!
魔法の羅針盤は、とっくに廃業しましたよ~」
「でも、また続編で御呼びがかかるかもしれないよ」
「えー、それも悪くはない御提案ですけど、本業のクリスマス・シーズンは勘弁してください。
というか、人の話はちゃんと聞いてくださいな」
「お前って、人じゃないよね」
「それはそうなんですが、それを言ったら、そもそもこの場に人族は誰もいませんよ~。
えーと、それで提案の内容はですね……」
そんな漫才のような会話が繰り返されていたが、子供達もクリスマス・コンパスのアイデアを聞いて、それも悪くないかなと思うのであった。
「では、皆さん。
打ち合わせの通りにいきましょう」
「「「おおー!」」」




