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131-20 座布団俳優の演技

「さて、行くぞ」


 気絶したアレックスはトロッコに放り込まれ、人間座布団の役を拝命しているようだ。

 トーヤとロイネスが楽しそうに、彼を床へ丁寧に敷き詰めている。


 そいつだって、最低でも年に数百万ドルは稼いでいる人気俳優なんだけどな。

 去年は軽くワンフィンガー、1000万ドル以上は稼いでいたはずだ。

 もしかしたらCM出演でたっぷりと稼いで、ツーフィンガーくらいはいっているかもしれない。


 ジョゼもいいのかなとか思いつつ、敷かれてしまった以上は仕方がないので、その上に渋々と座る。


 この男、よくジョゼママに連れられて家にまで遊びに来ていたりしていたのだ。

 小さい頃からの顔見知りだそうで、よく遊んでもらったものだそうだ。

 こいつから見て、ジョゼはまさしく『御嬢様』であったのだ。


 というわけで、今日も実質は俳優ではなくて撮影中の世話係としての出演なのだ。

 今は座布団役を拝命しているようだが。

 まあトロッコの中では、ある意味で主役といえない事もない。

 なんというかこう、座布団執事的なもの?


「さあ、行くぞ」


 親方はトロッコに左足をかけ、その大きな両の手でトロッコを掴んだ。

 そして右足で蹴った。


 そのたった一蹴りが生み出す膨大で爆発的なトルクにより、重量感のあるトロッコが凄まじい加速で動き出す。

 全ての物理法則に悲鳴を上げさせ、錆びた鉄製のトロッコが軋む。

 なんか目的地に着くまでにトロッコがバラバラになるんじゃないだろうか。


 いや、これはきっと親方が自分で打って作った品なのに違いない。

 よくよく鑑定してみたら、いい具合に錆びさせた鉄を被せた下にあるのはオリハルコンじゃないか。

 俺が昔親方にやった悪戯の、アルミを被せたオリハルコンの事を思い出した。

 親方の御気に入りのアルミ絡みの話だから彼も忘れていないんだろうな。


 映画の中の物って鑑定が利くんだなあ。

 おそらく、あっちの世界の魔法金属製だからなのだろうが。


 こいつはキックボードの要領かな。

 親方はあれが好きで、トーヤと一緒によく乗り回している。

 無論、市販の製品では彼のパワーに耐えられないので自作の品だろう。

 あれもフレームなんかオリハルコン製だからなあ。


 昔は俺も会社でハンドリフトをキックボードのように乗り回していたものだが。

 あれを完璧に乗りこなせたら、自動車産業では仕事も一人前だよな。

 工場構内のコーナーはドリフトでこなし、スピンターンもお手の物、激しいスキール音を立ててピターっと定位置に格好良く止まれば、皆笑顔になる。


 今の俺のパワーなら圧倒的な超絶パワースライドが可能だろう。

 床を船橋コンクリートにでも替えておかないとヤバイ事になりそうだが。


 今度、地球へ行ったらハンドリフトを買ってこよう。

 重量級の丈夫な奴がいいよな。

 あれは糞重たくて仕事で使うには最悪な代物だったけど、今乗り回すのなら頑丈で最高の代物だ。

 魔法金属に材料置換して、俺のパワーに耐えられるように改造しよう。


 それにしても、親方はなんて楽しそうな顔をしているのだろう。

 あれは、しばらく癖になるかもしれない。


 しばらくの間、アトリエパレスはトロッコブームになるかもしれないな。

 元々材料の運搬用に結構トロッコ用の線路が敷かれていたからな。

 トロッコブームで宮殿内が線路だらけになっていたりして。

 そんな事にでもなっていたら俺もマイトロッコ持ち込みで遊びに行こうっと。


 だが映画の中では遠慮なく、ぐいぐいと線路に蹴りをくれていく親方。

 俺謹製のセットが悲鳴を上げていそうだ。


 その後方は無残な穴だらけだ。

 わざと古びた趣に作った枕木は砕けまくり、線路の地面には爆撃でも食らったかのような大穴が大量に開いている。


「ひゃあ、すごいすごい」


 トーヤの可愛いミミが猛速の風に揺れる。

 その楽しそうな様子に親方の目も細まる。

 親子の楽しいドライブだ。

 エンジンは父親だけど。


「ああ、皆さん。

 御楽しみのところ、(まこと)にあれな話なのですが」


 突然、魔法の羅針盤マホラが話しかけてきた。


「なあに?」


 やっぱり楽しいのか、ちょっと油断していたジョゼが迂闊に答える。


「間もなく下に落ちまーす」

「馬鹿~、そういう事はもっと早く言えー」


 親方も、キックトロッコを楽しみ過ぎてしまっていて、いささか前方不注意だったようだ。

 少し小高い丘になっている部分を超えたら、その先が見事なまでの崖になっていた。

 このセットを作った本人である俺は知っていたけど、まあ映画の中の話なので如何ともし難い。


「うわ(楽しい~)」

「ひゃあー(ちょっと勘弁してよ!)」


 何しろ普通の映画と違って本当にトロッコで崖から宙に飛んでいるのだ。

 出演者全員がスタントマンであるようなものだ。


 安全とわかっていても、ジョゼなら少々ハートに来るものがあるだろう。

 テーマパークのアトラクションとは訳が違うのだから。

 空中で見事にひっくり返ったトロッコから、全員が放り出されて見事に落ちていく。


 普通のファンタジー映画なんかだと、危機一髪を切り抜けてトロッコは無事に到着するものなのだが。

 この映画、俳優自身の体当たり演技も売りの一つだなあ。


 演技というか、素人を過酷な状況に放り込んで、そのリアクションを楽しむといった風情なのだが。

 ドッキリカメラならぬドッキリ映画だ。


 ジョゼママめ、いつもは忙し過ぎて中々コミュニケーションが取れない愛娘と、この機に思いっきり楽しみまくるつもりだったのに違いない。


「ん? あれ、どうしたんだ、俺は」


 また妙なタイミングで目を覚ますアレックス君。

 奈落の底へ落ちていく状況へ寝起きに遭遇し、目を白黒させる。

 そして叫ぶ。


「うわあああー」


 もう、これ演技じゃなくって素だよな。

 目ん玉を見開いて面白い表情を連発し、手足をバタバタさせながら落ちていく。

 この辺の演技なんかは黒人俳優が実に上手い。


 確か、こいつが主役をやった映画で、敵の親玉を倒してからビルが倒壊するシーンがこういうものだった。


 だが今回は、結構台詞(さけびごえ)も迫真のものだ。

 その上なんというか、芝居がかっているというか、映画の台詞っぽい感じに。

 いや、これも全世界で公開する映画の中の台詞なのだが。


 さすがはプロ、いきなりアクシデントに遭っても、きっちりと合わせてくる。

 もはや『アクシデント芸人』だよな。


 そのジョセフが主演していた映画だと、相棒の女性がヘリで駆けつけて吊るしたホイストの先にあるフックで、ジョセフが演じる主役の元刑事を空中で見事に引っ掛けるんだよな。

 あれは実に凄かった。


 なんというか、ジョセフの迫真の演技が一番凄かったのだ。

 中々引っ掛からない鋼鉄のフックが何度も通り過ぎてしまい、必死に掴もうとするが簡単には捉まらない。

 そして、あわやというところでガキンっとフックが防弾着に引っ掛かって事無きを得るという感じで。



 そして場面は切り替わり、一行はなぜか森の中に転がった。


「ぶはあ」


 ほぼ「気をつけ」のポーズで顔面からスライディングして、その上にジョゼ・トーヤ・ロイネスをまとめて受け止めて、また失神しているアレックス君。


 さすがに親方を乗せるのは無しにしたようだ。


「皆さん、コングラッチレーション。

 無事に結界を抜けましたよ。

 あと一つ結界を抜ければ、美食魔王エリーンの城です」


「うわー、死ぬかと思ったー」

「凄かったよね!」


 もう大興奮のトーヤ。

 ミミと尻尾の動きに演技は要らないようだった。


 もうミミも尻尾もピカピカだ。

 艶出しのための、特殊な魔法のワックスを使っているし。


 むろん、これは魔女フランネルがトーヤ達のために特別に調合してくれた魔法のワックスで、御誕生日月の子が誕生会で写真撮影する時とかのためにも買わせてもらっている物だ。

 最初はうち向けだけの商品だったのだが、どうやらハンボルト繋がりでジョゼやベルーナのところにも販売されたようだな。


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