131-19 お約束のもの
一行が、また砂だらけになって放り出された先は街道?
いや、これは草の生えた線路か。
目を凝らすと、前方に錆び付いたトロッコが見える。
ついに出た、この手の作品では御約束のアイテムだな。
どうせなら坑道でのシーンが見たかったぜ。
ということで一行はトロッコに向かって歩き始める。
「ねえ、御父さん。
あれに乗るの?」
わくわく顔が止まらないといった感じのトーヤが訊く。
ミミの動きから見て、本当にわくわくしているんだろう。
台本で知っている次のシーンの展開に。
「おう。
そうするか。
女の子もいるからな」
もう担がれてはいないジョゼにチラっと目をやった親方。
普段なら、絶対にそんな気配りはないのだが。
カーバンクルは、ちゃっかりと親方の肩に上って楽をしている。
なんの警戒もなくといった風情で、あっさりと近づく一行。
すると中から巨大なウサギが飛び出してきて、そいつの額にはスペイドのマークが輝いている。
うーん。
トロッコの中で、可愛く丸まって出待ちしている姿とかを見たかったな。
ファイティングポーズをとり、「魔王様の島を荒らす不届き者どもめ。かかってこい」を、一生懸命、身振り手振りで表そうとしている姿が堪らないぜ。
俺から見ると可愛らしさしか伝わってこないのだが。
普通のハイラビットって体形がすらっとしていてウサギ離れしているんだけど、この四天王クラスって小さなウサギみたいなスタイルで可愛いんだよね。
その体形の主な正体は圧倒的な量を誇る筋肉なのだろうが。
トーヤがまた特製ニンジンを投げようとすると、スペイドはニヤァっと笑って両手にニンジンを取り出した。
よく見ると腰のあたりにおやつ袋をつけていた。
まあトロッコの中で待っていると、確かに御腹も空くよな。
そしてボリボリと貪り食うと、つかつかとトーヤのところまでやってきて、手早くニンジンを奪い取って優雅に齧りだした。
美味そうに、殊更ゆっくりと味わって食っている。
なんか表情も、うっとりしているような感じだし。
他人の奢りで食うニンジンはまた格別な味らしい。
そしてズンズンと残りの一向に向かって挑んでくる。
トーヤは可愛さ担当なのであって戦闘要員じゃないからな。
「ちょっと、寄らないで!」
ベルーナ・ウサギにあまり良い思い出のないジョゼが、思わず後ずさる。
もちろん、その辺も考えてのウサギ起用なのであった。
子供に受けそうな可愛らしい姿をしているというのもあるのだが。
すーっと手を伸ばすスペイド。
可愛らしいウサギタッチだ。
ただし、そいつに捉まったら王国騎士団と同じ運命をたどりそうだが。
「よし、御嬢様。
ここは私に御任せを」
そう言って筋肉自慢の黒人俳優ジョセフは進み出る。
あのなあ、これはお前がいつも出ている映画とは違うのだぞ。
相手は地球産の格闘ウサギなんだからな。
スペイドは『開始線まで戻って』ペコリっと可愛く礼をすると、二本足で駆け出していく。
そしてジャンプ。
空中でくるりっと態勢を入れ替え、ウサギ・ドロップキックが見事にハリウッド俳優へ向けて炸裂した。
格好良く、いつものアクション映画のようにポーズを取っていた主役気取りの彼は、グルグルと見事に転がっていき気絶した。
ほら言わんこっちゃない。
こういう、いつもはナイスな活躍をする有名俳優が無残に扱われるのも、この映画の醍醐味だ。
さすがハンボルト映画は金に糸目をつけていない。
特に今回はセットなどにかける費用が要らないので、そっちに極振りで金をかけているらしい。
今時の普通の映画とは違ってCGも殆ど使っていない。
申し訳程度に体裁を整えるのに使うくらいなのだ。
またその分、一つ一つのCGにも余裕過ぎる金がかけられるので、そのクオリティは非常に高い。
白目を剥いているアレックス君には、武士の情けでトーヤがポーションを垂らしてやっていた。
通常の色気のない透明瓶に入れられた奴ではなく、映画向きの化粧瓶に入った綺麗な色をした奴だな。
だが、スペイドの快進撃はここまでだった。
続いて無謀にも親方に挑むが、ひょいっと体をずらされて避けられ、空中でパシっと首ねっこを掴まれた。
そうされるとキュっと目を瞑る様子が相変わらず可愛らしいな。
この辺は、やっぱりウサギだよなあ。
すぐに肉食動物に狩られてしまい、生存競争は子供を産む数で勝負するしかない弱小多産草食獣の性なのだ。
このウサギは別に弱者ではないのだが、まあ種族特性っていう奴だな。
単に親方が強烈に人外の強者であり規格外なだけだ。
「これは今晩のおかずにするか」
それを聞いて、慌てて空中でじたばたするウサギ。
高身長の親方の手で頭の上まで持ち上げられているので、どう足掻いたって足は地面に付かない。
親方も、この辺の思考が俺と一緒だ。
俺も親方と気が合うわけだな。
だが親方はポイっとウサギを投げ捨てたので、奴は大慌てで逃げていった。
「これ、どうやって動かすのさ」
ロイネスがぺたぺたとトロッコを触りながら聞いてくる。
「うーん、坂じゃないから動かないよね」
「何、これはな」
だが、親方も台詞を全部言えなかった。
トロッコの両側の荒れた草地から、二匹のウサギが宙に飛び出して襲ってきたからだ。
本気の攻撃だ。
礼は割愛されている。
ウサギの館の主と同等以上と見做されているようだ。
確かにその事実に間違いはないのだが。
むしろ只の人間のくせに、そのように親方と肩を並べるほど格闘ウサギから評価の高い、あの館の主の方が常軌を逸しているのだ。
どういう鍛え方をしているんだか。
ウサギどもは口に竹の筒を咥えている。
土遁の術か。
ここまで芸を覚えるウサギも珍しいだろう。
本来、ウサギに芸などありえない。
やっぱりこいつらって、金に糸目を付けずに遺伝子工学を使って作られたのだろうか。
それに関してベルーナは否定しているらしいが。
そして肝心のウサギは、嬉しそうな親方の両手で顔面にアイアンクローを食らっている。
ウサギども、ゴールドとチーフはじたばたしていたが逃げられるはずもない。
そのままぐいっとばかりに高々と掲げられて、やがてぐったりした。
そしてポイっと投げ捨てる親方。
まあ、あれでもそれなりに手加減はしてくれているのだが。
ドラゴンさえも手玉に取れるような凄まじいまでの強者に戦いを挑む事が出来て、ウサギ達もさぞかし本望な事だろう。
これで四天王は全滅か。
あとは帝王アレクが残っているだけだな。




