131-10 魔女サミー登場
「頼みの兵士達はやられてしまった。
アレックスも行方不明よ。
冒険者さん達も。
どうしたらいいの!
ああ、御父さん!」
若干棒読み気味にジョゼの台詞が流れるシーンが密かに俺の笑いを誘う。
この映画一番の大根女優であるのに間違いあるまい。
女優さんも大物しか連れてきていないのだから。
彼女達も、ほぼエキストラ扱いだけどな。
どうやらジョゼが主役(子役)のようなのだが。
しかし相方の少年の方は、まったく具合が違ったようだ。
「大丈夫だよ、マリエッタ!
この世界には今、魔女サミーがいるんだから。
きっとマリエッタの御父さんは連れ戻せるよ」
流暢に英語(米語)で喋るトーヤの台詞は滑らかそのもの。
キングスイングリッシュさえ使いこなすのに、ここは敢えてハリウッド映画用にアメリカ英語で訛るトーヤ。
並みの日本外交官など遥かに上回る能力の持ち主だ。
腕輪の力なんか微塵も使っていない。
あれを翻訳装置として映画出演に使ったら一体どういう事になるんだろうな。
エリーンの奴も英語はペラペラだ。
既に英語圏で食い倒れる準備は万端のようだ。
それもあって映画に出ているのだろう。
得意の御愛想でハンボルト関係とも仲がいいしな。
異世界ホームレス幼児出身のトーヤが、語学力・演技力で、世界ナンバーワン国家アメリカの上流階級頂点となる家の住人であり、また有名女優の娘でもあるジョゼを完全に圧倒していた。
まあ今では地球とも取引のある国の王子様なんだけど。
「そ、その魔女サミーは今どこに?」
「世界のどこかにある魔女サミーの館さ。
でも困った時には彼女の名を呼んでみるんだ。
困った子供のために、きっと彼女は助けに来てくれる」
しかし魔女サミーのリアル館の住人でもあるサミーの実の娘は、どうやら次の台詞を無様に忘れているようだ。
まあ、ここは父親を攫われて、少々挙動不審であってもいいシーンなんだけど、こういうところを映画の評論家はよく見ているんだよね。
特に大スターの子供だから、余計に見る目は非常に厳しいだろう。
ジョゼママは凄い仕事人だから、厳しい批評を出してもハンボルト家から多分クレームはつかないはずだ。
だが、そのような些事には微塵も揺るがない狐獣人小学生は、いかにもな感じの皮袋を取り出すと掲げ、台詞を続けた。
どうやらトーヤは、無様に台詞を忘れてしまったマリエッタの台詞などは勝手にパスするつもりらしい。
これも普通ならNGで、監督がカットしてやり直すシーンだろうに。
トーヤの奴め、本当に強引な奴だなあ。
監督も面白がって、そのアドリブに乗ったようだし。
「これは魔女の羽根。
魔女サミーを呼んでくれる魔法のアイテムさ」
トーヤは袋から取り出した美しい虹色の羽根を手に持っていた。
そう、これは本物の魔女フランネルが作った地球版のマジックアイテムだ。
英国ハンボルト本家が、彼女の研究の長年に渡るスポンサーだった関係で、フランネルがこういう仕事も請け負っている。
その美しい七色の羽根は淡く光ると、やがて眩い光を放ち、それは光の尾の弧を描き、異世界の空を駆けて行った。
やはり本物のマジックアイテムは迫力が違うぜ。
映画の上映画面でもピカイチで映える。
さして間を置かず、この異世界のジャングルに、人の高さを越えるサイズの色々な色合いに輝くクリスタルの多角柱が何本も現れる。
その柱を結ぶ形で、その中心の地面に描画されていった光で描かれた五芒星の中から魔女サミーが現れた。
ちょっと、ほっとしている様子のジョゼ。
特に出たかった訳ではないのに、なんとなく流れで映画に出演しているだけなのだろう。
母親の仕事に興味が無いわけではないのだろうが。
トーヤと組んでいるところをみると、こいつが強引に誘ったのかもしれない。
一応、主役はこの二人!
「おやおや。
こんな異世界で、可愛い子供達に呼ばれてしまうとはね。
私はこの異世界にしか生えていない特別な薬草を摘みに来ただけだというのに。
おやあ、その顔は何か困っているんだね?」
ジョゼママ・魔女サミーは、娘の顔を楽しそうに首を傾げて覗き込みながら、ゆっくりと手の指を自分の体に向けてかきこむような動作をしている。
その手に提げられた籠に入っているのは、精霊の森産であるエリクサーの原料だ。
薬草に分類されるものなのか、あれ。
どう見ても毒キノコにしか見えない代物なのだが。
まあ、確かに奇跡の霊薬エリクサーの主原料ではあるのだけれども。
まあ、魔女のアイテムとしてならぴったりのビジュアルなのだろうから、それを評価されての映画への登用なのだろう。
きっと撮影後には、撮影クルー全員でキャンプ御飯の材料として美味しく頂いたのに違いない。
そいつの味に関しては、味に煩いうちの食通達からも保証付きなんだからな。
それからジョゼママは、スタッフ状の魔法の杖で地面を突きながら二人の周りを回るようにする。
これも当然の事ながら魔女フランネルの店で特注した本物の魔法の杖だ。
ジョゼママは実際に魔法を使えない筈だが、プロだから道具には拘る主義らしい。
スタッフ系の杖は、この異世界アスベータにおいては魔法使いの冒険者が用い、時には魔物の頭をこれで殴って仕留めるほど頑丈な得物でもある。
「魔女サミー、ドワーフの御父さんから貰った魔法の羽根であなたを呼んだんだ。
マリエッタの御父さんが行方不明なの。
ドラゴンに連れていかれてしまったんだ。
他の人も行方不明なの。
僕の御父さんも。
御願い、助けて魔女サミー」
そこで、何度も頷くようにしながら杖で大地をコンコンとついて、魔女サミーは言った。
「ふむ。
ドワーフの父親か。
あれには世話になったので、私の羽根を持たせておいたのだったね。
娘、お前の父親を連れていったのはエターナルドラゴン。
この島の主、魔王エリーンの配下の者だよ。
お前達は、あの魔王を怒らせたのさ。
この島は美食魔王エリーンの住む島、美味しい物がたくさん獲れるので有名な島だからね。
断りもなく島に入ってはいけない事になっているんだよ。
私は彼女との約定に従い、薬草を採らせてもらっている身の上だ。
お前達は、断りもなく島へ踏み入り荒らしたから魔王の逆鱗に触れたのさ」
「あ、あの。
私達を助けてはもらえないんでしょうか」
「無理だね。
私は表立って、お前達を助けてやるわけにはいかないんだ」
それを聞いて項垂れてしまうマリエッタ。
だが、普段はあまり一緒にいられない母親との映画出演は少し楽しいのかもしれない。
堅さがだいぶ取れている気がするな。
だってジョゼママったら、娘の顎に手をかけて隙を見てくすぐろうとしているし。
「ちょっとやめてよ、ママ」という感じに顔を顰めるジョゼ。
御蔭でちゃんと場面に合った表情になっているようだ。
女優並びに母親業の両プロであるジョゼママも、娘との初共演は楽しいようだった。




