131-4 砂浜にいるのはフナムシとかじゃなくってよ
「よし。
じゃあ俺達も監督に負けずに遊ぶとするか。
おーい、親方~」
「なんじゃ、アル」
う!
親方ったら水色と白の縞々水着だ。
しかも半袖半ズボン式のワンピースみたいな、昔のヨーロッパで使っていたような奴だ。
ある意味で、親方が着るとこれも破壊力がある水着だな。
女将さんの一般的な現代風のワンピース姿と並ぶと、これがまた凄いコントラストだ。
これも普通の人間が着ていたのなら別に問題は無いんだが。
昔、この島で王太子殿下のお見合いをやった時に着せた赤ビキニも凄かったけどね。
親方が着ると、あれも超マイクロビキニになってしまうからな。
俺が作成したサイズ補正付きの水着が悲鳴を上げていたような気がする。
俺が作った半端でない強度の物だったから弾けてしまったりはしなかったが、あれで並みの人間が作った水着なら、魔法の付与ごと引き千切れて一息に四散しそうな迫力があったぜ。
「ちょっと俺と一緒に遊ぼう。
ここでしか出来ない面白い遊びをしようぜ」
「ほう?」
「名付けて、浜辺の蟻地獄デスマッチ。
ちょっと手本を見ていろよ?」
そして俺は兼ねてから用意しておいたそいつを、アイテムボックスから呼び出した。
もちろん蟻地獄デスマッチなのだから、出てきたのはでかい蟻地獄だ。
ただし、全長四メートルくらいはあるかな。
「園長先生、その子は~!?」
もちろん、そう言って目をキラキラさせて真っ先に駆けつけてくるのは、もふもふなトーヤ王子様だ。
無論、それに続くのはエディとポールで、相手が巨大な虫なので女の子達は若干警戒しているようだ。
みんな芋虫とかには目が無いくせに。
「はは、いいだろ。
これだけ見事な砂浜があるんだ。
蟻地獄の一匹くらいはいないとな」
普通、蟻地獄は砂浜に住んでいないけどね。
巣にうっかりとヤドカリとかフナムシでも転げ落ちてきたら、体の小さな本物の蟻地獄の方があっという間に食われてしまうかもしれない。
「すごーい。
それって、ウスバカゲロウ類の幼虫だよね!?」
これが嫌いな男の子っていないよな。
なんたって姿が格好いいし、その唯一無二の生態が心を惹き付けて堪らないのだ。
俺も子供の頃はこいつの事が大好きだったのだ。
図鑑を見ているだけでは気持ちが収まらずに、近所の生息スポットまでよく探しに行っていた。
蟻地獄って、どうしてこんなに男心を引き付けるんだろう。
ちなみに俺は動物のアリクイなんかも大好きだ。
子供達も、もっと大きくなるとカブトムシやクワガタに浮気していくんだけど。
丸虫や蟻に始まり、それから蝉や蓑虫や蟻地獄へと進んでいく幼児の嗜好。
女の子だって小さな頃は、虫篭を手に提げた母親を御伴に可愛いサイズの捕虫網を持って近所の公園へ行き、相応の獲物を捜し求める。
そしてカブトムシやクワガタムシあたりだと、大人になってもエアコン付きの昆虫部屋を作っている奴までいる。
当然、奥さんからはいい顔をされていないはずだが。
一番性質の悪い男は、子供の前でいい格好がしたくてカブトムシやクワガタムシを捕まえてきたはいいのだが、後は放りっ放しで世話は奥さんにやらせる男だな。
そういうのって鬱憤が溜まりに溜まって熟年離婚や定年離婚の原因の一助になりそうだから、絶対に止めといた方がいいんだが。
やらせていた男の方はケロリと忘れているんだけどね。
でも、中にはそれでクワガタに情が移ってしまうような奇特で情の深い奥さんなんかもいるわけだが。
まめにクワガタを摘まみ上げては歯ブラシで一生懸命に、足の関節の隙間に逃げ込むダニの掃除をしていらっしゃる。
基本的に女の人から見ると、クワガタは『G』と同じ扱いらしい。
裏側から見ると確かに似ているとは思うのだが。
うちの奥さんなんか、虫は全然平気。
芋虫あたりなら食べるのも平気。
生憎と俺は全然平気じゃないんだけど。
「ああ、俺は子供の頃にこれが大好きでな。
よく御寺の境内とかへ探しに行ったな。
地蜘蛛なんかも一緒に。
ウスバカゲロウの幼虫は飼うのが難しそうだから捕ってこなかったけど、あの擂鉢状の巣を見るのがなんともいえなくってなあ。
しかも蟻を摘まんでわざわざ巣に入れるなんていう不粋な事は邪道の極みだから、絶対にやらない。
通りすがりの蟻がうっかりと足を踏み外すのを、じっと辛抱強く待って観察するのが通なんだ」
そういう時限定で異様に辛抱強い俺。
「さすが通だね、園長先生は~」
「しかし、家の前でウスバカゲロウの集団が凄い数で死んでいるのを見て、いつも思ったもんだ。
どこにこんな数の蟻地獄がいるんだよってな。
あれには思わずうっとりとしたものさ」
この世界の事だから、蟻地獄の怪物とかがいないかなと思って、結構探してみたのだがいなかった。
この世界の昆虫魔物に、あまり獲物を待っているような暢気な奴はいないのだ。
蜘蛛系も暢気に網状の巣を張るようなタイプなんて見た事がないし。
待っているタイプって街道のオオカマキリくらいしか知らないな。
俺が初めて出会った魔物グリオンは『グリオンの揺籃』と呼ばれる罠を作って巡回していたけど。
俺なんか、見事にそのど真ん中へ異世界転移していたのだ。
昔から本当に間が悪いタイプなのだが、あれはその極みだったな。
もう少しで、せっかくの異世界なのに冒険一つせずにあの世行きになるところだったぜ。
「というわけなので自分で蟻地獄を作ってみました」
「何がというわけなのかわからないけど、その子、もう砂浜に巣を作っちゃっているわよ」
そんな奥さんからの突っ込みに動じるくらいならば、このような物は最初から作らない。
それが男の性ってもんよ。
幼女達は嫌そうな顔をして、それを見ている。
「虫野郎に、御気に入りの御砂場を取られたあ」みたいな顔をしているし。
王家の女性は楽しそうにしているが。
浜辺の水分は魔法で排出しているので、巣の壁面から海水が染み出る事も無く、蟻地獄の壁はさらさらな砂だ。
間もなく蟻地獄の巣は見事な擂鉢状となり、深く穴を作りこみ奴はその底に隠れ潜んだ。
「というわけで、蟻地獄デスマッチね~。
先にそいつに捕まったら負けだな。
あるいは、先に壁をよじ登って外に出た方の勝ち。
ルールはシンプルだ。
あ、ジャンプで擂鉢の外へ出るのは禁止な」
「ふ。こんなもの勝負にならぬわ。
では、さっそく行くぞ」
言うなり、親方は豪快にその場から一瞬の内にジャンプして、数メートル先の穴へと突入していった。
もう。
これが普通の蟻地獄の巣なら蟻地獄さんに大迷惑だぜ。
だが、ここは特に心配は要らない。
俺は軽やかにフライで舞い降りた。
親方は少し宙に浮いたままの格好だ。
そこにはレビテーションで足場が作ってあるので。
「親方、気が逸りすぎだぜ。
二人共底からスタートだ。
あと、蟻地獄への攻撃は禁止だから」
「むう、あいつと戦えんのか」
さては親方、あいつを仕留めるつもりだったね?
「さあ、勝負だよ」
「うむ。行くぞ、アル」
親方、本当にわかっているかな?
俺と戦うんじゃないからね!




