131-2 ザ・異世界ロードショー
ミニョンに引っ張られてやってきた王宮の面々。
あらま、王太子妃殿下もいらっしゃるわ。
あの人もこういう物には目がないからな。
「ヤッホー、魔王様~」
「やあ、よく来てくれました」
そして王太子殿下御本人は仕事に埋もれているようだ。
御飯の時間には来れるかな。
彼も仕事が忙しいと、食事はサンドイッチなんかで簡単に済ませてしまうらしいが。
今の日本の総理と一緒だな。
「ほお、試写会という物を演るのか」
これはまた珍しい奴が来たもんだな。
「あれ、ミハエル。
珍しいな。
自分から、こんな行事に来るなんて」
「いや、こういう試写会というのも視察として見ておかんとな。
地球の映画館の奴は、いつも抽選に外れてしまっていて。
お前がよく行くと言っていたパチンコ屋の温泉へ行くと、そこの施設にある映画館でやる試写会の応募用紙をくれるのだがなあ」
俺は思わず沈黙した。
まさかこいつ、ストレス解消のために日本のパチンコ屋へ!?
きっと部下達に御菓子の御土産とかを貰ってくるのに違いない。
いや、最近のパチンコ屋さんは実に御洒落だ。
もっといい物をもらって帰るんだろう。
こいつってパチンコは上手そうな雰囲気がある。
パチンカーだらけだった職場にいた元サラリーマンの勘がそう告げる。
今のパチンコ屋は景品コーナーも凄いし、休憩コーナーも凄いんだよな。
マンガにマッサージチェアに体を温めてくれる医療機まである。
女性コーナーなんかも充実しているし。
この前、うっかり居ついたら一日帰れなかったぜ。
まさに、それこそが狙いなのだろうが。
休みの日に、うちに居たくない御父さんなどにはピッタリの居場所だ。
俺は別に家に居たくない訳じゃないのだが。
レミに蝉や芋虫を食わされそうになった時は別だがな~。
俺はパチンコは下手くそなんで、肝心のパチンコの方はまったく出なかったんだけど。
でも、たまにパチンコへ行くと懐かしくて無性に打ちたくなったりする。
「まあ、楽しんでくれよ。
一応、最新の特別シートは用意してあるんだぜ。
そいつは俺が作った奴だから楽しみにしてくれ」
「ほう、そいつは楽しみだ」
へへへ、その手の工作は御手の物なんだから。
アルスがいたら、きっと試写会を楽しみまくるだろうに。
アル・グランドの王宮にも特別に映画ルームを作ってやるか。
さすがに王様が転移魔法でこそこそと遊びに来ていると色々まずかろう。
あの国はまだ復興途中なのだから。
まあ奴が映画を見てる暇があるかどうかはまた別の話なのだが。
「アル御兄ちゃん。試写会、凄く楽しみだよ」
ルーバ爺さんとエミリオ、それに物見高いハミル王女も一緒だ。
今日はエミリオも女装はさせられていない。
その代わり、何かめかしこんでいる!
まるで何かの式典に出席するかのような、まるでチビ王太子のような格好だ。
何か煌びやかなビラビラのついたような、黄色というか金色というか、少し華やかな色合いの装いになっている。
何か勘違いしていたようだ。
俺が作務衣のままだったので、みんなも自分の勘違いにすぐ気付いたようだったが。
ハミル王女が「ちっ、しまった。それなら、御姫様の格好をさせてやったのに~」とか小声で言って、小さく舌打ちしていたように感じたのは気のせいか?
エミリオも何かを感じたものか、体をブルっと軽く震わせていた。
あれは母親も一緒になって楽しんでいるからな。
綺麗な男の子にはありがちなシチュエーションだ。
その母親といえば、可愛らしい子犬姿のミニョンをその両手に優しく抱えあげている。
安物ではない、王都の高級店にて手縫いの刺繍が施された可愛らしい花柄の犬服を着せられて、これまた可愛らしいバッグを前足に提げている。
もっともバッグの中身はエリ特製の犬オヤツだけど。
あいつは日本で評判の犬オヤツを買い回り、ついには自分のセンスで最高の犬オヤツを極めたらしい。
その素晴らしい意匠と味は、犬のためなら全てが世界一というドッグハウスの犬達も魅了する。
最近は連中も並みの犬オヤツには目もくれないらしい。
さすがに、あのジョゼも溢していた。
「いやあ、うちの子達がどんどん我侭になるう」
いいじゃないか。
犬の振り見て我が振り直せ、さ。
な!
「じゃあ行きますか。
エド、後は任せた」
「わかりました。
はいはい、みんなー。
整列ー」
このエドも少々厳つい顔をしているけれど、当たりが柔らかいので子供達には受けがいいのだ。
あのごついロイスも受けは悪くない。
彼も子供には優しいからな。
うちの子供達は幼いながらも皆、厳しい厳しい人生を潜り抜けてきているので、上辺を取り繕うような奴には絶対に誤魔化されない。
子供好きで優しいゴーレム達の魂さえ見抜かれていた。
冒険者の中でエリーンは相変わらず人気の的だ。
ちょっと手のかかるような子も、エリーンにかかったらチョロイもんだ。
よく子供の世話をしていたデニスも結構人気があったのだが、今では諦めてすっかり大臣家業に専念している。
さすが元冒険者だけあって、少々の無理ではへこたれないし。
もっとも、その手伝ってやっている当の相手である国王自体が元Sランクの冒険者なのだが。
だが、そのような話はこの世界ではありがちな事なので、そんな些事には誰も突っ込まない。
俺はおチビを抱っこして、シルと一緒にゲートを潜った。
何気に、うちの家族は『元王族』ばかりだわ。
いや、今も血族公爵家の一員なのだから王族の端くれだわな。
王国騎士団長ケインズ自らが護衛についているのだし。
今日は彼にも立ち見で映画を鑑賞してもらおう。
この人って、ああいうものには結構燥ぐからな。
子供達はエリーンが上手にじゃらしながら先導している。
相変わらず羊飼いのようだ。
もっとも羊飼いのように叱ったりはしない。
なんというんだろうな、あのムード。
独特の雰囲気なのだ。
俺が言っても聞かないような子でも、エリーンに声をかけられると吸い込まれるようについていってしまうというか。
ハーメルンの笛吹きか!
もし盗賊ギルドの人攫い部門にいたら最凶の幹部になっていそうだ。
だが生憎な事に、こいつは冒険者にして幼稚園の守護者なのだ。
幼稚園の近辺で人攫いだの盗賊だのを見たら、その弓の腕を思う存分振るう職業なのだった。
「はーい、みんなー。
映画よー。
映画を見ながら食べるおやつは、また最高の味よー」
「ほんとー」
「やったー」
うーん。
子供がこいつに懐くのも無理ないのかもしれない。
レベルが……。
そういやアルスも「小さい子の相手は苦手」とか言いながら一緒になって遊びまくり、子供達からは大人気だった。
アルスも、子供の頃に同じ世代の子供と殆ど遊べなかった悲しい過去が、ああさせていたのかもしれないな。




