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130-10 開会

「というわけで、アルバトロス大運動会を始めたいと思う。

 以上」


 相変わらず簡潔な挨拶で、碌な説明も無しに突然初めての行事を始める、このおっさん。

 そして何が「というわけ」なのか、さっぱりわかっていないようなアドロスや地下帝国のおっさん達に入場行進をさせている。


 先頭を行く、うちの子達は整然として行進しているのだが、その後に続いている人達は、ただダラダラと歩いているだけだ。

 生まれてこの方ピシっとした事は一度も無いような方々だし。

 だが、その最後を行進する奴らは違った。


『血統書付きでコンクールクラスの犬の群れ』、そして『格闘ウサギ軍団』だった。


 犬は全頭ピシっと並んで、きびきびと歩いているし、ウサギにいたっては「お前達、一体今からどこへ出入りに行くつもりだ」というような剣呑な雰囲気を醸し出している。


 勝負禁止を言い渡されてしまったので、ちょっと殺気立っているのかもしれない。

 さぞかし、いい競技をしてくれることだろう。

 やっぱりウサギの部は独立させておこうかな。

 人間側に死人が出ても困るし。


 行進には王国騎士団は参加していない。

 さすがにあれを混ぜると、ダレたおっさん達とのコントラストがくっきりになってしまうので。

 彼らは今日も演習場を、金属鎧着用のまま黙々と走っている。

 織原も騎士団長ケインズから向こうの訓練に呼ばれていたようなのだが。


「おう、織原。

 お前も、こっちに来るか?」


「い、いえ。

 今日は運動会で精進したいと思っています!」


「そうか。それは残念だな」


 本当に残念がられていたらしい。

 なんで、ああも騎士団に気に入られてしまっているのか。


 織原も、今までの人生の中で運動会がこれほど楽しいものだと思った事はなかろう。

 まだ現役の高校一年生なのだが。


 武士の情けでベル君もこちらに呼んでおいた。


「た、助かります。アルさん」


「はっはっは。

 本来なら、あっちへ行かせた方がいいんだが、まあ最近はダンジョン探索もないしねえ」


「いやいやいや。

 運動会、楽しいですよ。

 うん、絶対!」


 彼の『妹達』も、手作り弁当を持って参加している。

 既に茣蓙(ござ)を敷いた場所で、御兄ちゃんを挟んで火花を散らしていた。

 生憎な事に、本命の御姉さんは来てくれていないようだったが。

 相変わらず子供らにはモテモテなベル君なのだった。


 フィアの奴は自力で御弁当を作れなかったので、なんと精霊が手伝ってくれたらしい。

 ジェシカが手伝ってあげようとしたらしいが、一人で作らないと意味が無いからと断ったようだ。

 精霊は勘定として「人」に数えないので、フィア的には手伝ってもらってもいいらしい。

 一体どういう理屈だ。


 しかし、精霊謹製の御弁当の中身は気になる。

 これが、うちのシルフィとかが作ったのなら何も問題ないのだが。

 あの子は御手伝いをよくするので御飯も普通に美味しい物を作れる。

 あの食いしん坊なレインボーファルスの御世話係なのだし。


 俺も精霊弁当は気になるので、昼食時には呼んでくれるように頼んでおいた。

 まあ料理が得意な実の妹が立派な愛情弁当を作ってきたようだし、下宿人の娘も母親に泣きついて手伝ってもらったようなので、そのあたりの弁当の内容は特に問題はあるまい。


 量も充分にあるだろう。

 問題は、うちの部下である大神官が作った弁当の中身なのだ。

 明らかに要監視な物体だ。


 御昼は、うちの娘も一緒に連れて御邪魔する予定だ。

 レミは芋虫弁当を作りたがったので、シルに愛妻弁当を御願いしておいた。

 レミもシルのオニギリは大好きだからな。

 運動会と遠足はオニギリが大活躍する二大イベントなのだし。


「弁当のおかずは芋虫抜きで御願いね!」

「はいはい、わかっていますから」


 この前は全然わかってなかったよね!?

 夫婦の間でも、はっきりと言っておかなければならない事ってあると思うの。

 シルの御先祖様である武の奴も、芋虫は御相伴に与ったのだろうか。

 あの頃は食い物には事欠いていたらしいし、あいつの性格なら喜んで食っていたかも!


 俺は最初に食い物なんかをたくさん持ってきていて幸せだったなあ。

 ありがとう、セブンスセンス。

 ありがとう、コピー能力。



 そして行進は無事に終わり、プログラム第一回目の種目が始まった。


「はい、無限収納玉入れの始まりです」


 いきなり無慈悲な事を言い出す、実況の沖田ちゃん。

 解説は葵ちゃんだ。


「はい、解説のはぎ……じゃなかった、山本葵です。

 いやあ異世界ならではの地獄競技ですよねえ。

 無限に続く玉入れ。

 競技時間も無制限にしようという意見(ドワーフ国王子発案)もあったのですが、進行の都合でさすがにそれは無しになりました。

 それだと決着が尽きませんしね。

 まあ、それでも玉はどんどん入りますからね。


 玉は各競技者にゴーレムが一体ずつ付いて、わんこそばのように無限に御代わりが出てくる体力勝負の地獄競技です。

 のっけから競技者の振るい落としにかかっているようですね。

 赤組白組の各リーダーは、ベルグリットさんと織原君の王国騎士団ゲストコンビです。

 王国騎士団の地獄の訓練で培った根性を見せてもらいたいものですね」


 だが、只の玉入れだと思っていた二人は呆然とする。


「ちょっと……葵さん?」

「沖田ちゃん……」


 だが、沖田ちゃんから楽しそうな追加声明が出た。


「なお負けた方のリーダーは、王国騎士団訓練にて補習となりますので双方共に頑張りましょう」


 そして実況席には、いつのまにか現われた騎士団長ケインズが、褌姿でにっこりと笑顔を見せている。

 腕組みをして、どっしりと日頃の成果を見届ける所存のようだった。

 既に猛速で自分の走り込みは終えてきたものらしい。


「二人共、日頃の訓練の成果である根性を見せてもらおうか」

「えーっ」


 だが、そんな織原の肩をポンポンと叩いてベル君は言った。


「諦めよう。

 ここはどっちが勝っても、恨みっこ無しという事で」


「ベル~!」


 な、なんだか、いきなり地獄モードの大波乱になっているじゃないか。

 急に色々な競技を立ち上げたので、割と人任せにしたのがまずかったのだろうか。

 ま、まあ頑張れよ、二人共。


 国王陛下も来賓でいらしていたが、うんうんとか頷いちゃっているし。

 相変わらず、スパルタな御方だなあ。


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