127-4 職人スター誕生?
そして翌朝、何故かまた性懲りも無く集まってきたマスコミ。
どうやら鳴り物入りで始めた企画なので、日本政府がマスコミに報道を要請しているのだろうとポロは踏んでいた。
昨日犬のアレを食らった人は、さすがに来ていなかった。
多分、そいつの代わりに来させられた不幸な人がいるのだろう。
それを見てポロも独り言ちる。
「やれやれ、本当に御苦労なこった。
まあ御蔭でこっちは助かるけどなあ。
広瀬さんがあんなんだから、せめてマスコミで宣伝くらいしないと、もうどうにもならない」
そして今日は職人風の姿で現われる広瀬爺。
頭に鉢巻、前併せの和装に、同様のスタイルの下穿き。
足は地下足袋だ。
別に職人として働いていた頃から、そんな格好をしていたわけではない。
なんとなく、そんな感じが職人っぽいというか、単にそういう適当な理由での独断と偏見によるチョイスなのだ。
そして開口一番。
「言っておくが、儂は芸人なんかやらんからな!
儂は日本一の職人を目指すんだ」
もっとも、それを聞いたマスコミ達は当然のように首を捻った。
「職人? 芸能人じゃなくって?」
「国家予算でスターを作るんじゃなかったのか?」
「何の職人だよ。
よくわからんな。
誰か、もっと話を聞いてこいよ」
「嫌ですよ、あの人また何か隠し持っていそうだし。
あなたが自分で行ってきなさいよ。
昨日の不幸なあいつ、今日は来ていないじゃないですか」
互いにそう言いつつ、誰も傍には近寄らないのであった。
その様子を見て、昨日のアレが効いたかと非常に満足そうな広瀬老。
「それでは、儂はこれで失礼する」
その颯爽とした後姿を呆然として見送ったマスコミ連。
「もう何だったんだよ」
「そんな事、俺が知るもんか」
首を振る他社の新聞社の社員に向かって吐き捨てるように溢す若い記者。
「なあ、俺達ってさ。
まだあのイカれた爺さんの取材をしていないといけないのか」
「仕方がないだろ。
上の連中が、政府と約束してきちまったんだから」
「うちもそうなんだよ。
もう堪らんなあ」
そんなマスコミ連中もブツブツ言いながら帰っていき、驚く事に爺さんが自分から村山さんを呼んだ。
「珍しいですね。
広瀬さんの方から私を呼んでいただけるなんて。
一体どういう風の吹き回しなのでしょうか」
そう言って彼女は、にこにこしながら差し入れの東京駅弁をペットボトルの御茶と共に差し出した。
「うむ。
儂はスターなんかにならんぞ。
芸人ではなく、職人に復帰するんだ。
前は木工職人だった。
今度は何の職人がいいのかのう」
「はあ、職人ですか」
それを聞いた村山さんも変な顔をしている。
そりゃあ、そうだろう。
国家の力でスター老人を作るという企画なのだから。
だが、その時。
ポロの上着の内ポケットでグリモワールの手帳が光った。
それは可視光ではない、グリモワールの放つ霊光のようなものだ。
スーツの上からでも光っている事だけはわかる。
これは異世界のロス大神官が見たならば思わず平伏するほどのレベルの物なのだが、さすがにポロにはそうとわからない。
「なんだ?」
ポロは思わず首を捻ったのだが、他の二人は気が付いていないようだった。
おそらく、その光はグリモワールの仕様により、力を使用した際に持ち主である自分にしか見えないのだろうと見当をつけたが、ポロとしてはそのまま事態の推移を見守る他はない。
「そうですか、わかりました」
爺さんの我儘にさっきまで困惑していた村山さんは、そんな素振りはスパっと引っ込めて自信たっぷりに言い切った。
(大丈夫なのか?
これって単にグリモワールによる効力だよな)
ポロはチラっと内ポケットに視線を走らせたが、それは無論、ひたすらに沈黙を守っている。
「それでは、広瀬さんが新たな人生として職人さんを目指していく姿をドキュメンタリー映画にしてみましょう。
コミックに、アニメに、そしてゲームにと、メディアミックスの展開をいたしましょう」
「おいおい、それ本当に大丈夫なんですか?」
いくらなんでも無茶が過ぎると心配になったポロは、つい口を挟んでしまった。
「いいんです。
どうせ予算は政府から出るんですから。
趣旨からいって、これくらい難問の方がいいのですよ。
あんまり簡単に再出発されても、役所の方で格好がつきませんので。
まあ売れても売れなくても、一定の報酬は出せますので御安心ください」
それって単に税金の無駄使いなのでは、と思ったポロであったのだが、その全てがグリモワールの仕業であるのに違いないので黙っておく事にした。
賽は投げられた。
それを投げたのは他ならぬポロ自身なのだから、後はもう見守る他はない。
どうにも駄目だったなら、もう一度グリモワールを使うまでだ。
そんな事をして何か不都合があるのかどうかすらわからないのだが、それくらいに考えてポロは腹を括っていた。
村山さんは、電話をしてあれこれと確認を取っていたが、やがて言った。
「それでは広瀬さん、一緒に来てください。
打ち合わせをしたいと思いますので。
ああ、それからあなたも御一緒に御願いします」
何故か、この人はポロにも一緒に来るように促がした。
「え、私はちょっとその」
彼との関係を聞かれて借金取りと答えるのもなんなのだ。
だが当の広瀬さんが立ち上がり、ポロの腕を引っ張りながら叫ぶ。
「だまらっしゃい。
お前がやれと言ったんじゃろうが。
いいから一緒についてまいれ!
男なら責任を取らんかい」
そういう訳で、打ち合わせなる物についていく破目になるポロ。
(これは、あれかな。
グリモワールがついていきたいというか、ついていかねばという事なのだろうか)
困惑しつつも、ここは一緒に行かない訳にはいかないようで、爺さんに引き摺られるような感じで御伴するポロなのであった。




