119-12 異世界映画村
「とりあえず、島の大雑把な案内をしましょう。
それではこのトラムに乗っていきましょうか」
昔よく行ったアメリカの映画村などでは、完全にオープンスタイルな観光用の連結トラムに乗ってアトラクションを回ったもんだ。
うちで使うのも、あんな感じの奴だ。
こいつは魔力を動力にして、有り得ない機動力を発揮するオールホイールドライブの超高性能トラムだ。
まるで軍用多輪トラックだが、そういうのを無理矢理トラムでやるのが俺流だ。
だって、ここは映画のオープンスタイルな撮影所なんだぜ。
この手のトラムが活躍すべきシーンじゃないか。
このトラムは一見何気ない作りだが、ボディは情報を隠蔽されたベスマギル製で強力なバリヤーとシールドを張っている。
いざとなったらボディを密閉する事もできる。
周りには昔ながらの戦闘用ボディを持った、ごついゴーレムがインビジブルで配置され、さらに大型ゴーレムも射出できる代物だ。
トラム自体も魔核を埋め込んである一種のゴーレムなので、いざとなったらトラム自身が自力で乗客の保護を開始する。
まあ基本は転移魔法で逃げ出すのだが、十分な保安措置が取られている場合は可能ならばレビテーションで転移先の空中に留まり、魔物とゴーレムの戦闘を観客に披露するのだ。
「この島の大きさは長さ百キロメートル、幅五十キロメートル。
うちで所有するブルーアイランドとほぼ同等の大きさですが、大型魔物も生息しています。
遭遇するとかなり迫力があると思いますので。
まあ基本的に危険は無いので御安心を。
えーと、本物の銃とかを持ってきている人はいないでしょうね」
だが、参加者五十名のうち四十名までもがバッグや懐からピストルを取り出した。
これだからアメリカ人という人達は。
中には十二・七ミリのマグナム・リボルバーとかを持ち出す奴もいた。
完全に狩猟気分だな。
さすがにトラムへ乗るので、長物のライフルを持ってきた奴はいない。
機関銃のように撃てる特殊なマシンピストルや、ピストル用に延長銃身と取付用の銃床を持ってきていた人はいたが。
「あのう、あなた方は大型魔物相手に、そんな豆鉄砲でどうしようと思ったのですか?
御願いですから、同士討ちだけは絶対に止めてくださいね」
それについては特に考えていなかったらしく、皆が首を傾げている。
まあ凶悪な大型魔物を見た事がないとわからないわな。
奴らの装甲皮膚などに地球のチャチな携帯武器は通用しない。
地球にいるチビスケなノーマルのアルマジロの皮だって、角度によっては並みのライフルの弾丸くらい余裕で弾き返すからな。
アルマジロのアルマはアルマー、つまりアーマーが語源だ。
あと熊や猪の頭蓋骨なんかもヤバイ。
ここでそんな豆鉄砲を撃ちまくったって、B級映画に登場するやられキャラになるのは必至だぜ。
そしてジョゼママが笑って説明してやる。
「みんな、象撃ちライフルだって通用しないような凄い怪物に御目にかかれるわよ。
楽しみにしてね」
それを聞いたスタッフ達は、よくわからないながらも全員もれなく楽しみにする事にしたようだ。
あれからゴーレム達を総動員して、島の危険調査や魔物の生息域や種類などの調査をしておいた。
映像付きの調査レポートにトーヤ達が夢中だ。
御土産の標本をどれにするか迷っているらしい。
「ええ、間もなく大型魔物に遭遇する予定です。
残りあと十秒」
遊園地なんかのアトラクションでは、リピーターの客がネタバレでこんな事を言うと他の客から睨まれてしまうが、ここでは心の準備が必要なシーンだと思う。
相手は完全に野生の魔物だからね。
不穏なカウントダウンの後に、不整地な平地を走るスーパートラムの乗客の前に横手のジャングルから全長十メートルを越す巨大な魔物が姿を現した。
図体は比較的小さいのだが、自分よりも大きな魔物にも平気で食らいついていく凶暴な肉食魔物ベルストだ。
ギザギザの鋭い尖った歯がびっしりと並んだ巨大な顎。
その攻撃的な性質も含めて、まるで海のギャングたるシャチのように獰猛な奴だ。
生憎な事に、こいつはシャチと違って普通に人間も襲ってくる。
横長に丸っこい頭部いっぱいに広がったその不吉な口を目一杯に開けて、まるで頭そのものがその凶悪な口であるかのようだ。
魚にもこういうスタイルをしていて、その凶悪な御面相で威嚇してくる奴っているけど、この場合は威嚇に留まらない。
天然の大型ディスポーザーだ。
獣脚類のような二本の太い足で高速移動し、強烈なジャンプ力もある怪物だ。
人間、いや不整地でもかなり頑張れるジープあたりの本格的なクロカン車でも逃げきれないのではないか。
尻尾でバランスを取り、その足の速さは、かなり高速で獲物を追ったと言われる温血恐竜ティラノザウルスよりもかなり速いと思われる。
そいつの尻尾はまた強烈な威力を持つ。
だが何を思ったのか、親方がトラムを下りて奴に近づいていくと右腕を奴に向かって真っ直ぐ突き出した。
そして仰向けに向けた掌を、クイクイっと動かして挑発し奴を誘う。
果たしてそんな人間臭い挑発が魔物に通じるものかな。
だが奴は怒り狂い突進してきた。
どうやら人間魔物間でも言葉を越えて侮蔑というものは伝わるもののようだ。
そういやシドもドラゴン相手にやっていたっけな。
トラムに捲き起こる悲鳴。
もっともそれもアトラクションでよく聞くタイプのものなのだが。
乗客全員が銃を構えているのはさすがだ。
だが親方は振り向きもせず、言葉もなく片手でそれを制する。
奴はワニのように尻尾を強烈に振ってくるが、親方は猛速で迫るそれを片手でパシっと捕まえる。
そして微動だにしない。
ベルストも尻尾を引っ張ろうとするが、それを掴んだ親方は根が生えたかの如くにビクともしない。
そいつの尻尾の先が捻じ曲がって天を指示していた。
親方がにーっと笑うとベルストが震えた。
この自分が獲物と見做した相手は、体は小さくとも自分の手には余る強敵なのだと理解したのだ。
心なしか顔色も良くない気がする。
そしてくるっと向きを変えて逃走を開始したが、親方に尻尾を掴まれているので足が空回りして前のめりに転倒した。
あまりにも有り得ないような現実の光景に客全員が息を飲む。
そーっと親方の方を向いて、歯を向いた親方と目が合ったベルストは、情けない悲鳴を上げてじたばた逃げようとするがそれは敵わない。
小さな前足を地面について、四つんばいになって手足をバタつかせるが、地面を掻くだけでまったく逃走できない。
「まあ、この島は大体こんなもんだ」
そう言った親方がパッと尻尾を離してやると、奴は一目散にウサギのように跳ねながらジャングルの中へと逃げ出していった。
可哀想に。
あの子は二度と我々の前に姿を現してくれないかもしれない。
「親方、あんまり魔物を苛めないでくれよ。
せっかく素の魔物の生態をカメラに収めようという企画なんだから。
カメラに映った天然魔物が、皆おどおどしていたんじゃ締まらないぜ」
俺がそう言うと、親方も、さもおかしそうにこう言った。
「だがアルよ。
お前の自然魔力放射がとてつもなく強烈なので、他の魔物は一匹残らず息を潜めておるようだぞ?」
「うそ⁉」
ガーン、そうだったのか。
確かにこれはそういう物なのではあるのだが。
生息する魔物がBランククラスまでのこの島では、それも無理からぬ事なのかもしれない。
「もう、無茶苦茶な人達ねえ」
「その親方は精霊族のドワーフで、先祖は人間じゃない。
今の芸当は普通の人間には絶対に真似が出来ませんので、皆さんは絶対に真似をしないように。
特にそこの挑戦したがっていそうな感じの黒人筋肉男さん」
おっと、という感じで白い歯を全開にして笑う黒人男君。
いくら黒人がパワフルといっても、さすがにこれはな。
人間が尻尾をもって振り回して遊べるのは、せいぜい小型のアリゲーターか、浜辺に打ち上げられてもがいている、まだ大人になりきっていないシュモクザメくらいのものだ。
「つまり、アル。
儂と同じ事の出来るお前は、人間ではないという事だな」
「俺は魔王なんだから特別なの!」
呆れる乗客達の表情は置いておいて、トラムは楽しい島内観光の旅に出るのであった。




