119-10 虫虫賛歌・ゾンビ賛歌
「この島でどうです?」
「中々いい感じですな」
プロデューサーもこの島を気に入ってくれたようだ。
ジョゼママは、もうとっくに御気に入りに登録していたようで、風に身を任せ気持ち良さそうに、艶のある芸術品のような金髪を南国の風に靡かせている。
この世界は、地球と重力も、また大きさや緯度経度も変わらないため、突然やってきた地球人でもあまり違和感を覚えないようだ。
むしろ心地よく感じるらしい。
まあそんなわかりきった事は俺にとっては今更なのだが、今回の御客さんに気に入ってもらえたのならいい事だ。
また新しく見つけたらしい昆虫を、採集網を持って追いかけていこうとした御狐コンビの首ねっこを、沖田ちゃんが両手で楽しそうに摘み上げている。
「虫が逃げちゃうよー」
「離してー」
「ええい、魔王様が言われていた事を聞いていたんですか。
今、まだ調査中ですよ」
「えー、未知の存在だからこそ調べたいのにー」
「そうだー!」
やれやれといった感じで連中を両手に抱えて、その昆虫を追いかける沖田ちゃん。
「もう仕方がないですね。
捕まえたいんならどうぞ」
「「やったー」」
保護者の付き添い付きで御狐達が捕虫網で捕まえたところで、沖田ちゃんが取り上げて鑑定や科学分析で確認する。
そして電撃殺虫で瞬殺した。
「あ、何するんだよお」
「えー、生かして観察したかったのに」
「これは猛毒がありますから駄目です。
もう絶対に触らないように」
沖田ちゃんが俺のアイテムボックスに、そいつを送ってきた。
そいつの毒をアイテムボックスの機能で分離してみる。
なるほど、解析すると日本のオオスズメバチくらいのレベルだな。
ははっ、結構ヤバい奴やんか。
「みんな、こいつには気をつけてくださいね。
地球で十本指に入る超危険生物、日本のオオスズメバチに相当する危険な毒虫ですから」
「そ、そんな物がいるのかね」
震えあがっているプロデユーサーの動揺が笑いを誘う。
日本や南方面のアジア地区にしかいないはずのオオスズメバチが、外来種として北米にも生息していたのを発見されて、結構向こうの連中がビビっていたらしいからな。
「ええ、攻撃性はそうでもないですね。
なんか追いかけても逃げていきますし。
でも巣の近くで撮影すると危険かもです。
とりあえず、この付近に巣があるかゴーレムに調べさせましょう」
はっきり言って俺達の方が御邪魔虫なのだから、こいつらの営みをあまり邪魔してもなんだ。
魔物と言っても虫だから、きっと何か重要な生態系の役割を担っているんだろう。
だが御狐達は俺が返してやったそいつを、しっかりと標本箱に収めていた。
「ねえ、サンダーキャット。
この子も映画に出してやってよー」
「きっといい仕事するよー」
「え、ええ。
考えておくけど、猛毒持ちは困るわねえ」
「園長先生~」
「わかった、わかった。
じゃあ俺が創った魔核を挿入してゾンビ風に動かせるか試してみるか。
昆虫系は生命力が強いし、一般の魔物とは違ってゾンビ化出来る気がする」
ゾンビと聞いて、プロデューサーが喜色満面でにじり寄る。
「ゾンビとな!」
「いや、この世界にゾンビなんていませんからね」
それを聞いた途端に、悲しみを全身で体現しようとする五十男。
悲嘆する顔、そして両手を仰向けにし強張らせたようにしてヨロヨロとよろめくように歩く。
やれやれ、アメリカ人はなんでそんなにゾンビが好きなんだ。
あれって確か聖書の教えから来ている奴なんだよな。
終末の時に全ての人間が復活するっていうアレだ。
もうゾンビの本場であるハイチとは、ゾンビという名前以外は何も関係ないような話になっているし。
そして俺はあれの事が大嫌いなのだ。
まあゾンビ映画は楽しく見るんだけれども。
本来のハイチのゾンビは『死んでからも遺族とゾンビ使いとの契約に従い、蛆が湧いて体が腐って崩れるまで働かされる死体労働者』なんだからな。
超々ブラックの極みだぜ。
そんなスーパーブラック労働者ソンビを使っているゾンビ使いの方が死ねっつうのよ。
そして自らもゾンビと化して、己の肉体が崩れさるまで働き続けるがいい。
世の中にはなあ、自分が相手の身になってみないとわからない事ってあるもんなんだぜ。
「そんな顔をされても、いないものはいないのですから。
昔、物凄いアンデッドに遭った事はありますがね」
途端に、また機嫌を直す現金なプロデューサー。
「そ、それでそいつは一体どこに?」
自分の映画に出すつもりか!
「そんなもの、とっくに斃しましたよ。
あんな危険物を野放しになんかしておけますかいな。
敵が捕縛して使役していた奴ですからね。
あんな物に我が家へ攻めてこられては敵わない」
「それは残念。
見てみたかったものですなあ」
「そいつの映像はありますが、真におそるべき事に、ただそいつの映像を見ただけでも、この魔王たる私でさえ呪われますので完全上映禁止の代物です」
「うおお、残念です。
しかし、本物の呪いのビデオかあ。
やはり異世界はいいですなあ」
何かうっとりと気色悪くトリップしているおっさんがいる。
まあ、この世界をとことん気に入ってもらえたようなんでいいんだけどね。
今度『御雛様』でも見せてやるとするかな。
あのアンデッドも映像なら平気かなと思ったら、うっかり呪われてしまって物凄く大変だったのだ。
慌ててインベントリに突っ込んであったゴッドディスカーズを取り出して解呪したのであった。
ファルの祝福はデジタルな記録には残らないのに、実に不思議な事だった。
それを聞いたアントニオは呆れてこう言った。
あいつは、あれを一緒に体験したからな。
というよりも、実際にAランク試験で奴と戦ったのはアントニオの方だったのだし。
あいつも久しぶりに文句を言っていたな。
「どういう頭の構造をしていたら、そんな呪われた映像を持ち歩いていられるんだ。
そのような危険物はとっとと捨てろっ!」
確かに言われてみればそうなのだが、一度ファイルを捨ててしまうと二度と復元できない。
捨てるのは非常に躊躇われてしまう。
なんかウイルスに感染していて危険なんだけど、妙に捨てがたいような、何かこう愛着のあるファイルみたいなものか。
今なら祝福の鎧持ちだし、神様だって持ち歩いているんだけどな。
うちにはファルがいるから、あの子に一発歌ってもらえば大丈夫だとは思うんだけど。
「おっさんのリメイク冒険日記」コミカライズ、7/26日までまだ全話見られます。
http://denshi-birz.com/ossanremake/
季節が過ぎるのは早いものです。
書籍1巻を出してから、もう1年が経ちました。
もう連載開始して2年近くが経つでしょうか。
こんなに続けられるとは思ってもいませんでした。
たくさん読んでいただいてありがとうございます。




