119-9 冒険の島
「ほら見えてきました。
あれが御目当ての島です」
しばらくの間、空の風情あるのんびり旅を楽しんでから、『ワープ』を楽しんでもらったのだ。
無論、只の転移魔法だけれども。
それでもまあ、それっぽい映画みたいなエフェクトは入れてあるのだ。
俺はあれが大好きでね。
生憎な事に飛竜とかの飛行魔物には御目にかかれなかった。
御客さんに御披露目サービスをしようと思ったのだが、相変わらず出てきてほしい時には出てこない空の魔物達。
「ほお、ワープですかあ。
凄い体験をしたもんだ。
おお、あれがロケ地ですかあ。
素晴らしい。
青い空、青い海、そして文明に侵されていない白い砂浜と大自然」
プロデューサーは大感激だったが、既に異世界に慣れ親しんでいるジョゼだけは誤魔化されていない。
「園長先生。
この島の危険度は?」
「なあに、ほんのBランクさ」
「むう。
それは微妙なランクね」
「絶妙と言ってくれよ」
普通の人間にとってはあまりにも危険過ぎるレベルなのだが、グランバースト公爵家にとってはそう大した事ないというか、かなり物足りないレベルだ。
ただ、子供達や普通の人間を御客様として迎えるなら、まあそれくらいが妥当なのか?
しかし、今日の目的を考えるにあたれば、あまり刺激が無さ過ぎてもまた失望物なので非常に選択が難しいという案件なのだ。
「そう、足元は大丈夫なのかしら?」
「まあ、大人しくブーツくらいは履いてもらおうか。
ここは南方の島だからな。
地球だって用心が要るレベルだ」
「まあ、そうよね」
蠍に毒蜘蛛、蟻や毒蛇。
あと案外と海の生き物がヤバい。
何しろ島なので、全方位に渡って警戒が必要だ。
小さくて害が無さそうでも、危険な神経毒を持った生き物がいるのだから。
クラゲや毒貝、クラゲの毒刺胞を体内に抱えたウミウシ、その他。
触っただけでやられちまうヒョウモンダコなんかもいたな。
あれは唾液にテトロドトキシン、つまり河豚と同じ猛毒を持っている。
運が悪いと、わざわざ肝を食べないといけない河豚とは違い、ちょいっと触るだけで噛まれて三途の川を越えてしまえる御手軽さが、なお悪いと言えるだろう。
外国の動画で、よくわかっていない大人の観光客が綺麗だからといってヒョウモンダコを手にして笑っているのを見て、世界中の人間を驚愕させていたのもあったな。
子供じゃあるまいに、なんて迂闊な。
地球でも、それらにうっかりと触ってしまって神経毒により呼吸困難に陥って倒れ、最悪は死に至る人もいる。
本当に何気なくいるんだよね、あいつら。
ヤバイ毒貝なんて、油断していてうっかり触わったりすると針でチクっと刺されて、あっという間に呼吸困難を引き起こして終わりだ。
ヤバイ種類の毒クラゲなんかは死んでいる奴に触ってもヤバい。
あれって綺麗な青いゴミ袋が落ちているようにしか見えんのだが。
面白い形をしているし、子供が触りたがってしょうがない気がして怖い。
「まあ、この島は比較的に魔物の脅威も必要程度にありながら、そういう小さな危険生物は比較的少ない事があるから選ばれたんだ。
そういう物がまったく無い島というと、後はもうリゾートのブルーアイランドへ行くしかない」
「それじゃあ興醒めじゃないの。
断然ここがいいわ」
「そうそう」
御客人方はノリノリで諸手を挙げて賛成している。
「まあ、いいんだけどさ。
魔物の脅威も必要程度に要るというのも微妙ねえ」
異世界に関して多少の知識を持つせいで、なんとなく釈然としない感じでジョゼは首を傾げている。
ちょっとプチ探険スタイルで降り立った一行。
もちろん、ファルも一緒だ。
最近は新聞紙の兜は使わずに探険帽が御気に入りのようだ。
飛行場がないため機体はレビテーションで地上付近に浮いており、魔法のエスカレーターで乗り降りする。
携帯空港に降りたのでは、今日の客には興醒めもいいところだろう。
魔法のエスカレーターは、まるでCGで作ったような神秘的な光で形作られており、ちょっとSFチックな演出なのでプロデューサーはまたもや大感激だった。
「ねえ、園長先生。
この島はなんていう名前なの?」
最近はジョゼママも俺の事をこう呼んでくれるようだ。
まあ俺にとって一番の肩書きなんだけれども。
相変わらず、園長先生が称号欄の一番前に鎮座ましましている。
みんながそう呼ぶからな。
「そうだね、特に名前は無いよ。
どこの国の領有にもなっていない魔物大陸寄りの島だから。
おまけに、大した獲物がいないのでドワーフ達も立ち寄ったりしないのでね」
だが我慢できない御狐コンビが叫んだ。
「じゃあさ、じゃあさ!」
「サミー島にしようよ~」
もう、わくわく顔が止められずに尻尾を立てて回答を待っている二人。
「そうだな、それが一番相応しいだろう。
では、ここはこれからサミー島、魔女サミーの島としておくか」
「やったあ!」
「ありがとう、園長先生」
そういや俺の知己には本物の魔女なんかもいたのだが、あれは映画出演的にはどうなんだろうか。
奴だって英国ハンボルト本家の関係者なのだが。
彼女の能力がモノホンなのは諸々の事例から証明済みなのだが、御本人様があまりに残念過ぎて一般公開作品には向かない。
あれで金を取ったら、映画を見に来てくれた御客様に対して大変な失礼に当たるだろう。
次回は魔女フランネルシリーズで映画を作ってみるか。
地球版の本物魔女が出演する映画も悪くないな。
彼女の御友達魔女を御招待したって悪くないのだし。
そいつは身内だけで鑑賞する門外不出の品という事で!
少し探検隊風味の服装の団体が南の島に降り立った。
それは正しい有り様ではあるのだが、映画撮影のスタッフにはまったく見えない。
今日は撮影クルーなどもまだ来ていないし。
というか、主演女優とプロデューサーしかいないわ。
監督だってまだいないし。
本来なら全然関係ないはずの、主演女優の娘はいるのだが。
さっそくファルが可愛い魔物を追いかけている。
何か格好や走り方はネズミっぽい感じなのだが、外観は浜辺に住む甲殻類みたいな感じだ。
甲殻ネズミ?
人慣れしていないようで最初は逃げていたのだが、ファルの放つ霊力が気になるのか時々立ち止まりながら振り返って見ている。
しばらくの間、そのまま御見合いをしていたが、ファルがしゃがんで笑いかけると落ちたようである。
抱っこされて、よしよしをやられたら蕩けるような感じになっていた。
うん、可愛いと言えなくもないな。
毒があったりするといけないが、まあ人外のファルだけなら大丈夫だ。
織原の騒動の時には象を殺せるほどの猛毒を盛られたらしいのだが、まったく気にせずに美味しくチャーハンを頂いていたし。
「おい、トーヤ達。
初めての生き物には注意しろよ。
ヤバイ毒とかを持っているかもしれんぞ」
だが、そいつは俺が近づくと凄く警戒心を露にして、鱗のような感じに甲殻を立てた。
何か鋭い感じに突き立てている。
これもヤマアラシの大棘のように敵に突き立ったまま抜ける構造になっているのでは。
俺の凄まじいまでの魔力放射が警戒されているようだった。
その下にも柔らかめだが軽い装甲皮膚を持つようだ。
浜辺の針ネズミか!?
「ああ、よしよし」
ファルが優しく撫でつけると、屹立した鋭利な装甲はなりを潜めた。
「みんな、ちょっと気をつけてな。
この辺りは生態系が少し異なるようだ。
あまり危険な小生物はいないはずだが、急遽選定したんでよくわからない部分もある。
始めて見る生物はゴーレムに確認してもらえ」
だが、御狐達は耳と尻尾を振り回し、やたらと張り切っているのだった。
とりあえず、ゴーレム隊に急遽生態系の再調査の命令を出しておくことにした。




