119-3 魔女サミー
それから、メルのチビ助どもはジョゼのママからまったく離れようとしない。
それはもう「ふんふんふんふん」といった感じで鼻面を寄せて甘えまくりだ。
メルと、どっちが母親だかわからないような雰囲気で練り歩く。
そしてケモミミ園の方へ行くと、また物見高いケモミミ園児達が大勢集まってくる。
「あれ、その人って初顔だね。
うーん、でもどこかで見たような顔だなあ」
不思議そうな顔で、御狐幼児達の面倒を見ていたトーヤが首を捻る。
「あははは。
魔王様、もしかして地球の映画とかを見せているの?」
「ああ、そうだけど。
あれ? もしかして」
彼女は悪戯っぽい表情を見せたかと思うと、帽子を後ろにずらすような感じにして魔女っぽい感じに被り直し、足元まであった長めのスカートを膝下まで手で持ち上げて、おどろおどろしい声を出した。
「ふっふっふ。
子供達、魔女の館へよく来たね。
でも、もう帰れないよ。
さあ、ここから悪夢の始まりだ。
その世界から帰ってこられるかどうかは、お前達の努力次第だよ!」
えーと、何の映画の台詞なのだろう。
すまん、俺はA級映画も見るが、どっちかっていうとB級映画マニアなんで、そういう子供向けのメジャーそうなファンタジーって最近は見ていないのだが。
トーヤにも無難そうな奴を与えるだけは与えてあるだけで。
だがトーヤとエディは違ったようだ。
そして大興奮でまくしたてるトーヤ。
「す、凄いや!
魔女サミーの館シリーズの最新作、『悪夢の魔界・黄金境の羅針盤』に出てくる魔女サミーの有名な台詞じゃないか。
う、うわあ。
この人って本物のサンダーキャット・ヘルメスじゃないか!
御願い。
サ、サインをちょうだい~」
アイテムボックスから取り出したサイン帳でサインを強請られ、思わず顔を綻ばせるジョゼママ。
異世界にも私の名声は届いていたのよ、という感じなのだろうか。
「え、ええ?
お前達、この人を知っているのかい?」
すると呆れたような顔をした御狐コンビが、ジト目で俺を見ている。
おおうっ!
「な、何を言っているの、園長先生。
サンダーキャット・ヘルメスといえばハリウッドの大女優だよ。
知らないなんて絶対に許されないよ。
園長先生はそれでも地球人なの?
大富豪と結婚してからも映画の仕事は続けていて、まだ若いけど息子のワンダーキャット・ハンニバルも有名な映画俳優だよ。
そうか、今異世界に居ると言う事は、サンダーキャットは米国ハンボルト家の人だったのかー」
「何ー、ハンニバルだと~」
俺の驚くところはそこだった。
ジョゼの奴め、そんな名前の兄貴かなんかがいたのか。
もう俳優として映画に出ているという歳から考えて、多分弟じゃないだろう。
そして、どうやらジョゼの兄貴は母譲りの猫派らしい(名前から推定)。
「もう、園長先生。
とにかく彼女は大女優なんだからね!」
お前、それは子供向け大作の主演女優だからだろう。
その前の仕事は知らないが。
それも多分、主人公の子役は大した事がなくて、彼女ヘルメスの魅力でヒットさせているのに違いない。
おそるべしジョゼママ。
そしてトーヤが自己紹介した。
「こんにちはっ。
僕はトーヤ。
ドワーフの国エルドア王国の王子です。
ちなみに父の名はハンニバル大王です」
「エディです。右に同じ」
思わずコロコロと笑うジョゼママ。
なんかこう、笑い方が女将さんっぽいな。
「異世界は愉快なところねえ。
そうか、ハンニバルなのか」
いいけど、ジョゼママよ。
そのハンニバル大王の実物に会ったら、もっと驚くぜ。
「ちなみにトーヤ。
その人はジョゼのママだからな」
「ええっ!」
それを聞いて固まってしまい、思わず彼女をガン見するトーヤ達。
『あの残念御嬢の母親がこの凄い人だったなんて!』という感じで。
「ちょっと、二人共!」
そのあまりにも露骨な態度にジョゼは憤慨しているが、御狐王子は微塵も取り合わない。
ジョゼママはもう笑いを堪えきれない様子で、差し出されたトーヤの狐耳を自然体で軽くもふった。
そして、その触り心地に驚き更にもふったが、エディもミミを差し出してきたので二人共抱きかかえるようにしてもふった。
さすが大女優だけあって、わかっているな。
そういう風にしてくれると助かる。
差し出したミミには愛情で答えてやってほしいんだ。
また彼女は母親でもあるのだから。
御母さんオーラ全開だ。
「ふふ。
みんな、あの子を宜しくね。
あの子があんな風になってしまったのは、御父様や主人の理解に甘えて仕事にかまけてしまっていた私の責任よ。
本当はとってもいい子なの」
だが、はっきりと断定口調で元気に答えるトーヤ。
「大丈夫だよ、サンダーキャット。
僕達は、もっと大丈夫でない奴を知っているんだから!」
隣でうんうんと頷くエディ。
俺も一緒に頷いておいた。
もちろん、それはあのウサギ女郎の事だ。
それを聞いてジョゼママは、異世界の陽の元で再び眩しいような笑顔を見せるのであった。




