118-5 疾走
だが、おチビなフェメラとキメル達はあっという間に成長した。
厳しい環境にいた迷宮魔物、それもAランク魔物だった両親から生まれたのだ。
それも今ではランクアップされたSSランククラスの。
ほどなく体長は倍くらいに増えて、まるでケモミミ園内を大人になり切れていないサイズの若いライオンの集団が走っているかのような有様だ。
見応えだけには事欠かない。
これが日本のマンションだったりしたら笑える図だろう。
さすがに狭いわ。
世の中には本当に家で猛獣を飼っていて、外へ逃げ出して大騒ぎになってマスコミ沙汰になっている人も結構な数がいるからな。
あと、ニシキヘビやオオトカゲなどの大きな爬虫類なんかも。
奴らが逃げ出せば、ほぼ百パーセント新聞沙汰だ。
彼ら魔物の子の成長力は強くて、その体は非常に強靭な物だった。
走る、じゃれる、遊ぶ、おっぱい、寝る。
そんなサイクルを繰り返して、子供達はみるみるうちに大きくなっていった。
俺も、なるべく赤ちゃんのうちに抱っこしておかないと、さすがに大きくなってからでは抱っこがきついので必死で頑張ったのだ。
まるでファルの成長を早回しで見ているかのようだ。
抱っこや高い高いに始まり、そして肩に担いだり、そのまま一緒にくるくると回ったり。
ああ、可愛さの限りを思いっきり堪能した。
奥さんは、その俺が弾けまくる様子を呆れて見ていたのだが、そんな事に構っているような場合じゃあなかった。
とりあえずケモナーな自分が満足するだけは、徹底的に抱っこしてもふりまくっておいたのだ。
もはや我がケモナー人生に悔い無し。
なんというか、自分の家で可愛いもふもふな生き物が誕生したというのならば、それはもう死ぬほど愛でておくのが館の主として当然の勤めというか義務であると、俺は心の底から信じている。
だが彼らは生まれながらのSSランク魔物であったのだ。
親の方は元から大人しいものだったのだが、赤ちゃんとして生まれた子供達はヤンチャどころか、手がつけられないのであった。
とにかく走る走る。
ケモミミの子供達も、その勢いに当てられたものか、これまた走る走る。
そして幼稚園の職員もシルの侍女も離宮の使用人も、また大いに走り回ったのであった。
歩けば歩くほど健康。
そんなアルバトロス王家の伝統はあるのだが、走るのはどうだろう。
まあ健康のために運動するのはいい事だな。
座りっぱなしが一番良くない。
そして職員達は叫ぶ。
「そっち! 一匹行ったわよー」
「おっと鋭角ターン。
今度はそっち」
「またそっちに戻っていったからね~」
彼らの母親も父親もてんやわんやだ。
ゴーレム達も楽しそうに走ったし、警備の冒険者達も走った。
「いやあ、園長先生。
これはまた激しいですね」
さすがにエドも目を白黒していた。
六匹全部が、ここまでヤンチャだったとはなあ。
もう元気いっぱいの全力疾走で、両親も走りっぱなしだ。
「あっはっは。
エド、君のそんな顔も久し振りだな」
「いや、さすがにこれは参りますね。
まあ、あの子達も成長したら、そのうちには落ち着いてくるでしょう」
あの毒尻尾を少し懸念していたのだったが、子供のうちは大した事はないようで、それにケモチビどもは迂闊に咬まれたりなどしなかった。
むしろ、人族の職員がうっかりと尻尾の甘噛みで咬まれたりしていたのであった。
まだ毒は無いようで倒れる奴はいなかったが。
それよりも、あいつらを追いかけて走ったせいで倒れる奴の方が心配だ。
当然、エリーンなどは咬まれたりはせずに上手にあしらっていた。
体捌き・リズム・先読みなども、幼い頃からの野生の狩りの生活の中で磨き上げたスキルだった。
むしろ楽しげに、奴らをじゃらしまくっていた。
小手先の技術でチビ魔物達の気を引いておき、耳元で必殺の子守唄を囁いて眠らせるなどしている。
相変わらず頼りになる女だ。
むしろ新しいスタイルの「狩り」を楽しんでいるようでもあった。
チビ達も、生まれた時に最初から居て自分達に愛情を注いでくれる生物である人間を、生まれつき家族と認識しているようで、屋敷の人間やケモチビには決して危害を加えたりはしないのであった。
そのあたりは、もう遺伝子レベルで伝わっているのかもしれない。
猫肉球と犬肉球の違いはあるが、皆可愛い者達には違いない。
ファルがもうべったりくっついて、ずっと彼らの傍を離れない。
赤ん坊のうちから祝福成分がてんこもりだ。
彼らが眠れなくてぐずっていると、エリーンと一緒にファルが子守唄を歌ってくれる。
気持ちさえあれば、普通の歌にも十分に祝福は籠もるのだ。




