112-7 古代竜の叡智
「いやさ、あそこに残されているオリハルコンの秘密を解きたいんだが、その前に遺跡ごと状態保存の魔法をかけておいてもらえないかなと思って」
「オリハルコンの秘密だと。
お前が今更か」
バルドスは不思議そうに首を傾げている。
まあ彼にしてみれば、そう思うのだろうな。
俺にとっては異世界のオリハルコンなど、ただの日用品以下の代物だ。
「ああ、地球のオリハルコンは異世界産とはまた別物なのさ。
これも魔法金属なんだけど、俺のコピーを受け付けない特別な代物なんだ。
あんたにも現物を見てもらえないかなと思ったんだが」
俺はそう言って、フランネルからもらったサンプルを渡した。
「ほう、これは」
そう言うや、バルドスは不思議な文言を唱えた。
ドラゴンの言葉なのか、太古の魔法言語なのか。
するとエンシェントドラゴンの手の平の上で、地球産オリハルコンは綺麗に分解してしまった。
まるで虹色のように煌く不思議な結晶の粉末だ。
パッと見たところ金属粉末ではないようだった。
何か魔法の粉のような物なのか?
「ええっ」
フランネルは驚いた声を上げる。
彼女にしても驚きの物質らしい。
地球の魔女に代々伝わる秘儀にもない物質のようだ。
俺にとっても同様に驚きな物質だ。
どうやらバルドスには、このオリハルコンの秘密がわかるというのだろうか。
「昔はのう、あの世界にもこのような『言霊』や、あとルーン文字というのか? そういうような物による魔法が存在したものよ」
「言霊っていうと、呪文とか文字によるタイプか?」
悠久の時の中を生きる『御爺ちゃんの知恵袋』は頷いた。
「そうじゃ。
発音も大事なのじゃ。
わしが時に使うドラゴン文字があるじゃろう。
あれも、その系譜で強力なものだぞ。
人が使うにはグリモワールと呼ばれる物が主流であった。
そして杖などのような触媒に刻まれた魔法文字。
無論、達人であればグリモワールなど必要とせぬがな。
わしも曽祖父の時代から、あれこれと仕込まれてな。
ジェニーなどはその才があるぞ。
ジェニー、これを組み立てて、さっきの地球のオリハルコンを作ってみなさい」
「はーい、御爺ちゃん」
そう言って彼女は手を組み合わせ、祈りのようなスタイルをとった。
「あ、ちょっと待ってくれ。
その分解したオリハルコンのコピーを試させてくれ。
成分表から構成される素材の材料とは状態が異なる物のようだ」
わかる。
理屈でなくわかる。
こいつは絶対にコピー可能な代物なのだ。
「ああ、よいぞ。
それは一種の錬金素材からなっている状態じゃ。
そいつからなら、お前も地球産のオリハルコンを合成できるのではないのかの」
さっそくコピーしてみた。
地球産オリハルコンを分解した粉体のコピーは大成功だった!
俺はアイテムボックスの中に、その魔法の粉を大量に満ち溢れさせた。
これは魔法物質を創るための魔法素材というか、錬金素材というか、そういう類のものだな。
「できる。
地球産のオリハルコンを創る事ができる!
俺には理屈でなくわかる!」
それを聞いたジェニーちゃんは俺の裾を引っ張った。
「アルさん、私の後について呪文を唱えて。
人間にはなかなか発音が難しいけれど、アルさんは魔法をイメージで使える人だからいけると思うの。
なるべく人間の言葉に近くして発音するから」
おっと!
ジェニー先生のありがたい御教授付きか。
彼女は呪文を呟いていた。
俺もそれに続いて言葉をなぞっていく。
くっ、ドラゴン流の文言は人語に変換してくれてあってもキツイな。
やっぱり俺は不器用だぜ~。
それでも足りない部分はイメージで補って、もっとも適正な言葉で埋めていく作業は、辛いがその反面、俺的には結構面白くもある。
「天の衣の力の裾を、地に生きる我らの頭上に恵みたまえ。
この手に神の息吹を与えたまえ。
我らドラゴンの民、この地に生き、そして死に行く者也。
願わくは今一度の福音を我等神の僕に与えられん。
創造の儀、復活の歌ここに歌わん。
ドラゴン・クリエイション」
なんとか言い切った!
覚えたぜ。
ドラゴンの創造魔法、ドラゴン・クリエイションを。
どうやら失われた何かを蘇らせる復活の呪文としても使える魔法らしい。
さっき魔法の粉に必殺の再生スキルを試してみたのだが、まったく受け付けられなかった。
だが、こいつは!
ジェニーちゃんの手の中にあった魔法の粉は、古びたオリハルコンの金属片ではなく、輝く新品のドラゴンを象った見事な飾り物となっていた。
この魔法はイメージ通りの形に作る事が出来るのか。
文字通りにクリエイティブな魔法だな。
俺はそれを手に取り、さっとコピーしてみせた。
本来は出来ないはずの事をやってみせた俺に驚くフランネル。
しかし、すぐに思い当たったものか口を開いた。
「わかった。
あなたはそれを取り込んで、さっき複製した魔法の粉を原料にコピーしてみたのね!」
「御名答。
さすがだな、専門家のプロフェッサー。
よく知らないような異世界のスキルの本質を、聞き齧っただけの内容から推論して見抜くとは。
いや、現代に生きる古の魔女フランネルか」
俺はアイテムボックスから取り出した、様々な物品の形を地球産オリハルコンの素材でコピーしていった。
「うわあ、オリハルコンだあ。
いろんなオリハルコン製品だあ。
私が青春をかけて研究した成果が、今ここに!」
感涙に溢れ、顔中鼻水だらけで泣いている残念魔女の世話を焼く、しっかり者のジェニーちゃんなのであった。
この子も、もう今年で九歳になる学年なんだなあ。
学校には行っていないけど。
だが、齢五千年分の叡智を持った専属家庭教師がついているのだった。
なんというか、一孫相伝で知識を学んで?
「ところでハンボルト卿。
こいつに関するビジネスはどうなります?」
「うむ、それに関してはそちらが独占製造元だしのう。
そのあたりの事は甥が取り仕切るであろう。
またそれについては、話を通した日本の総理と別途話をするという事でどうかの」
「ああ、それで構わないよ。
あと、そこにいるおばちゃんの権利だけは忘れないでやってくれ。
功労者は報いられねばな。
どうせこのおばちゃんの事だから、少々の金なんか入ったって、何もかも魔法や考古学の研究とかに注ぎ込んじまうんだろうけど」
それを聞いて爺さんはニカっというような感じに笑った。
まるで「お前の事は気に入ったぞ」とでもいうように。
「ほっほっほ、それは勿論心得ておるよ。
それでよいな、フランネルや」
「ええ、まあ。
ありがたい御話ですし、こちらとしても異存は無いけどね。
もう本当に男っていう生き物はロマンが無い。
せっかくの感動が台無しだな」
あっはっは。
でも、しっかりとケモミミ王子達を両手に抱き締めながらそれを言われても、まったく説得力には欠けるがなあ。




