108-8 鯉のぼりの守護者
「なんでお前らって、そんなに真剣になっているの?」
「しょうひんがすごいの~」
「わくわくなの~」
よく見ると、全員の尻尾が興奮のあまりピンっと立っている。
あらまあ。
「そうか。
でもそういうのは自分達の力だけで頑張らないとな」
よし、これでOKだぜ。
躾も兼ねて。
「おうえん、もらってもいいって」
「えんちょうせんせいがー」
「うちは、にんずうがすくないからって」
また、あの人はそういう碌でもない事を言って。
せっかくバッチリと決めたのに台無しだぜ。
「んー、今は御兄さん忙しいから、またな~」
「えー」
「今日は柏餅作りに来たんだしさあ」
「おてつだいするー」
「ぼくもー」
「だから、ばんちょうになってー」
いやあ、ここまでチビ達が慕ってくれるのは正直言って嬉しいんだけど、番長はちょっとな。
みんな何故そこまで番長に拘るっ!
だが結局は遥があまりにもノリノリだったので、とうとう強引に押し切られてしまった。
また、このパターンかよ。
まあ適当にやっておこうか。
俺は新聞紙の兜を被り、異世界に在る第三ケモミミ幼稚園前に立つ鯉のぼりの番人を仰せつかった。
こんなに間抜けなGWの過ごし方をしている日本の高校生も他にいないだろうな。
しかも三学年も落第している奴が。
まあ彼女と一緒というか、その彼女本人が俺にこんな事をやらせたがっているんだが。
「あれ? 織原!
新聞紙の兜、ファルと御揃いだあ」
「いや、別にそういう訳じゃないんだけど。
これが番人の正規のコスチュームだって園児共に被せられただけさ」
何が悲しくて日本の男子高校生が、異世界のイエス・キリスト相当と言われる神の御使いレインボーファルスと、わざわざペアルックにしなくちゃいけないのだ。
本来なら、そうするべき相手は俺の隣に立って笑っているのだが、こんにゃろうは新聞紙の兜を被るのを拒否ったし。
彼女は爆笑しながら、スマホで俺の間抜けそのものなスタイルを激写していた。
「へえ、鯉のぼりの番人なの?」
「そうみたいだよ。
頼まれて仕方なしにな」
「あはは。
これは景品が豪華だっていうからいいかもね」
「そうなのか。
まあいいんだけどな」
肝心のチビ達は他の幼稚園の鯉のぼりを狩りにいったようだ。
俺が番人をやっている分、理論上の攻撃戦力は他チームの1・5倍くらい人数がいるからいけるかもな。
「あ、だい三のばんにん!」
「オリハラだ~、それー」
「こいつ、よわっちいぞ」
「やっちまえ~」
おお、ちょこざいな連中がやってきたな。
ふっふっふ。
返り討ちにしてくれるわ。
こっちにいる間はどこにも逃げられないし、俺はここでは非常に肩身の狭い人間だったので大人しくしていたから、お前らにいいようにやられていたのだが、今は違うんだぜ。
いくらケモチビの体が強かろうが、既に大人並みの体格である俺とじゃ勝負にはならない。
それに。
「そおれっ」
俺は風魔法で奴らを吹き上げてやった。
この技は園長先生が時折やるらしいので、俺も練習してみたのだ。
それが鯉のぼりにも伝わって、ポールの先に取り付けられている天球と矢車をカラカラと回してくれる。
こいつは神様が天から下りてくる目印らしいから、あの主神ロスからよく見えるようによく回してやろう。
邪気を祓い、幸福を呼ぶらしいしな。
連中も最初はもがいて手足をじたばたさせていたのだが、段々と楽しくなってきたらしい。
他の奴らも寄ってきたので、一緒に吹き上げてジャグリングのように回す。
別にケモチビのために開発したスキルじゃないけれど、遥に見せてやろうと思って練習しておいたので、なんなくこなす。
きらきらした目でそれに夢中な遥。
いやあ練習した甲斐があったぜ。
魔法はまだまだ不器用だが、俺は努力家なんだ。
バンバン練習すれば、こんなものさ。
実際にジャグリングは得意なんで、ちゃんとイメージがあるから、こういう魔法を使う時も比較的楽だし。
しかし、段々とこれが目当てでやってくる奴らが増えてきた。
好きだな、こいつらも。
「ああ、順番、順番なー」
並んでいる奴らには遥が柏餅を配っている。
そいつらがバリヤーになって、他から攻めてきたオフェンス部隊が侵入出来ないらしい。
「よっしゃ、せめるぜ~」
「じゅんばん、まもれよ」
「いや、おれたち、こいのぼりをせめにきたんだが!?」
「そんなことをいって、よこはいりするきだな!」
仕方が無く順番を守って攻めてきた奴らがポールに登ろうとするところを、あっさりと吹き上げて返り討ちに。
もれなく柏餅を食わせてから御帰り願った。
なんとなく楽しくなってきたな。
これくらいの子供相手にやる番長稼業なら、いつでも御安い御用だぜ。
そうしていたら、突然に遥の楽しそうな声が聞こえてきた。
「つっかまーえた、っと」
「うおおお、何故わかった~」
そこには尻尾の付け根を持たれて、タヌキかなんかみたいに逆様の格好で、遥の手にぶらさげられて犬体形で暴れているジョニーがいた。
それを見て俺も目を丸くした。
「凄いな、遥。
そいつを捕まえるなんてよ」
「うーん、なんだか知らないけど。
何かいる感じがしてさ。
えいって掴んだら、こうよ~」
「こんなイベントをやっているのに、どうも見かけないと思っていたら、お前は敵方に雇われていたのかよ」
「いや別に。
楽しそうだったから、つい勝手に混ざって参加していただけなんだが。
それにしても、まさかの捕縛だ。
そんな何の能力もない地球人の小娘に易々と捕まってしまうとは。
とほほ」
「あはは。
勇人君、これどうするー。
お鍋の具かなあ」
それを聞いて、やや顔を引き攣らせているジョニー。
「よせよな、犬鍋なんか食えるかよ。
大体、そんな物を食ったら食中りしそうだし。
じゃあ、捕まったんだからお前も捕虜として働け。
俺はケモチビをじゃらすので忙しいんだ」
そしてディフェンス係として、片足をロープで鯉のぼりのポールの根元に括りつけられて、ケモチビを追い払う役を拝命する破目になったジョニー。
こいつなら、そんなロープは自力で簡単に振りほどけるだろうに。
それも御遊びのうちか。
たまにはいい薬かな。
それにしてもうちの遥さんったら、プロ冒険者のシーフさえも翻弄するあれを捕まえちまうなんておそるべし!
そこへ意気揚々と第三幼稚園のオフェンス部隊が帰ってきた。
「やったー、ほかの2つのこいのぼりゲットー!」
「ばんちょう、ありがとう~」
ははは、やはり戦力差は大きかったな。
攻撃陣を俺達デフェンスでかなり倒しちまったからな。
所詮は幼稚園児同士の戦い、勝負は数で決まったか。
「それは良かったな。
ところで賞品って何が貰えるんだい?」
あんなに子供達が喜んで欲しがる物ってなんだろうな。
そこへ、ふらりっと魔王園長がやってきた。
「おー、鯉のぼり争奪戦は決着がついたのか。
お!
織原、お前が助っ人なのか」
「不覚にも。
それと、そこにも敵の駒だった奴が一匹」
「あっはっは、敵から取った駒を使えるのか。
将棋かよ。
なんだ、ジョニー。
何を間抜けに捕まっているんだ」
「くそー、油断したぜー。
同じく不覚を取った。
おい、もうゲームは終わったんだろ。
この縄を解け」
大笑いする園長先生が、ジョニーの足に縛り付けてあった縄を指先だけで引き千切って解放してやる。
彼は不器用なんで指で解くのは無理らしい。
「ところで園長先生。
これの賞品って何?」
「ああ、こいつだ」
そして出されたもの、いや者は!
それは全長二十メートルくらいはありそうな巨大な五月人形だった。
何か昔の物っぽい感じで厳めしいデザインの椅子に座った鎧武者だ。
骸骨面の中で爛々と輝く目がちょっとヤバイ。
「うお、これはまたでっかい五月人形だな。
これって、どうせ動くんだよね」
「まあな。
動かない、只の人形だと子供達も興醒めだから」
「もうちょっと前だったら、こいつを応援に呼んでもよかったのかもな」
「ん? 何か言ったか?」
「いーえ、何も」
さすがに、日本の番長組織に異世界の動く巨大五月人形は要らないかな。
自衛隊が討伐に来ちゃいそうだ。
こいつは巨大な鎧兜に加えて、でかい刀を装備している。
これが凄いパワーで動くんだから、さぞかし壮観な眺めなんだろう。
「立て、五月人形ジャイアント!」
そいつは園長先生の号令を受けて椅子から立ち上がると、凄まじい地響きを立てて幼稚園の運動場を歩きだした。
「かっけー」
「いいな、だい3のヤツラ」
「うらやましい~」
他の幼稚園の奴らがマジで羨ましそうだ。
まあこういう物も男の子なら欲しいのかもな。
女の子達は呆れた顔で見ていた。
遥は楽しそうな顔をしているけど。
お。
おチビ猫のレミちゃんは両手を振り上げ、ミミをピコピコさせて大興奮だな。
尻尾の動きが凄い事になっているぞ。
それらの大賞賛を聞いて、益々鼻高々な第三幼稚園の子達。
みんなで可愛く万歳を繰り返している。
ケモミミと尻尾をピンと立てている様子がまた堪らないな。
そして。
「オリハラさま、バンザーイ」
「オリハラばんちょう、バンザイ~」
「まほうばんちょうオリハラ~」
そこには、俺を番長として讃えてくれる大勢のケモミミの子供達がいた。
それを慈しむような笑顔と共に遥が渡してくれたペットボトルのジュースを飲みながら、前よりもこの異世界の事をぐっと好きになっている自分に気付いた俺なのだった。




