104-4 裏庭の冒険
「よし、今日こそ絶対冒険に行くぞ!
とりあえず、裏の渓谷からかな」
「ファルちゃん、どこへ行くの?」
とりあえず、ここでは母親代わりのシルから声がかかる。
子供に声かけは大事だよね。
「うーん、裏の渓谷までちょっと」
「そう。今日は離宮でおやつ会があるから早めに帰ってらっしゃいねえ」
それを聞いたロイネスが目を輝かせる。
「ファル様、おやつ会だってさ!
冒険するのは、またの機会にしない?」
「もう!
渓谷はすぐ裏にあるんだから。
おやつの時間までに帰ってくればいいでしょ」
「そうかあ。
ああ、おやつの時間が待遠しいな」
若干締まりの無い顔で、おやつを想像して額の角の周りの宝石を魔力で明滅させて涎を垂らし加減のカーバンクルの背中を押しつつ、ファルは離宮を後にした。
行進しながらも、ファルを慕って周辺に住み着いている人畜無害な小型魔物達を加えていった。
冒険というよりは、単にいつもの光景である。
すぺたんすぺたん、といった感じの歩き方で陽気にファルに付き従う可愛らしいカーバンクルがまた何ともいえない雰囲気を醸し出していた。
それを通りすがりに見かける街の人も、その可愛らしい様を生暖かい眼差しで見送るのであった。
やがて一行は楽しげな行軍の末、園長先生手作りの人工渓谷へと辿り着いた。
戦ぐ風、穏やかな天気と芽吹く春の空気。
その気持ちよさに、うっかりとその場で立ったまま居眠りしてしまうファル様御一行。
それは正にピクニックそのものだ。
「おっと、いかんいかん。
冒険をしなくっちゃ。
魔物さんはいるかなあ」
すると、まるでそう言われるのを待っていたかのように、目の前の深い人工渓流からザバーっと蛙の魔物が現われて、その細長い舌を一瞬にしてムチのように伸ばしてきた。
それをはっしと掴んだ沖田ちゃんは、グイっと引っ張り上げて蛙を手元に引き寄せた。
「これ、御友達にします?」
「うーん、どうしようか」
それは全長二メートルほどの大きさの緑の蛙さんだった。
その鮮やかな色合いは評価できるのかもしれないが、アマガエル系ではなくガマカエル系列のスタイルなのだ。
魔物としてみれば、そんなに悪くはないスタイルだと思うのだが、あまり可愛いとはいえないだろう。
ファルは、まるで内緒話でもするみたいに蛙と会話をしていた。
「グエエ」
「ああ、そう。
じゃあまたね」
「蛙、なんて言っていたんです?」
「ゴメン、今暇じゃないからまた今度にして、だって」
そう言い残して蛙魔物は流れに飛び込んで、また新たな獲物を探しにいくのであった。
それを見送りながら、憮然とした表情のファル。
「魔物も生存競争が激しいですからね。
ここには魔王様の魔力がリンクして大量に溢れていますから、魔物がたくさん湧いたり集まったりしていますので」
そのまま、じっと待つ事およそ五分。
「誰も来ないね」
「ここにいるのは基本的に水の中から出ない水棲生物ですからね。
来るとしたなら……」
まるで、その言葉が発せられるのを出待ちしていたかのようなタイミングで水飛沫を上げて鎌首を上げた巨大な蛇。
その凶悪に輝く真っ赤な瞳に、思わず御伴の魔物達が、ささっとファルの後ろに隠れる。
御伴の癖にいいのか、それで。
だが、果敢にその辺にいくらでも落ちている木の枝の聖剣を持って、仲間を守って立ち向かおうと構えるファル。
「まあ、こんな風に御飯が欲しい子ですよね~」
そう言いながら、沖田ちゃんは巨大魔物である蛇の頭を掴んで引きずり出しグルグルと回して、遥かな流れの中へと思いっきり放り投げた。
なかなかいい飛距離が出たようだった。
ちょっと冒険の風味が出たせいか、少し御機嫌なファル。
「でも、御友達の魔物が欲しいなあ」
「そうですか。
じゃあ穴場に行ってみましょうか」
「穴場?」
「ええ、穴場ですよ」
そう言って、岩だらけのやや難所へと向かう沖田ちゃん。
ファル様御一行は御互いに助け合いながら登っていく。
その姿は、まさにカブスカウトそのものであった!
「ここですよ、ここ」
「穴場っていうか、これ只の穴じゃん!」
ロイネスの言う通り、はっきり言ってまさしく穴であった。
それは岩場の中で直径一メートルほどの大きめの穴になっている。
中は真っ暗なのでよく見えない。
「だから穴場だって言ったでしょう。
ファル様、ちょっと呼んでみてごらんなさい」
「えー?
ヤッホー。
誰かいるかな~」
すると、中の方で何かがもぞもぞと動く気配がする。
「あ、可愛い~」
それは両生類のような水棲魔物のような、何か可愛らしい魔物であった。
体長五十センチほどで、小柄なファルが抱っこするには良い加減の大きさだろう。
ぬめっとした感じではあるのだが、ウーパールーパーを思わせるような、なんとも可愛らしいスタイルをしている。
そして、くりくりの可愛らしい目はチャームポイントだ。
小さな口も凶悪さの欠片も感じさせず好ポイントだ。
その子も最初は用心深そうに辺りを見回していたのであるが、ファルを見つけるや否やジタバタと這い寄ってきて必死で頭を撫でてもらおうとする姿に、一行の心は和むのであった。
一頻りその子と遊んでから、おやつ会を目指して帰ろうという話になった。
主に提案したのは、最早我慢が出来かねるといった趣のロイネスだった。
角の周りの宝石の点滅が非常に激しくなっている。
御菓子を食べないとエネルギーが切れるのだろうか。
そういえば精霊という奴らはそういう代物なのであった。
「それじゃ、魔物ちゃんバイバイ。
また遊ぼうね」
だが、その可愛らしい生き物はファルに必死でくっついて離れない。
「そうか。
じゃあ、君もケモミミ園の子になる?」
それを聞いて嬉しそうに目を輝かせる両生類魔物。
そしてケモミミ園に戻ると、目聡い子供達がミミを揺らして一斉に寄ってきた。
「なに、それ。
かわいいじゃん」
「いいな、ちょっとだかせてくれよ」
「かわいい~」
「えんちょうせんせい~」
「なんだい?」
「このこのおうち、つくってー」
子供達に抱かれて、きらきらと御目目を輝かせる両生類。
もはや魔物でもなんでもない気がするが、一応は魔物なのだ。
どんなに可愛くたって、魔素のない地球へ連れていったら死んでしまうだろう。
「へえ、こりゃあ可愛いな。
渓谷で拾ってきたのかい?
じゃあ、専用の水槽ハウスを作ろうか。
御飯の世話はお前らでやれよ」
かくして、ファルの大冒険? は、またしてもケモミミ園に可愛い物を増やして終了したのであった。




