103―3 子供達のサバト
「よーし、これでどうだ!」
罠を仕掛け終えて、満腹のライオンのように満足そうなカミラ。
いや実際に胃袋は結構満たされていた。
離宮へ遊びに来たエリに、ジョリーを捕らえる餌としてスペシャルケーキを作ってもらったのだ。
無論、自分達が食べるのも忘れない。
「うーん、こんな簡単な罠に精霊の大神官ともあろう者が引っ掛かるものかしら?」
「チョロイもんよ~。
あのこぞう、あまいモノには、すっごくめがないんだからさ」
なんだかんだ言ってエリも興味をそそられてしまったのだ。
その辺は、まだ子供である面は隠せない。
彼女はあくまで大師なのであって、決して老師ではないのだから。
置かれているのは、いわゆるエサを置いて籠につっかい棒をした雀を取るようなアレである。
俺のリビングの隅に置かれたそれを、長椅子に伏せて見守るエリとカミラ。
だが、そこへ突っ込んできたのは。
「うわあ、ナニこれー!」
かなり大きな籠だったので、見事にケモミミチビを捕獲できた。
後ろから可愛らしい少しふさふさな感じの猫尻尾とあんよがバタバタしているのが見える。
かなり重めの籠にしておいたようなので、自力で出られなくてジタバタしているようだった。
「あー、しっぱいだー」
残念がるカミラの背後で軽く咳払いが一つ。
彼女が振り返ると、そこには苦笑いを浮かべるジョリーがいた。
「皆様、そんなに私の正体を御知りになりたいので?」
ぶんぶんと頷くエリとカミラ。
「御館様も、そんなところに隠れていないで出ておいでなさいな」
頭をかきかき、例の忍者道具っぽい感じの壁に隠れる装備から俺も姿を現した。
こいつは初見ならロレンスのような凄腕シーフでさえ騙されてしまうのだが、数千年の刻を生きる精霊の大神官には通用しないらしい。
「いやあ、だってさ。
子供の言う事なら聞いてくれそうな気がしない?」
「そうだよお。みたいよお」
「ちょっと興味がありますよね」
「いや、そう言われましてもねえ」
「あ、ジョリーさん。美味しい御菓子と甘いジュースがありますわよ~」
余所行きの言葉で甘い言葉を投げかけるエリ。
そこに含まれている下心はまったく甘い物ではないのだが。
「やや、エリさん謹製の御菓子ですか。
そいつは嬉しいですねえ。
いただきます」
さっそくテーブルの上のケーキにむしゃぶりつくジョリー。
「だからさあ、ちょっとだけさあ。
ね?」
「それはそれ、これはこれという事で。
それではまた」
状況が状況だけに、ケーキは素早くいただいた後であったので、またしても床に潜り込んで逃げ延びるジョリー。
「ああん、食い逃げされたあ~」
エリが地団太踏んで悔しがる。
カミラは狩りの本能を刺激されまくりなようで、歯を剥いて唸っている。
俺は、今度はアルバ大神殿へと出かけた。
「おっす、ミレー」
「おや、大司祭様」
ミレーは気取って、ちょっと余所行きの笑顔で出迎えてくれる。
彼女もそのうちにはジェシカについていき、ここを出て行くのだ。
ずっと彼女の傍にいて、その死後も彼女の子孫を代々見守る所存に違いない。
「まあまあ、君。
そう杓子定規な挨拶をせんと。
気楽に、気楽に~」
「もう園長先生ってば、その妙なニタニタ笑いは止めてくださいな。
ちょっと不気味ですよ。
一体どうしたというんですか?」
「いやさあ、今ケモミミ園では『ジョリーの正体を探せ』が大ブームでさあ」
「呆れたあ。
それで私のところへ来たのですね。
でも駄目ですよ。
それは教えられません」
「ミレー、お前もか!」
「もう!
シーザー園長ったら。
人が隠そうとしているんだから、そっとしておいておあげなさいな」
最近地球の本とかを御土産によくやっているので、ミレーにはこういう物言いが通じる。
高位精霊は、あッという間に日本語の読み書きなど覚えてしまった。
実に羨ましい学習能力だ。
俺ってこの世界へ来て、そういう事に関しては凄く苦労したんだよね。
「ちぇー、ここも駄目かあ」
俺は諦めて、さっさとアルバ大神殿を御暇した。
お次の目的地は御山だ。
「なあ、バルドス。
精霊の森の大神官ジョリーの正体って何か知らない?」
わざわざ精霊の森から呼ばれた竜材なんだから、彼ならばジョリーの正体も知っているんじゃないかと思って来てみたのだ。
バルドスと親しい関係だった真理だって知っていたんだし。
「知っておるが、それがどうしたというのだ?」
やっぱりか~。
「御願い、教えて~」
「本人に聞けばよいではないか」
「えー、あいつったら教えてくれないんだもん」
「なら駄目じゃな」
「えー!!」
その後も結構粘ってみたのだが、爺も笑って相手にしてくれない。
しまいには鍛錬の邪魔だといって、ポイっと追い返されてしまった。
「うーん、基本的に大神殿の精霊としか付き合っていないジェシカは知っていないだろうしなあ」
どうしたものか。
万策尽きたか。
でも見たいんだよなあ。
「なあ、アドミン。
ジョリーの正体が見たいんだけど」
刹那の間も置かずに、頭の中で神の哄笑が響き渡った。
ちっ、神頼みも通じなかったか。
「ちぇっ。
じゃあ、イコマ。
お前は?」
そして瞬刻の後に、左手の指を細かく反りくり返す、俺との間に取り決めたイコマの笑いのサインは止め処もなく続いた。
やがて俺の意思に反して、指を一本突き立てたたまま腕が天高く指して突き上げる『大爆笑』のサインを表したまま、何度も天井を突上げまくっていた。
その上イコマの奴は、天井を指したまま指を腕ごとクルクルと回して、更なる大笑いのサインを表した。
もうっ、『中の連中』と来た日には!
「ええい、どいつもこいつも役に立たん連中ばかりだな!」
だが、ふと思いついた俺は、ある者のところへと赴いたのだった。




