102-4 立ち飲みドワーフ
「ほっほう。
これは美味い酒だな。
親父、もう一杯頼む」
「そうでしょう、そうでしょう。
美味しいんですよ、これ」
屋台街に設えられた、座敷付きの店の店先で立ち飲みをしている奴がいた。
それはもちろん、言わずと知れたハンニバルの親方である。
いつの間に覚えたのか、日本語でちゃんと注文していやがる。
トーヤは将来いい教師になれるかもしれない。
だが、なんていうかな。
せっかくの座敷なんだ。
ちゃんと座って飲めよな。
しかし、それにしてもあの餡子型の巨躯は目を引くな。
狭い通路の中で一際その存在感を醸し出す巨漢の姿に、通りすがりの誰もが振り返っていく。
本当はそう狭い訳でもないのだが、あの親方がドズンと存在するだけで、なんかこう通路が非常に狭く感じる。
異彩を放つとは、まさにあの事。
またパッと見に凄く凶悪そうに見えるからな。
身長二メートルと五センチ。
しかも赤ら顔の禿げた物凄い筋肉達磨なのだ。
まるで映画の中の住人だよ。
俺だって、この街でこんな見るからに物騒な奴らがうろうろしている事など、今日の今日まで生まれてこの方見た事がない。
もっとも今日はドワーフが五十人以上も来ているので、その御姿は屋台街のあちこちで見かけるのだが。
奴らが寄り集まって五~六人固まっていると、通行人の皆さんが、まるで岩に砕けた波であるかのように避けていかれる。
これはヤバいな。
本日は『三人以上のドワーフによる集会禁止令』を出しておくべきだったか。
あまりにも常日頃奴らを見慣れ過ぎているので、日本に連れてきたらここまで破壊力があるとは思ってもみなかった。
俺はもう手後れなほど異世界に毒されてしまっているようだ。
法被を着た市役所の職員? 桜祭の運営委員らしき人が、警察に通報しようかどうしようか迷っているようだったので先にこちらから声かけしておいた。
いや、危なかったぜ。
「あ、こんにちは。
あの大男達は、エルドア共和国からおいでの親善使節の皆さんですよ。
ええ、太平洋の方面にある国なんですがね。
せっかくの御来日ですので、桜祭を楽しんでいただきたいと思いましてねえ。
まあ見かけはあれですが、皆さん大人しいものですよ。
わははは」
わ、我ながら、よく言うわ。
「そ、そうなんですか。
いや、それなら安心だ。
楽しんでいってくださるといいですねえ」
「ええ、ええ。どうも。
他の皆さんにも、よく御伝えください。
はい」
とりあえず、『警察沙汰』は避けられたようだ。
親方達だって別に何もしちゃあいないんだけどな。
しかも、その警備の応援を俺が首相を通して呼んだという経緯もある。
だから余計に身内の警察沙汰は避けたい思惑もあるのよ。
一応、警備の方にはあれこれと伝えてあるつもりだが、その辺りは大変心許ない。
百聞は一見にしかずって、まさにこういう事を言うんだろうな。
「親方」
「ん? なんだ?」
つまみのイカ串を、豪快に一口で食い千切りながら親方が答える。
そして俺がいつもじっくりとチビチビ味わって飲むような、一杯千五百円もする高い焼酎を一気飲みしているし。
まあ、いつもの見慣れた風景だ。
「今日は、みんな暴れないでくれよ」
すると親方は、さもおかしいと言いたげに顔をくしゃくしゃにして笑った。
「わしらがいつ暴れたと?
いつも暴れているのは、お前ではないか」
「そうだった!」
忘れていた。
まさにその通りだ。
だが俺だって、何もなければ暴れたりはしないのだがな。
それはもう、物語なんか何も始まらないくらいにね。
この連中が暴れるのは、基本的に作った武器の試し切りをする時だけだから。
それはもう鬼神の如くに。
後は鍛冶の邪魔をされた時なんかだよな。
「いや、お前らって目立つからよ。
警備の見回りの人から警察まで、きっともう目を付けられているぞ」
まあ、こいつらが酔って暴れる事なんてないけどな。
ドワーフにとり、酒は純粋に楽しむものなのだ。
むしろ酔って暴れている奴がいると、自分達が飲むのに邪魔なので思いっきりぶっとばされる。
「はっはっは。
その時は目に物見せてやろう」
「だーっ!
だから、それを止せと言うとんのじゃあ」
「まあ、そう細かい事は気にするな。
おい親父、今の物と同じ酒をもう一杯だ」
そう言いつつ、御代わりの焼酎を催促する親方だった。
既に一万円くらい前払いしてあるみたいだ。
金は全員に封帯付きの札束を丸ごと渡してある。
少しは今日の祭の賑わいの足しにはなるだろう。
まあ、そうしておかないと、あっという間に金が尽きて店と揉めていたりするからな。
終いには、向こうの世界の金貨で飲もうと画策するだろう。
少し歩いた場所にある玩具の店の前に、ミミと尻尾が大量に揺れまくっていた。
うちの子もシルと一緒に混じっている。
元少年兵達(幼児含む)も、もれなくその店の捕虜となったようだ。
「レミ、楽しいかい?」
「うん、たのしい~」
右手に持った牛串を豪快に天へと突上げながら愛娘が叫んだ。
ショー達が玩具の店から一向に離れようとしないので、連中の事は沖田ちゃんを呼んで面倒をみてもらう事にし、俺は紙コップのビールを片手に愛娘と手を繋いでぶらぶらする事にした。
店で仕込んだ大量の玩具は、娘ちゃんのアイテムボックスのリュックに収まっている。
だが、やはりこの子も注目は浴びている。
何しろ、可愛いケモミミっ子だからな。
しかも綺麗な色をしたオッドアイなのだ。
特に女の子達が抱っこしたそうな感じにチラチラと見ている。
あと、シルが一緒だから。
何しろ異世界の元王女様なのだから、ここでは異彩を放つほどの美貌を見せつけている。
銀髪ドリルが凄い注目度だ。
うちの子だって血筋的に言えばケモミミ王家の生まれなのだが。
シルも日本人の遠い子孫なので、ここでは『日系人』の範疇になるのだろうか。
もうその名残は跡形もない銀髪青い目の美少女だけどな。
本日は何か勘違いをしたらしく、派手な柄の浴衣を着込んでいるので余計に目立っている。




