93-1 爆弾を抱えた結婚式
ついにアルグランドで、例の二人とアルスの結婚式を執り行なう事になった。
今回は戴冠式も兼ねるので、あちこちで大童なのだ。
アルグランドは人材不足でどうしようもないので、式の準備や進行はアルバトロス王国に一任される事となった。
まあ実際にはグランバースト公爵家を事務局にするわけだが。
一体、うちで取り仕切る何回目の結婚式だろう。
もう幾多の王族結婚式パッケージプランが用意出来ている。
さすがにこういう態勢は地球の結婚式場でもないよな。
いきなり、あの草原の王者がアルバ王宮にやってきたかと思うと、彼の推薦員である国王陛下に『任せた』とシンプルな一言を残して帰っていかれた。
うちの王家としても身内である自国の公爵令嬢の嫁入り先なので、尽力するには吝かではない。
各国の王族出席者は、アルバトロス王家とうちで確保する事になった。
といってもアルバトロス王国はもとより、サイラスはアルバトロス王家親族であるルイス国王、ハイドは元アルバトロス王国第一王女のメリーヌ王妃、ベルンシュタイン帝国皇帝は魔王の舎弟など、王族の参加予定者は親族や親しい知己で占められている。
ザイード王国に至ってはアルバトロス王国王太子妃の祖国の国王にして、しかもその王太子妃の父である現アルグランド王国王室顧問であられる草原の王者がいる。
草原の王者なんかはもう、本来なら現地における主催者側の人間のはずなんだけどな。
ハイド王国にとってもアルスは、かの空中庭園事件では主役であったシド王太子(当時)を食うほどの活躍をした功労者なのだ。
現国王の命を救った英雄王に対して、あそこは御祝いを一際華やかにするのではないだろうか。
エルドアからは親方達が来てくれるし。
あの人達が味方としていてくれるだけで、対外的な問題なんかは全て強引に無しに出来てしまうという、あの圧倒的な存在感。
そしてアル・グランド奪還戦にはセブンフラッグの一員として関わったので、ケモミミハイムからは『御爺ちゃん』その人がやってくる。
うちの娘は、今回はケモミミハイム王国王家からの希望により、母親の実家の姫としての扱いとなり、御爺ちゃんの御隣の席にする予定だ。
レミも大好きなアルスちゃん(元騎乗馬)の御祝いが出来るので嬉しそうだ。
そして真理がレミの御世話係についてくれる。
当日は、俺も自分の娘よりも手のかかるとんでもない奴を相手にしないといけないのだからな。
娘を母親の実家で預かってもらえて非常に助かる。
「園長先生、頑張ってね」
真理も若干心許なさそうに励ましてくれる。
あれは大物だからなあ。
「お、おう。
正直に言って、この俺も大変に心許ない気持ちでいっぱいだ。
ゲルスとやりあっていた時の、魔法が使えなかった時の方がずっと強気だぜ」
「ご、御愁傷様~」
ゲルス時代の同盟国だった両隣の国は、しがらみから参加せざるをえない。
それ以前から隣国として付き合いはあったのだしな。
というわけなので無事に面子は自動的に揃った。
ロス大陸全ての国家及びケモミミハイムからも王族級の賓客がやってきて、そして我が国アルバトロス王国の公爵家との婚姻を控えるメルス大陸のパルシア王国からも、先方の王太子がやってきてくれる。
そっちの方は外交も兼ねて、当日はミハエルが自分で迎えに行くらしい。
あいかわらずマメなこった。
その他のメルス大陸国家からも大使クラスが参加してくれる。
例の十三か国連合の背信組国家マリノとホープは、ちゃっかりと王族が参加してきている。
その辺りの人間は、当然のように商売っ気のありそうなタイプらしい。
俺も是非ともそのお話に混ざりたいので、そっちは顔繋ぎとしてうちの連中に迎えに行かせた。
またマリノの方は、今の|アル・グランド王国幹部の出身国でもある。
ケモミミハイムを除いたメルス大陸関係のホストは、パルシア王国も含めて東の公爵に御願いしておいた。
俺や王太子殿下にも紹介してくれるという段取りで。
これだけの面子が一堂に介するのは滅多にない事なので、ミハエルは他にも走り回らねばならないため、あいつは「疾風のミハエル」として活躍する予定だ。
というか、王太子殿下が式に出席するからには、あいつはその分も自国で仕事をしないといけないので、短時間で密度の濃い仕事をしないといけないのだ。
後の事はもう全て、この魔王の管轄だ。
花嫁衣装から神殿の大神官、式典の進行プログラムから神聖エリオン、そして新婚旅行パックから引き出物に至るまで、王族結婚式は既に既製品が揃っているといってもいい。
なんでも揃うアルフォンス商会は、まるで日本の総合商社のようだ。
これからは日本円さえ調達できれば、日本から多様な品目を直輸入する事も可能だ。
そっちの方は、日本駐在の沖田ちゃんと斎藤ちゃんが組んで、あれこれと話を進めてくれている。
それに加えて事務関係が得意な秋山君を日本へ送っておきたかったのだが、今あの子をアル・グランドから抜いてしまうとまた面倒なので、もうアドロス商業ギルドからロゴスを責任者としたアルフォンス商会の人間をゴーレム随伴で日本へ送り込んである。
ついでに家宰のロドスにも視察も兼ねて、たまに日本サイドへ入ってもらってある。
俺の財政に大きく関わっているあの二人は、向こうの知識こそないものの、絶対に信頼出来る人間なので慣れてくればいい感じになるだろう。
ロゴスもずっと日本へ行っているわけではないので。
なんというか、アルフォンス商会日本支部設立まで頑張ってもらう感じだ。
東京は、あの初代国王が住んでいた街だというので、彼も日本行きの仕事を任されて物凄く感激している。
二人とも異世界日本のあれこれには目を白黒していたが、なんとか上手くやってくれている。
あの辺の人材は、やらねばならない事は必ずやりきるタイプの人間だしな。
サイラスやハイドは共に結婚式と戴冠式を同時にやっているので、その方面のノウハウも身内同然の奴らが持っている。
というか、サイラス国王やハイドの王妃は完全にミハエルの血縁である身内だ。
ハイドの方は、その戴冠式を兼ねた結婚式も、うちで取り仕切ったのだからな。
警備はうちのゴーレム部隊が担当しているし、各国からの騎士団もやってくる。
うちなんか、王族結婚式みたいなものはいくらでもやっているから、そういう面においては特に問題など存在していないのだ。
あの箸にも棒にもかからない、花嫁の片割れの駄目な方以外には何一つ問題はないといっていい。
それが一番問題なんだよ。
結婚式を控えてアニオン公爵家は大騒動であった。
本家の娘であるベルベット公爵令嬢には何の問題もないのだ。
だがもう一方の奴ときた日には!
衣装合わせをしている時でも。
「あわわわわわ」
そして誰かが台詞をはさむ暇も無いうちに、また。
「あわあわあわ」
一向に仕度が進まない。
わかってはいたのだ。
いつか、この日がやってくる事くらい。
別にアニオン公爵家の人達が手をこまねいていたわけではない。
ただ、匙を投げていただけだ。
王族の娘でありながら、このような粗忽者であるなど滅多にある事ではない。
アニオン公爵家からの要請により、あのフィアの面倒を見たうちのスペシャルチームの出動が決定された。
そして肝心の大神官なのだが、少し神殿の方の仕事が立て込んでいたので、なんとフィアしか使えないという驚愕の事実が判明した。
フィアの奴に、いきなりこのような超重要な仕事を任せられるはずもないしなあ。
ジェシカでさえ、見習いの頃にこんな展開は無かっただろうよ。
こいつは計算が大きく狂った。
絶対にミスれないこの大事な結婚式は、無難にジェシカに任せる予定だったんだよなあ。
先に彼女を押さえておかなかったのは大失敗だ。
フイアを助手に付けて、いつもジェシカの休日に代わりをやってくれていた人に大神殿の方の仕事を任せる手筈にしておけばよかったのだ。
今更言っても、もう遅い。
ジェシカはうちを通して三人の当事者とも顔見知りだし。
何よりも純粋にあの子の能力が高いのだ。
各国の王族が集結するため、式の日取りも簡単には動かしにくいから如何ともし難い。
まあフィアの粗相が目立てば、逆にあの花嫁の粗忽者な印象が薄まるのかもしれんな。
あれはもうしょうがない。
仕事に慣れさせるしかないので、粗相は平常運転だから、今回は問題としてカウントしない。
俺はそんな風に暢気に構えていたのだが、これが大きな間違いだったのだ。
当然、俺もアルバ大神殿大司祭の立場で参加して、御山の爺にも協力を要請した。
エリーンや真理などの強力なサポートメンバーも、しっかりとあの子の補佐につく体制だ。
レミには急遽シェルミナさんがつく事になった。
あの人なら、そういう舞台でも卒なくやってくれる。
当日はフィア対策でベル君も連れていく。
一応陛下から帯同を命じられたという形式で。
今回は王太子夫妻も参加するのだ。
次の時代を担う者同士の顔繋ぎという意味もある。
また王太子殿下には、まだあまり外交の方面はやらせていないので、経験を積ませるという意味合いもある。
彼の業務代行はミハエルが担当だ。
あいつは一通り走り回った後に、またいつものように王太子代行業が始まるのだ。
彼は空中庭園事件以来アルスとは親しいので、特に改めて顔合わせとかで行く必要はない。
第二王子名目で祝いの品だけは送るようだ。
「グッドラック、魔王」
「正直に言って、ちょっと心許ないのだが、まあこのままやるしかないな」
こういう時にこそ、この頼りになる男に来てもらいたいのだが、王太子殿下を差し置いてこいつだけ来させるわけにはいかない。
元々、外交はこいつが裏方として活躍していたので、ミハエルがいなくても彼の経験的には問題がない。
今回は御兄ちゃんの方の出番なのだ。
シルはベルベット嬢のセコンドについている。
それは本来ならまったく必要がないものなのだが、今回に限ってはいた方が絶対にいいだろう。
何しろシル自身が王宮女の子軍団の大将だったので、あの粗忽者の生態にも非常に詳しい。
ある意味において、うちの離宮で『あれ』の一番の専門家といってもいいのだ。
幸いにして、そのシルの投入に関する最大のネックとなっていたはずのレミは、シルが完璧に信頼しているシェルミナさんと共にレミの母親の実家で手厚く預かられている。
御蔭で超性能の魔導ホムンクルスである真理は、遊撃手としてマルチに活躍出来る態勢になっている。
普通、結婚式にリベロは必要ないように思うが、今日ばかりは力押しで乗り切らないとな。
「園長先生、なんか緊張するねえ。
なんというか本来とは違った意味で」
「ああ、奇遇だな。
俺もだよ」
アルスも何も問題が無ければ、この程度の事は軽くこなしてみせるだろう。
今まで散々修羅場を潜ってきたSランクなのだから。
王族からの指名依頼も多く受けて来たはずだ。
だが振り分け荷物の一つが超大物だった。
俺も、それに加えて超ド級の王国結婚式を超粗忽物の部下に任せざるを得なくなってしまったので、そっちも予定外の事態だった。
ジェシカかマリーナのどちらかを当てようと思って打診していたのだが、どちらも自分の仕事から外せない状況になってしまっていた。
さすがに大司祭といえども、大神官に対して本来の仕事を反故にして他の仕事をやってくれなんて言っちゃいけないのだ。
今回はマリーナがいてくれないのが痛い。
あの腹話術はたいしたものだった。
一応新撰組にもサポするように命じてある。
当日は日本組の連中も戻すのだ。
あいつらは物見高いので、放っておいても向こうの仕事をサボって勝手に戻って来るだろうけどな。
フィア本人にも式辞のカンペは持たせてある。
次期大神官ともあろう者がとは思うのだが、こいつは前科一犯だからな。
今回は国王の結婚式、そして戴冠式も兼ねているのだから決して失敗は許されない。
もしやってしまったら、我がグランバースト公爵家末代までの恥晒しとなる。
それだけは絶対にやってはいかんので。
後は出たとこ勝負だ。
フィアとジェニュインに妙なタッグを組まれたりすると困るのだが。
何かあったら精霊を使って誤魔化す所存だ。
一応グスタフも助司祭として借りてきてある。
祝福要員でもあるしな。
やがて超問題結婚式は始まった。
そして奴らはのっけからやってくれた。
花嫁が出てこないのだ。
しかも二人共だ。
おまけに付き添いのシルまでいない。
これは全員一緒だな。
一体どうなっているのだろうか。
あれ、フィアの奴もいないぞ。
これは、ま・さ・か。
犯人は奴か~。
「しまった。
やっぱり、あいつも連れてきておくのだった」
俺はバルドスにしばらく間を持たせてもらうように頼んで、急遽日本へ異世界転移で飛んだ。




