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91-4 新兵器マークⅣ

「これは結構難しいですねー。

 潮の流れに乗って仕掛けが流されてしまって、仕掛け同士で絡まってきます。

 せっかくの仕掛けが死んでしまうから、結局何度も引き上げねばならないし。

 一斉に蟹をかけないと、せっかくかかった蟹が他の奴らに取り押さえられます」


 そうなんだよなあ。

 これはまたどうしたもんか。


「魔王、彼女の言う通りだ。

 この仕掛けが絡まるのをなんとかしないと、じっくりと当たりも取っていられんぞ」


「僕らも無理だー。

 園長先生、なんとかしてー」


「うーん、ちょっと考えさせて」


 どうしようかな。

 だが、ふっとスーパーヨットの方を見ると、子供達が水の精霊達と遊んでいた。


「あれは……」


 そうだ、あれは去年蟹がかからなくて退屈しまくった俺が集めていた水の精霊達だ。

 チビ達が腕輪で集めた魔力の御飯やおやつをやっているらしい。


 あいつら、ずっと蟹漁船の中にいたんだな。

 驕ってベスマギル・バッテリーを使っていたから、まだ魔力は十分過ぎるほど残っている。

 精霊達は、おやつ目当てで向こうの船へ行っていたか。


 いけね、蟹漁船の中に秘密の超魔法金属ベスマギルを丸一年くらい置きっぱなしだったわ。

 こいつは迂闊。

 あは、善良な海賊団(偽)でよかったな。

 どうせ来年も親玉に呼ばれて俺が来るだろうからと、そのまま大事に取っておいてくれたらしい。

 いやあ感謝感謝。


 船もシーズンオフまで仕舞っておかれたようだ。

 貴重な二隻しかない魔導船なのになあ。

 本当に蟹漁専門船なんだ。

 どれだけ蟹漁が大事なんだよ。

 まあ国王自ら伝統芸能みたいな感じに釣り上げる代物なんだからなあ。

 精霊が滞在しているから、船はピカピカの状態を保っていたんじゃないか?

 俺には、そいつらの加護もついている。


「おーい、お前ら。

 ちょっと来てくれー」


 俺の魔力放射で呼ばれた精霊達がふらふらとこっちへやってきた。


「あーん、せいれいさんたちが、いっちゃったー」


「チビどもー、精霊さんとはまた後で遊んでやってくれ。

 精霊さん達はちょっと御仕事だ」


 またこいつらは非常に可愛らしい感じで、長細くて頭が丸い、小さな海坊主の群れのような連中だ。

 表情が少し埴輪っぽくて可愛いな。

 太めのチンアナゴ(埴輪風)的な可愛さがある。


 俺は仕掛け一つ一つにオリハルコン製のおやつ用小型魔力バッテリーをつけてやり、水精達を装填した。


「いいか、お前ら。

 この仕掛けが絡まらないようにして、蟹さんの前に行ってくれ」


 仕掛けに取り付けられたオリハルコンの上から、連中が可愛く手を振った。


 次々と投げ込まれていく仕掛け達。

 いわば、これはエリュシオン・マークⅣだ。


 もう、これだけの大掛かりな仕掛けを使うとハイドの船では大きさ的にキツイので、全員とっくに生け簀船の方でやってもらっている。

 元々、釣り船に生け簀があるのが普通なのだが。

 今度ドワーフに頼んで、もう少し大型の魔導船を作ってもらうか。


 従来のハイド船の甲板には、基本的に毛蟹を一匹ずつしか載せられない。

 蟹が暴れたりしたら船が沈みそうなのだが、それでもハイド人にかかれば討伐できるのだ。

 さすがに六匹ずつかかった蟹を引き上げると、もう船が転覆しそうな勢いだからな。

 これはドワーフの魔導船だからこそ、そう簡単に沈みはしないのだが。


 仕方がないので、そこは重力魔法でサポートしているが、一応漁には迫力も必要なので匙加減は考えている。

 重力魔法を真面に使用すると、なんというか可愛げがないというか、まったくビクともしないというか、さすがに趣がない。

 まあ大人数で友釣りをするので、ここは大型船でやってもらうしかあるまい。


「頼むぞー、お前達」


 そして海中を漂っていく精霊付きの仕掛け達。

 大まかな移動は釣り師が操作してくれるので、精霊達はそこから生えた枝である仕掛けを動かしていくだけだ。


 最初に当たりを引いたのは、やはりエリーンだった。

 奴等が六匹編成だったので、仕掛けは竿一本につき六個ずつ付けてある。

 精霊は見事に仕掛けを操って、綺麗に六匹全部がヒットした。


「やりました。

 これはいい手応えです!」


 唸りを上げて引き上げ用の超強力魔導モーターが仕事を開始した。

 すると、まるで水中から怪獣が群れで現れるかのような飛沫を上げて、蟹どもが群れで引き揚げられてきた。

 こいつは迫力がある。


 それら一匹一匹を仕掛けごと竿からパージして、泡を吹く口から取り外すと、船の大型生簀へと転送した。


「あれ?

 まだ食べないのですか?」


「くっくっく。

 エリーンよ、食うのはあのクラブエンペラーを倒してからだ!」


「あれえ、あいつを倒しちゃうのです?」


「あ、いや。

 そのへんは勢いで言ってみただけで。

 あいつを倒しちゃうと来年からの蟹漁の楽しみが!」


「ですよねー。

 それにどうせ食べるなら、しっかりと身の詰まったピチピチの蟹がいいです」


 そこには、もう脳汁を吹かんばかりにうっとりしたエリーンがいた。


「魔王、ヒットだ!

 引き上げを頼む」


「園長先生ー。

 こっちも来た~」


 シドも釣り上げて、続けてお稲荷コンビも釣り上げた。

 友釣りで、この巨大な毛蟹が三本も同時にかかると、まさに壮観以外の何物でもなかった。

 釣り上げるというよりも、吊り上げると言った方が似合う感じだ。


 ほとんどコントのような有様で、重力魔法を使っていなかったら、さすがに巨大さを誇る生け簀船も転覆しているだろうな。


 連続ヒットの釣果に俺も大忙しだ。

 大型水中ゴーレム共にも手伝わせている。


「やったぜー。

 ついに釣り上げまくったな」


 生け捕った蟹は手早く海水の生簀に入れておく。

 生簀船は甲板がほぼ平らで、まるで空母か特殊な海洋調査船のような様相だ。

 何しろ蟹自体がでかいので、その船体が蟹漁船よりもかなり大きい米空母並みのサイズなのだ。


 転移ゲートが見学船のブリッジに用意されているので、そこから子供達が見学にいく。

 生簀はその甲板の真ん中に巨大なプールの如くに鎮座ましましている。


 手摺りの向こうは透明な壁で出来ており、そこを通してみることができ、魔法で子供達も落ちたりしないし蟹も逃げ出せない。

 天井をシールドで蓋をされているので、得意のジェット噴射でも逃げられまい。


 甲板の気温もコントロールしているので、おチビを連れてシルもやってくる。

 みんな手摺りを握り締めて夢中になっている。


「レミちゃーん、ほら大きな蟹さんよ~」

「おおきいー、おいしそう~」


 そんなおチビの呟きが耳に入ったのか、蟹がややビクっとしている。

 そして何やら鳴いていた。

 なんだろうな。


 トーヤも自分で釣り上げたというか、吊り上げた蟹に対して目をキラキラと輝かせながら見ている。

 こいつらは捕虜というわけだ。


 さあ連中はどう出るか。

 戦いはまだ終わったわけではない。

 それにしても、蟹どもがやけに大人しいな。


「魔王、何故捕らえた蟹を捕虜なんかにしておくんだ?」


 海賊王が不思議そうな顔をしている。


「あのままクラブエンペラーが引っ込んでいるとは、とても思えないので」


「そうか。

 なら何をしてくるのか楽しみだな」



 そして奴らの人質、いや蟹質奪還作戦が始まった。

 なんと、いきなり工作員が蟹漁船に忍び寄り、漁師さんを数人攫っていったのだ。


 これは予想外の攻撃がきたな!

 毛蟹どもめ、賢いにもほどがあるぜ。


 さっき鳴いていたのは、これの件だったようだ。

 そんな作戦まで立てていたのかよ。

 しまった、ファルを呼んで内容を聞いておくんだった。

 本当に蟹離れした奴らだよな。



 そして海面を泡立たせて、まるで怪獣のようにクラブエンペラーが現れて、何か呼びかけてきた。

 もう仕方が無いのでファルを呼んでくる。

 通訳してもらったのはいいのだが、その内容ときたら。


「我々は漁師達を預かっている。

 人質交換に応じよ、だってー」


 そして俺達は仕方がないので誘拐犯(テロリスト)と交渉に入った。


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