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91-3 新兵器投入

「ねえ園長先生、どうして大物がかからないのかな。

 ちょっとおかしいよ」


 もう小物ばっかりを三十匹も吊り上げたエリーンが首を捻った。

 リヒターは必死でエリーンの御手伝いをしている。


 こいつもいい体をしているし俺みたいに不器用ではないのだが、いかんせん初めてやる作業だからな。

 リヒターも一応は上級貴族の当主なんだから、通常はこんな作業なんてしないからな。


 二人共、当然のように日本の漁師さんの格好をしている。

 見事なまでのペアルックになってしまっていた。

 御洒落なエリーンのためにカラフルな素材を使ってはいるがね。

 これで街をデートして歩いたら、違う意味で注目の的になる事請け合いだ。


 さすがにコスプレと言い張るには無理があり過ぎる。

 さすがに男ばっかりでやってる漁師のアニメなんてないよな。

 び、BL系なら、なんとか?

 いや、さすがに無いだろうな。


「あれえ、なんで釣れないのかなあ。

 大きな蟹もいっぱいいたよね」


「いたいた。

 なんであれが釣れないんだろう。

 この竿の仕組みからいけば、大きい蟹も大丈夫のはずなのに」


 こちらも可愛い漁師さんスタイルをした御稲荷王子様コンビも同様の声を上げている有様だ。


「そうだな。

 ちょっとゴーレムに様子を見させよう」


 だか気が付くと海女さんの格好をした斉藤ちゃんと沖田ちゃんがいた。


「あれ? 沖田ちゃん。

 織原は?」


 彼女は黙って俺の後ろに突っ立っている織原を指した。

 振り向くと、そこには何か間抜けっぽく片手を上げて挨拶してくれる織原がいた。


「いたのかよ」


「なんだか知りませんが、いきなり沖田ちゃんに異世界へ連れてこられたんですけど。

 さ、さむっ」


 沖田ちゃんは海女さんのロールプレーがしたくて、こっちの世界に織原ごと戻ってきたらしい。

 俺は魔道具の暖房付きコートを出して織原に着せてやった。

 実家のコタツでぬくぬくしていたところを、薄着のままいきなり連行されたらしい。

 沖田ちゃんは織原の監視任務と並行しないと遊びに来れないからな。


「ところで日本ではどんな具合だ、織原」


「はあ、向こうじゃ以前とまったく変わらない扱いですよ。

 異世界? 何それって感じで。

 学校からの御情けで、今はあいつらと同じ三年生クラスに入れてもらいました」


「その後は、一年生からやり直しか?」


 苦笑いして頷く織原。


「十一月にこっちへ来ちゃいましたからね。

 どう頑張っても出席日数がギリギリ足りなくって。

 無闇に学校を休んだりはしていなかったんで、三学期に入ってからだったら出席日数はなんとかなったのかもしれませんが、まあ他の同級生連中はもう卒業していきますから結局そう変わりませんよ。

 どの道、もういなくなって二年以上経っていたから補習を受けても駄目だそうで。

 学力の方は、なんとか三年生の授業についていけているんですが」


 それは大したものだ。

 こいつも頭は良かったんだな。

 こっちでも勉強しまくっていたしなあ。


「まあ特殊事情という事で、受験し直しではなく、来学期からは一年の始めからやり直しです」


 三年間、同級生から先輩と呼ばれる道を選んだか。

 こいつなら大検を受けて大学受験という方法もあったのだろうが、ちゃんと高校生活で青春したいんだよな。


 それもまたよし。

 異世界でこいつが夢見ていたのは高校復帰なのであって、いきなりの大学生活ではないのだ。

 そうしないと失った日々に対する郷愁で心のバランスが取れまい。

 こいつの場合は実家の家業で働けるみたいだから、年齢的な出遅れは社会的ハンデにはならないと思うので、それでも特に問題ない。


 そうこうするうちに、いつの間にかゲートを通ってこちらの船に乗り移った子供達が背後より忍び寄る。


「わーい、オリハラだー」


「おー。

 よわっちいにいちゃん、ひさしぶり~」 


「お、おう」


 子供達の悪戯を警戒して腰の引けている織原。

 そして、それは後ろから飛んできた。

 うちの魔道具である普通竿の針だ。


「こ、こらあ」


 大声で喚くも、織原は子供達に見事に一本釣りにされていた。

 織原はコートの端っこに針を引っ掛けられてしまっていてじたばたしている。


 子供達の先頭を切っているのは、もちろんカミラだ。

 愛されていてよかったな、織原。

 そうでなかったら、まったく相手にもしてくれないからなあ。


 奴も早々に針を外して、チビ達と一緒にドタバタと追いかけっこをしている。


「じゃあ、ちょっと潜ってきまーす」


 可愛い海女さんスタイルで、下は褌一丁の斉藤ちゃんと沖田ちゃんが威勢よく海に飛びこんでいった。

 そして送信されてきた映像に映っていたのは、群れている蟹達だった。


「おお、奴ら班分けにしているのか?」


 そこへエリーンの放り込んだ仕掛けが飛び込んでいく。

 映像を見ているわけでもないのに、狩人の勘で的確に蟹のいる部分へと仕掛けを操っている。

 おそるべし、黄金の狩人。


 いつの間にか海賊王も参加していて、これまた的確に仕掛けを寄せていく。

 生まれて初めて操る魔道具の竿で、よくこれだけやれるもんだ。

 あれを作った本人である俺自身は、この魔道具の竿を未だに使いこなせていないのは、ここだけの秘密だ。


 蟹どもが、どうやって仕掛けにかからないようにしているのかと思っていたら、なんと集団で行動していて、赤い目玉に反応した奴はみんなで一斉に取り押さえていやがった。

 去年俺と闘った奴らなので、あの屈辱は忘れられないらしい。

 奴らも相当気合が入っていた。

 

 それでも若いというか子蟹は引っ掛かってしまうようだが、こちらがリリースするのを知っているので、そいつらは放ってあるらしい。

 ふふ、相変わらず賢いな。


「やるな、クラブエンペラー」


「どうするんですか、園長先生。

 このままでは坊主もいいとこですが」


 食欲魔人が何とかしろと目で訴えていた。

 同じく、御稲荷コンビも後に続いている。


「まあ待て。

 今から竿を改良する。

 後はお前達の腕次第だな」


「それは楽しみです」


 ペロリっと舌で上唇を舐めるエリーン。

 そして、その妙に色気のある仕草ををうっとりとして眺めているリヒター伯爵。

 やれやれ。

 それは色のあるような話ではなく、食欲なんだと思うのだが。


 それから俺は、更に仕掛けを工夫してみた。

 いわゆる友釣り用の仕掛けを作ったのだ。

 こいつは蟹の大きさに合わせて広がるので、かなり操る範囲が広がるので、これを使うにはそれなりの腕がいる。


 個々の仕掛けを別々にコントロールするのは無理なので、個々の仕掛けが出ている元の部分だけを動かして上手に操るのだ。

 個々の動きをコントロールできる仕掛けも作れるが、そんなもの人間が随時操作する事は無理だろう。


 友釣りで、一緒にいる同じグループの他の蟹も一網打尽にしてやる。

 引き揚げるのはかなりパワーがいるが、海面までは魔導モーターが頑張ってくれる。


 船上に引き揚げる俺が大変だが、足場も甲板を強化して踏ん張ることにする。

 一匹ずつ外して転移魔法で大型生簀船へ送りこんでいかないと、さすがに甲板が手狭になる。

 もういっそ、生け簀船の上で釣るか。

 いや普通の船釣りって、その上に生け簀があるのが普通だよな。


 威風堂々、エリュシオン・マークⅢの誕生だ。

 まるで鯨を釣るような竿だな。

 吊り上げた様は、なんというか凄まじい。


 全長六十メートルの船上で、幅二十メートルもの大きさがある蟹を六匹くらい友釣りにしようとしているんだからな。

 また毛蟹っていうものは、丸っこくて身がびっちりと詰まっているんだから、同サイズならズワイガニなんかと比べたら見た目がかなりでかい。

 さすがに無理があるので河岸を変えて大型船の方へ移った。


 魔法を使って引き揚げれば簡単なんだが、それでは遊びとして面白くない。

 一応重力魔法は使用している。

 そうしないと蟹の重量で船がひっくり返ってしまうからな。

 釣り場を大型船の方へ移したので、そのあたりの話は大丈夫だと思うが。


 俺も去年に比べれば色々と心に余裕がある。

 さあ皇帝陛下よ、今年も勝負だぜ。


「さあ、いきますよ」


 気合を込めて凛々しく立つエリーン。


「よーし、ボク達も行くよ~。

 気合を入れろー」


「おお~!」


 王子様方も気合を入れたようだが、これはまた可愛らしいだけだった。


 勝負に燃えて嬉しそうなエリーン。

 俺は蟹引き揚げ係として釣りには最初から参加しない。

 それに俺がやったら、きっと一匹も釣れないのに決まっているし。


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