83-3 任務は人攫い
ちょっと予想外の展開はあったものの、なんとか話はスムーズにまとまった。
あのジェニュインと一緒なら血筋的に国民としても外国人の王妃を受け入れ易いし、セブンフラッグ七か国の旗手ともいえるアルバトロス王国から王妃を迎えれば、その支援も充分なものとなるだろう。
この組み合わせならば、却って二人王妃の方がアルグランドの国民には安心感が広がるはずだ。
新アル・グランド王国の王妃として、これ以上の組み合わせのセットはあるまい。
あのなんとも頼りのないアワアワ言っているだけの子も、しっかり者のベルベットと一緒ならなんとかなるはずだ。
今までもずっと一緒にいて仲もいいんだし。
しかし、どちらを第一王妃にするかで何か揉めるかもなあ。
その辺はもう遠慮なく聞いておいた。
後で何かあっても嫌だし。
「それで、どちらが第一王妃に?」
「ははは。
それに関しては、それほど気にするな。
先方に任せればよい。
うちの方が第二王妃になったとて、大して問題にはならない。
うちは公爵家だからな。
どの道、うちの娘が中心になって王妃業務を切り盛りしていかないと話にならんだろうしねえ。
今まで預かっている間に見させてもらったが、まあなんというか、あの通りの子だから」
あー、その辺は俺もしっかりと見させてもらったけれど、いつもベルベットと一緒にいてアワアワ言っている印象しかないわ。
あれ一人に王妃役を任せるのは、やはり無謀だ。
ベルベット嬢がいないと何も出来なそう。
まあ血筋的に王妃として居てくれればいいというような存在だしね。
御世継ぎは、えーっとえーっと、うーん。
とりあえず、歳の割に大人びたベルベットさんに御任せだな。
シルより一つ下だが、あの子の方がうちの奥さんよりも大人っぽいくらいだから。
特に王女から気楽に公爵家に下ったシルと違い、逆に公爵家から他国の王妃として嫁ぐのであるからな。
こんな事を言ってはいけないが、もしこれがシルだったら、彼女にとってはちょっと辛い展開だったかもしれないな。
あの子は、のびのびとしていられる環境の方が性に合っている。
やはり彼女の場合は、うちへ来て正解なんだろう。
何気にアルバトロス国王夫妻は親馬鹿なのだ。
「とりあえず、ここはまず顔合わせといきたいのだが、アルス君をちゃんと連れてこられるかね?」
ああ、今向こうがどんな事になっているのか、彼にはわかってしまっているのだ。
まあ想像はつくんだろうなあ。
ジェニュインの件もあったので、おそらく他の公爵よりもアニオン公爵が一番ゲルスには詳しかったはずだ。
そっち方面では肝心要となるはずの西の公爵を務めていたのが、あの厄介者のバイトンだったので尚更だ。
「あ、ああ。
それは大丈夫でしょう。
どうせ向こうはまだ、しっちゃかめっちゃかな状態です。
そのために、うちの人材から応援を出しておきましょう」
いずれにせよ、他にも色々と応援をかき集めて連れていかないといけないのだ。
どっちみち早めにやらなければならない行事なのだから、国の地固めのために、そっちの方を優先する事としよう。
「わかった。
では明日の晩餐くらいの時間にアルス陛下を連れてきてくれたまえ。
新王として国王陛下とも改めて顔合わせをさせたいし、場所は王宮でどうだね?
明日は晩餐の予定も無い筈だ。
ゲートの魔法を使っても構わないよ」
アニオン公は、あれこれと見越して最初からこのように言ってくれるので本当にありがたい。
切れ者の陛下にも、向こうの内情は全部わかっているのだろうしな。
「了解いたしました。
とにかく、先方の予定を確認して調整いたします」
「では頼んだよ」
帰りは、皆で見送ってくれた。
天下のハリマオ様も、一人娘を広大なロス大陸のほぼ反対側の端にある国へと送り出すのだ。
名残は尽きないだろう。
しばらくは娘と過ごす時間を多めに取るつもりなのに違いない。
俺はさっそくスマホでアルスに連絡を入れた。
「アルス、アニオン公爵と本人達から、王妃の件は快諾を受けた。
そういう訳だから、明日の晩餐はアルバの王宮でな」
「わかった。
こっちはもうしっちゃかめっちゃかさ。
園長先生のゴーレムがいてくれて助かったよ。
ん? 本人達?」
首を傾けて、スマホを肩との間で挟みながら耳に当てている感じに会話してくるアルス。
電話中も手が離せないんだな。
声の感じでわかる。
こういう猛烈な仕事ぶりは国王たる者の宿命だな。
日本のリーマンか!
「ああ、来ればわかる。
まあ特に問題はないから」
「わかった。
明日迎えに来てよ。
どうせなら、追加で送ってくれる人員と交替でそっちへ行きたいな」
いつも余裕尺尺の彼にしては珍しく、少し悲鳴が聞こえてくる感じだ。
まあ無理も無いな。
いきなりの国王業務なのだ。
物心もついていない幼い頃に炎の中へと消えた、そこで暮らしていた記憶さえ薄い祖国の。
しかも、その祖国はとんでもなく荒れ果てているときたもんだ。
「わかっているよ。
これから応援の人材をかき集めていくから、明日はよろしくな」
というわけで、今日の俺の任務は人攫いだ。
さっそく、まず我が家から。
「ロドス。
悪いが、明日からしばらくアル・グランドへ行ってくれ。
アルスが悲鳴を上げている。
明日、こっちに王妃予定者との顔合わせで来させないといけないからな。
それと、ちょっと落ち着くまで面倒を見てやってくれ」
「わかりました。
執事達もだいぶ慣れてきましたし、元々陛下から優秀な人材を大勢送っていただけていますからな」
「ああ、悪いけど頼んだ。
何人か、屋敷の方から抜けても大丈夫そうな人間がいたら一緒に頼むよ」
ロドスは少し考える風だったが、何か思いついた風で。
「そうですな。
他に心当たりもないではないですし。
実は我が一族で少し持て余している人間もおりましてね。
普段使いはし辛いのですが、こういう時には役に立ちそうな男です。
あとはシェルミナさんと相談して、館の者から何人か御手伝いに行かせましょう」
「そうか。
なんだったら、向こうで使えそうな感じなら、お前の一族の者は向こうで就職させてしまっても構わないぞ」
「それはどうでありましょうかな」
おや、この千年物の名家宰が少し浮かない顔をしている。
珍しいな。
なんだそりゃ。
何か問題児なのか?
まあいい。
そいつが役に立つと言うのなら、今はそれでいいさ。
この際、向こうは猫の手も借りたいくらいだろう。
なんだったら、プリティドッグの手なら貸し出してもいいぞ。
ジョニーなんか本当に如才無い奴だからな。
本物の猫のショーは駄目だ。
あいつは寝転がって欠伸をしているのが関の山だからな。
お次はアドロスの商業ギルドだ。
とりあえず直接出向いて話を聞いた。
「ロゴス。
今何人か、長期出張に行ける人間はいないかい?」
「ははあ、さては例のアル・グランドの件ですな。
何人くらい御入用なので?」
さすがだ。
彼には全部わかっているのだ。
「逆に何人くらい使えそう?
こっちは何人でも欲しいんだが。
もう何もかもが混乱している状態だから、向こうで何をするのかもよくわからない。
という訳だから、割とオールマイティに使えるような人材が喜ばれると思う。
その上で、それらの人達が特別にやれるような業務があるというなら、そっちへ回ってもらいたいだろうし」
彼もちょっと考える風で、しばらく自分の顔を人差し指でペシペシしていたが、ざっと計算が終わったようだ。
「短期、まあ一週間なら二十人。
その後は、一か月までなら十人は出せます」
「わかった。
いや助かるよ。
済まないね、いつもありがとう。
では、明日の夕方にアルスを迎えに行く前に連れに来るから」
すると彼も笑ってこんな事を言ってくれた。
「こんな事もケモミミ園創設の時以来ですかなあ」
「あはは、そういやそうなのかもな」
そんな事もあったなあ。
あの時は、いきなり預かる形になった子供軍団にキリキリ舞いしたもんだ。




