82-32 凱旋
「国民の皆さん。
悪の首魁ゲルスは我々が倒しました。
もう、この国が貧困と圧政に苦しむ事はないのです。
大陸諸国からの援助も御願い出来るでしょう」
「このアルス王の友たるアルバトロス王国のアルフォンス・フォン・グランバースト公爵が、各国を代表しセブンフラッグ諸国からの支援の確実な履行を約束しよう」
アルスは地上に戻ると、まだ宴を続けている国民達にそう伝え、俺もその言葉を肯定した。
もちろん、その戦いの映像は津々浦々、国内外へと届けられていった。
広場に繋がる拡張空間にいる人々にもその映像は届き、多くの国民の顔に安堵の笑みが広がった。
「さあ、共に乾杯しましょう」
アルスは国民にそう呼びかけた。
彼らアル・グランド国民は涙した。
ついに帰ってきてくれた新王は『共に』と言ってくれた。
心から自然体に。
もう、一人だけ美味い物を食うような国家元首はこの国に存在しない。
そして王は諸国からの支援をも取り付けてくれた。
王の友人はセブンフラッグの旗を艶やかに翻し、その全権を持って支援を公然と約束してくれた。
彼らの蘇った都の名と同じ勇者アルフォンスの名の下に。
同時に、通行や通信の制限が無くなったアル・グランド王国全域へとゴーレム達が派遣されて宴の準備を始めた。
ブルーアイランドで山本師匠に師事したゴーレムシェフとリンクした者達が、豪華な料理を振る舞った。
だが各地の映像を見てアルスは大いに嘆いた。
多くの国民は貧しい格好をし、家は粗末な掘っ立て小屋に住んでいたのだ。
Sランク冒険者として大国の王都などで暮らしていたアルス。
特に最近では、グランバースト公爵家を中心とした豪奢な企画に慣れ過ぎていたのだから。
「みんな楽しそうだね。
でもそれは日頃の生活が報われないからなんだ。
園長先生、御願いだ。
彼らを助けてほしい」
「ああ、そう思ってな。
自衛隊を編成した」
「自衛隊?」
「稀人の国日本の軍隊相当となる組織だ。
災害救助、復興支援などに定評がある。
今回動けない時に、暇に飽かせて装備諸共に作っておいたんだ。
彼らを当分、この国に置くよ。
その代わりに一つだけ頼みがある」
「なんだい?」
アルスは不思議そうに訊いた。
俺がこういう時に注文を付けたりするのは珍しいのだ。
「これさ」
そこには、迷彩服と帽子に『日の丸』を付けてピシっと敬礼をする斉藤ちゃんがいた。
この子は俺の自信作だ。
自衛隊のポスターに採用すると、破っていく馬鹿がいるかもしれない。
元々この子は自衛隊ポスターから適当に採用したデザインで作り、本人もその外観が気に入ったらしく、ずっとそれを愛用していた。
「この日の丸、日本の国旗を付けさせてやってくれ。
本来であればセブンフラッグか、アルバトロスの国旗を付けるべきなんだがな」
単に俺の郷愁に過ぎない我儘なのだ。
これを理解してくれるアスベータの住人は、今のところ俺以外にはたった三人しかいないのだし。
本家の自衛隊は俺達のような特殊失踪者を救出に来てはくれないだろうしな。
万が一、連中がこっちに来て稀自衛隊になっていたら、この俺が一番びっくりするわ。
そしてアドミン、いやさアエラグリスタ神よ。
俺は貴様の試練を越えて、必ずや日本に帰ってみせるぞ。
いろんな用事が溜まっているんだからな。
また会おう。
この異世界で出会った神の一柱よ。
「そんな事、こっちから御願いしたいくらいさ。
園長先生の人柄は知っているし、日本人の事もたくさん聞かせてもらったよ。
稀人の国へ愛を込めて。
そして日本の自衛隊にも」
そしてアルスは、斉藤ちゃんに見事な自衛隊式の敬礼を見せてくれた。
「アルスちゃん、戴冠おめでとう」
「ありがとう、一ちゃん。
でも、みんなと気軽に会えなくなって寂しいなあ」
だが斉藤ちゃんは少し考える風でアルスに訊いた。
ああ、当然気兼ねするよな。
相手が仲良くしていた人間ならば当然の話だ。
それこそ稀人がこの世界に齎したゴーレムの魂なのだから。
「ねえ、アルスちゃん。
御母さんのヘレンさんの事はどうするの?」
アルスは、ほんの一瞬だけ眼を瞑ると笑顔でこう言った。
「もう決めてあるよ。
でも、それは全て母さん次第だから」
「そう。それなら良かった」
斉藤ちゃんも、持てる魔導表情ソレノイドを総動員して心からの笑顔を返す。
こんな教えてもいない眩しいような笑顔を返せるなんてな。
本当に、うちのゴーレムは不思議な存在だな。
その大元を作ったのは、あの船橋武なんだけど。
はは、それにしてもアルスらしいな。
多分それは、俺がそれほどには御節介を焼かなくてもいい話になるだろう。
俺には何故かわかるんだ。
なあ、イコマ。
俺のセブンスセンスよ。
イコマの奴は、俺との間で取り決めたいつものやり方で、左手の人差し指を仰け反らせて軽く笑いを表現した。
それを見て俺も、今回直接関わった時間こそ比較的短かったものの、長い長い戦いが終わったのを感じたのだった。
その後、アルスは幌と椅子を取っ払った高機動車の後部(トラックの荷台と自衛隊さんは言う)に立って手を振るオープンパレードをやり、国民に対して挨拶するプログラムを行なった。
ああ、アルスの奴も本当に嬉しそうな顔をしていやがるな。
今はまだ、パレードも王都だけなのだが。
アル・グランドの国名と共に、王都は再び正式に『アルフォンス』の名を復活させた。
今回は俺が深く関わった為、復活した名前の由来の一つとして伝えられるのだろうな。
まあ、それもよし。
それは魔王大活劇なのか、はたまた魔王列伝か。
また近いうちに、各国の重鎮を招いての正式な戴冠式もやらねばならないだろう。
こういう事は非常に大切な事なのだ。
ゴーレム自衛隊が車両で通りかかる度に、この国の人達は手を振ってくれる。
時には白地に赤く染まった布を打ち振って。
やや赤黒い日の丸、あれは多分血で作った物だろう。
ゲルス軍との戦いで負った怪我の治療はすべて済んだはずだが、その時に日の丸っぽく出来た物を取っておいてくれたものらしい。
「せっかく出来た日の丸だから」
「なんとか感謝の気持ちを表したかった」
中には、怪我をした時などに苦労してわざわざ血染めの日の丸を作ってくれる人までいるらしい。
む、無理はしないでいいからねえ。
今度、『自衛隊さん、ありがとう』と書かれた定番の横断幕のデザインを見せてあげようか。
こっちの言葉で書いた奴も作ってみるか。
そんな感じで、『勇者アルフォンス(アル・グランド王国限定の称号)』並びにゴーレム自衛隊とアル・グランド国民との交流は、草の根的な感じに行われていったのであった。
そして、ここはエルフ新町。
ヘレンの店だ。
「ただいま、母さん。
全て終わったよ」
「アルス!
よく頑張ったね。
お前は私の誇りだよ」
「あの」
「駄目だよ。
お前はもう王様になったんだから。
これからは国民に尽くすために生きないと」
「でも母さん。
一緒にいたいんだ。
せっかく親子で暮せるようになったのに」
「それでもね。
きちんとしないといけないのよ。
たとえ離れて暮らしていたって、あんたと私は親子なのよ」
「母さん」
本当の母子よりも深い絆で結ばれた二人。
アルスは涙顔でヘレンを抱き締めた。
「もう、お前は幾つになっても泣き虫だねえ」
「母さんだって泣いているじゃないか」
「馬鹿だね。
でも本当によかった」
二人は、しばし感情の応酬をやめられなかった。
日頃は冷静沈着なSランク冒険者。
そして、あまり感情は表に出さないといわれるエルフ。
だが今日だけは、互いに涙に暮れる母子なのであった。
それに立ち会っているのは、今のところ世界で俺だけであったのだが。




