82-18 降臨
「あらやだ、奥様。
ここって、どこかしら~」
「あらあらあら。
さっきまで、そこの岩棚で話していたと思ったのにねえ」
「おほほほ。
まあいいじゃないの。
御弁当はアイテムボックスの中にいっぱいあるんだし。
それよりねえ、うちの子の話を聞いてよう」
こ、この駄目駄目で鳥頭的な会話をしている連中は~。
確かに見覚えはあるけどなあ。
もしかして、ファルは連中の通訳として呼ばれたのか?
「あれ、おいちゃん。
ここはどこ?」
ファルが不思議そうにしていたが、魔物言語自動翻訳ルーターとしての機能は果たしてくれているようだ。
「んー、ここはアルスの生まれ故郷さ。
先に進めないし、出るに出られなくて困っているんだ。
ちょっとツバメさん達に手伝ってくれるように頼んでもらえないか?」
「わかったー」
ファルはちょこちょことツバメどものところまで行って、可愛らしく話しかける。
「こんにちはー」
「おや? この子は魔王のところのファルスじゃない?」
「ねえねえ、ツバメさん達ー。
魔王のおいちゃんが、御仕事を手伝ってほしいんだってさー」
「えー、またあ?
今ちょっと忙しいから駄目よお」
こ、この鳥頭どもがあ!
ただ御喋りしているだけだろうが~~。
「おい、武!
全然役に立たない連中が呼ばれて来ているじゃないか。
その覇軍の指輪、本当に使い物になるんだろうな?」
「はあ?
そんな心配などしなくても、私の作る魔道具は完璧なのだー。
それっ、ボンバイエー!」
何がボンバイエーだ。
こ、このう!
だが、その指輪はみるみる光り輝いて、俺やファルとツバメどもを包み込んでいった。
ハッと気がつくと、俺は白い霧の中にいた。
「こ、これは!」
忘れもしない。
この世界へやってきた、あの忌まわしいエネルギー霧と同じものだ。
ただし今は、その中にはっきりと非常に大きな力を感じる。
だが、これはきっと夢だ。
現実の物ではない「神の時間」の到来なのだ。
夢という物は単なる情報整理の時間だけでなく、神との交感の時間でもあるのだろう。
「元気そうね、井上さん。
そしてイコマ」
振り向くと、そこには真っ白な女性が立っていた。
こいつは!
俺がよく調べていた『泉の白い貴婦人』の伝説を思い出す。
美しい、いや神々しいその姿の持ち主は。
「御初に御目にかかるという不粋な挨拶は、多分不適切なんだろうな。
女神ロス」
「ふふっ、そうね。
あなた自身はあの時寝ていたのだから、半分は当たっているのかしらね。
あの時は、もう一人のあなたであるイコマと私が話していたのよ。
でも、あなたもそれは見ていたのよ。
夢の中でもう一人の自分を。
人はその神の時間の出来事を覚えていられないけれどね。
世に生まれ出づる赤子のように、その体験した時間にあった出来事を忘れてしまうわ」
女神の微笑みか。
その神々しい笑みは決して人には真似など出来やしないだろう。
それでいて、どんな人間よりさえも懐っこく感じる。
そのまま全て何もかも、魂までも委ねてしまいたくなるような、そんな具合に暖かく感じる笑みだった。
「だが、その姿は本物ではあるまい。
それは我々人間にとり、自分達の姿を投影して貴女をイメージした単なる幻の現身に他ならないからだ。
人に非ざる『この惑星の主』がいる時代ならば、また違う姿となるのだろう?」
「ええ、あなたが仰る通りよ。
でも、今あなたが見ている私の姿は、あなた方人間が神に対して望んだ姿なのではなくて?」
この世界の人間は「おっさん」として想像していたらしいけどな。
これはおそらく、『この俺自身』の考える理想のロスの姿。
それこそはまさに、俺の望む『泉の白い貴婦人』の姿そのものなのだろう。
「その通り。
だから人間である俺にとっては、今見えている貴女の姿こそが真実の貴女の姿だという事だ」
俺が【地球のロス】を見ても、きっとこんな感じに見えるんだろうな。
かつて、大地を闊歩した恐竜の王者や原人達。
彼らの目に彼女の姿はどう映ったのだろうか。
おそらくは、彼らも美恐竜や美原人といった『自分と同じような姿の女神』を見るのだろうな。
「で、その女神ロスが何故今現れるんだい?」
「あなたには助けが必要なようだから。
主神ロスの契約者よ、あなたにとり必要な事を為しましょう」
そう言って彼女はツバメどもを一瞥し、それから彼らに微笑みかけた。
あの騒々しくて空気を読まない連中も、この厳かな雰囲気の中でじっと待っていた。
「主神たる女神ロスの名において汝らに命じる。
越えよ、進化の道筋を。
そして汝らがゆくべき道をゆくがいい。
アー・ルゥアー(神の子よ)」
彼らの体は光りだし、そしてその体は膨れ上がった。
見ただけで、今までの鳥頭とは違う雰囲気を纏っている。
なんか若干神々しくて、宙を見据える目がいつになく真剣過ぎてちょっと怖いぞ。
元々、鳥の目って何か凄く怖いんだよな。
「ファル、元気でやっていますか?」
あの子もここにいたのか~。
確かに、指輪に呼ばれてあの場にはいたけどな。
さすがは神の子、俺の夢に、神の時間に同席を許されていたものらしい。
「うん。
でもロス様はいつも、あたし達の事を見ていてくれるよね」
ロスはにっこりと微笑んで、少し屈みながらファルの頬を優しく撫でた。
ファルは嬉しそうに彼女の事を見上げていた。
「ロス様、とっても大好きだよ」
「私もあなたの事が大好きですよ、私の可愛いファルス。
そして愛しい、この世界のすべてのい……」
後はもう聞き取れない。
そして、俺は立ったままの姿勢で目覚めた。
おっと、今日は覚えているな。
今まで見ていた神の時間の中での出来事を。
こいつは神から俺達人間へのエールっていう奴なのかね。
だが、ふと足元に目をやると、にこにこと嬉しそうな顔で俺を見上げているファルがいた。
そして目の前には、逞しく進化したツバメどもがズラリっと並んでいた。
「さあ、私達は何をするの?
魔王様、いえ主神ロスの契約者よ」
「力が漲るわ~」
「シュポーー!」
何か興奮した一匹が、ビューンっと飛び上がり、ピュンピュンピュンっと凄まじいスピードで縦横無尽に飛び回って、一瞬にして帰還した。
ほう、こいつは大したものだ。
これなら、なんとかやれそうだな。
「お前らには、ちょいとやってもらいたい事がある」
「なんでもやるわよ~」
「任しといて~」
「ムッシュメラメラ~」
最後の台詞は、どこから持ってきたネタだ。
さては神の時間に俺の記憶の中から持ってきたものか。
確か昔のアメリカ製アニメに登場していた肉弾系キャラの台詞だよな、それ。
「敵地下要塞の送信機を破壊する」
人間の方のジョニーがやってくる前の、手持無沙汰な待ち時間の間に準備のための工作は完了しているのさ。
何故かこういう物を作っておかないといけない気がして。
まあ、そいつはいつもの事なのだ。
おっさんのリメイク冒険日記2、文教堂様の一般文芸書の週間ランキングで本日86位でした。
1巻は7月22日で消えましたが、今回はどうでしょうか。
あと3日持つかな??
消える時は一瞬なのです。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html




