79-2 いざダンジョンへ
「やあ、冒険だー!」
今回も新聞紙の兜とおやつのリュックを装備した、可愛らしい神聖エリオン様が気炎を上げた。
昨日も真剣な目でリュックに詰めるおやつの品定めをしていた。
ダンジョン行に、おやつは五百円までのルールとかは無い。
ファルの場合は、そんなんじゃ全然量が足りないしな。
俺達は件のダンジョン前にゲートを開き、ダンジョンの中へ入る手続きをした。
あれからドランに言って、入り口に警備を立てさせておいたのだ。
まだダンジョンが拡張するはずなので、俺が仮柵を作っておいた。
仮柵といっても俺が作る物だから、とんでもなく頑丈な物だけれど。
今回は御指名の聖騎士殿はいないので、ファルは真理と手を繋いでいる。
ベル君と織原は護衛のアルスにべったりだ。
そしてデニスが探索を担当している。
ここは俺もレーダーMAPが使えるので一応警戒はしている。
俺はダンジョンレーダー観測が主担当で、ゴーレムどもが露払い役だ。
「さあ、ここは油断なく行こう。
魔物が出るのは表のダンジョンだけだが、裏ダンジョンに入ってからが本番だぜ」
ここのダンジョンも、もうそろそろ落ち着いた頃だろうか。
前に来た時は裏も表もよくわからないような混沌の中にあったようだが。
俺は左腕に装着したダンジョンレーダーを起動した。
「コングラッチレーション!
おっめでとう、諸君!
ついに千年の時を越えて、裏ダンジョン探索は次のステージへと移行した。
武、感激~!
ここからは、完全に未知の領域だよ~!」
いきなり武(AI)のハイテンションな雄叫びが鳴り響いた。
ダンジョンレーダー初体験の、アルスとデニスが目を白黒して驚く。
「こ、これが伝説に名高い初代国王のキャラ!?」
「話には聞いていたけれど……」
「悪いが慣れてくれ。
日本にいた頃からこうだったらしいんだ。
いつもこの調子だから。
この時代に、あれの実物がいなくて幸いだったぜ」
うざい。
しかし、今はこいつに頼るしかないという現状なのだ。
こいつの言動の記録を日本の真理さんに送る度に、大爆笑の大受けだった。
そして後で涙混じりのビデオメールが届くのだ。
「凄い、本当に御兄ちゃんが生きているみたいよ……。
会いたいな、御兄ちゃん」
せめて、このレーダーとだけでも直接会って話せたらいいんだけどな。
もし本当に日本へ帰れたら、こいつは遺族に進呈してやろう。
これ、時々勝手に喋りだしてうざいんだよな。
でも何か大事な事を言うかもしれないから、黙らせる訳にもいかないという罰ゲームなのだ。
真理が結構面白がって相手をしているが。
「あーら、御懐かしや御主人様~。
お元気ー?」
「いよう、真理ー!
相変わらず可愛いね、俺の天使。
いっやあ、マグロ食いたいなー。
もう体は無いんだけどねー。
あっはっはあ」
こんな事を言ってやがるし。
「体はない」か。
本当は精神だけとか魂だけとかを魔導で機械に封じ込めたとかいうんじゃないだろうな。
時々、そんな錯覚に陥る。
その場合は、普通ならば真理と同じような魔導ホムンクルスのボディでも作ればいいのだが、「面白いから」という理由だけで魔道具ボディを作っていたって不思議でもなんでもない性格をしている。
俺達は先へと進んでいたのだが、本日は不思議と魔物が出てこない。
「おかしいな。
これは、またアドミンの奴が何か企んでいるんじゃないか?」
「そのアドミンっていう奴は何者なんだい?」
アルスも首を傾げる。
Sランク冒険者といえども知りはすまい。
知っているのは大昔に船橋武とパーティを組んでいた連中くらいだ。
現存する関係者は真理とバルドスだけだ。
実際の探索に携わっていたのはバルドスだけだったらしいが。
王国の古い記録には何か手掛かりが載っているかもしれない。
「多分、主神ではない古き神の一柱なのだろう。
おそらく主神に従う者ではないかと推察される。
真面に闘ったら、とてもじゃないが勝てる相手じゃない。
俺だって子供のようにあしらわれるだけだ」
「ええっ!
それって大丈夫なんですか?」
初参戦のデニスが驚いた声を上げたが、俺は肩を竦めるしかない。
「生憎な事に、奴は俺を試しているだけだからな。
あの野郎と命のやりとりをする訳じゃあないのさ。
だが、なんかこう、とりとめが無いような感じで。
試すと言っても、何が目的なのか今一よくわからん。
だから、お前らを呼んだんだ。
向こうでは俺の能力が大幅に制限される。
護衛としての腕っ節と、シーフとして探索に強いメンバーが欲しくてね」
ファルは入る前に拾った細い木の棒を振り回しながら大いに燥いでいた。
神聖エリオン御本人様にとっては、只の楽しい遠足でしかないのだ。
ダンジョンレーダーの示す通りに進んでいったが、突然AI武が喋りだした。
「おや? どうしたわけか裏ダンジョンの入り口が空きっぱなしだね。
だから、その影響でこの表のダンジョンにも魔物が出てこないようだ。
これはビックリ。
罠の確率九十パーセント以上、これは罠確定だ。
もう、これ以上ないくらい罠だ。
大笑いするくらい罠だねえ、わははは」
もうそれはわかったから、さっさと連れていってくれよ。
罠かあ。
イコマの奴も警告するまでもないといった風情だ。
危険はなさそうなんだが。
なんだが……。
「みんな、ちょっと罠っぽい感じだ。
下手をすると空間魔法のトラップの可能性もあるから、俺の魔力糸で全員結んでおこう。
いざとなったら俺の魔力で引っ張れるはずだ」
全員を集めて、魔力糸で厳重に結んでおく。
さらにファルについては真理が抱っこしていた。
「じゃあ、この入り口から入るぜ」
俺は空きっぱなしで扉さえ付いていないダンジョンの入り口を潜り抜けた。
やっとこさで第六ダンジョンに入れた。
しかし、結局それもアドミンの野郎の御機嫌一つなわけらしい。
非常にムカつくが、無事に再び崩落後の裏ダンジョンへ入れたので、その辺はよしとしよう。




