79-1 再び転生ダンジョンへ
大変だった結婚式も無事に終わり、やれやれと思う間もなく、出席してくれていたベル君からダンジョン探索の御知らせがあった。
「アルさん、例のダンジョンへ行きましょう」
最早、手慣れた感覚でベル君は御誘いをかけてきた。
ちょっと今から御散歩に行きませんかとでもいうような口ぶりだ。
成長したね、ベル君。
相変わらず、荒事とかで頼りになるわけじゃないのだが。
もう、そんな時期だったのか。
というか、前回はアドミンの野郎に追い返されたわけなのだが、今回第六ダンジョンへ素直に入れるものなのか。
その話もあって、もう一回試しにチャレンジしてみましょうという御話だったようだ。
「まあ、一度流れがブツ切りになってしまいましたので、一からやり直しっていう感じなのですが。
途中でダンジョンが崩落してしまっていますので、もうアドロスからの流れを追う事はできません。
今後は、あの第六のダンジョンが入り口となります。
一応、あの転生ダンジョンでの動きを見極めての、今回の御話です。
どうしますか?」
「無論行くさ。
だって他にどうしようもない。
帰ってきて、もしゲルスが攻めてきていたりしたら笑うしかないが。
今のところ、そのような兆候は感じられない。
俺のセブンスセンス『イコマ』は、時期を待てば俺が必ずゲルスに勝つと言った。
俺はこの世の中で、あいつの言う事だけは絶対に信じる」
そう。
前回の騒動でも、ちょっとダンジョンへ行っていた隙をついて魔界の鎧を送り込んできていた。
油断も隙もあったものじゃないのだ。
相変わらず異世界は厳しいな。
織原じゃないのだが、俺もちょっとばかり平和な日本が懐かしくなってきたぜ。
「うーん、なんだかよくわかりませんが、とにかく行ってみましょう。
多国籍軍だって簡単に負けたりはしないでしょう」
「そうだといいんだがなあ」
イコマ君があんなに慎重だというのには、必ず何か理由があるはずだ。
いつもそうなのだから。
俺の見立てでは、ゲルスの連中は相当ヤバいはずだ。
碌な話じゃない方に1000ペリカ賭けてもいいな。
しかし今回の裏ダンジョン行の成果については俺も半信半疑だ。
しかもまたアドミンと対面して追い返される可能性すらある。
思い出してもムカつくような話なのだが、あれは正面切ってやりあうのも、あまり具合がよくない相手だ。
「まあ、とにかく行ってみるさ。
今回は真理も連れてのフルメンバーだ。
グスタフが抜ける事だし、アルスとデニスも連れていこう」
「そうですね。
あの御二方なら、探索に大いに活躍してくれるのではないでしょうか」
専門家の賛成も貰ったので、俺は二人に声をかけた。
何しろ、今回はグスタフがいない。
先ほど新婚旅行先のブルーアイランドへ送り出したばかりなのだ。
かつてないほどの美男美女カップルの到来に、島のゴーレム達が沸きあがっている頃じゃないかな。
「アルス、デニス。
ちょっと話がある」
まだ結婚式の余韻に浸っている空気の中で、談笑していた二人に声をかけた。
この二人、遊び仲間なんで仲がいいんだよな。
「やあ、なんだい。園長先生。
いやあ爆笑物の結婚式だったねえ」
「あれが有名な伝説の『狂乱の冒険者』フィアだとは。
本当にまだ子供なんですね。
あれが大神官候補だなんてねー。
いやあ、笑っちゃうなー。
当時、ギルマスが相当渋い顔をしていたらしいじゃないですか」
二人とも腹を抱えて大笑いしている。
まあ確かに最高のネタではあるのだが。
それも俺自身があの子の監督者でさえなければの話だ。
実に頭の痛いことよ。
「そう言うな、あれでも俺の可愛い部下なんだ」
「そんな事を言って、披露宴ではしっかりと蹴りを入れていたじゃないですか~」
デニスが笑いを噛み殺す。
彼が俺のおたおたしている姿を見るのは、昔一緒に行ったアドロス探索以来ではないだろうか。
「まあ、それとこれとは話が別よ。
あいつが大きくなったら、またこの騒ぎをやらねばならんのかと思うと泣けてくるわ」
「あははは。
あの子の御相手を探すのが、また大変ですね」
いっその事、ベル君が貰ってくれないものだろうか。
彼はフィアの扱いが上手いからなあ。
フィアも平民だが、ベル君ももう新しい男爵家を構えたので、ベル君の実家からもそう文句は来ないはずだ。
というか、言わせるか!
「なあ、ベルグリット。
お前って浮いた話とかないの?
もうそれなりの歳なんだし、貴族がいつまでも独身じゃ格好もつくまい」
いっそ、この場で押し付けようか。
フィアだって大神官候補に選ばれるだけの美少女なんだからな。
中身が残念過ぎるだけで。
「あー、周りからそういう話は出てはいるんですが……まあなんといいますか。
とりあえず今は、まだいいです」
おや。
最近の彼にしては、妙に物言いの歯切れが悪いな。
何か事情があるのかな?
まあいいや。
「そうか、ならいいんだが」
チッ、押し売りに失敗したぜ。
伯爵家とかじゃないんだ。
これが並みの男爵なら、次期大神官に決まっている婚約者なんて大歓迎だろうに。
まあ仕方がない。
「それで話って一体なんだい?」
「冒険者の仕事ですか?」
俺は二人に向き直って、今回の探索の話を切り出した。
「まあ、仕事といっちゃ仕事だな。
例のダンジョンの探索に行くんで、ちょっと手伝ってほしい。
無論、報酬は出すよ。
実力者のグスタフが抜けたんで、さすがにちょっとしんどい。
それに探索のプロが欲しいんだ」
「ああ、なるほど。
いいよ、母さんの店にも正式に板前さんが入ったんだ。
御陰様で結構繁盛していてね」
「そりゃあいい。
そういや最近は、なんだかんだあってヘレンの店にも御無沙汰だなあ。
デニス、お前は?」
「ええ、構いませんよ。
久し振りに冒険者らしい仕事だなあ。
エド達は?」
「彼らは警備の仕事があるからな。
デニス、お前だけだ。
優秀なシーフに来てほしいんだ」
「了解!」
「いつ出かけるんだい?」
「早速、明日行こうと思う。
今日は、みんな酒も入っているしな」
「あ、ダンジョンが本格的に活性化するのは明日以降ですから丁度いいです。
結婚式とかち合わなくて幸いでした」
ベル君も賛成したので、それで決定だ。
「装備は、明日出掛ける前に渡すよ。
あそこへ行くのは、一応色々備えておかないといけないんだ。
結構難儀な場所でね」
「わかった。
聞いた範疇だと、かなり手強くて面倒そうな代物らしいね」
「ああ、煮ても焼いても食えない。
第六ダンジョンの表ゾーンを抜ければ、おそらく危険はほぼ無いはずだ。
その代わり、精神的なダメージが半端ないけど」
「な、なるほどね。
心構えだけはしておくよ」
二人共、俺からの御誘いなのだから、苦笑いと共にそういう物かと思う事にしたようだ。
「心から、そう御勧めしておくよ」
相手は、あの神聖エリオンにさえ平気でダメージを与えてくる奴なのだし。




