73-5 円満解決?
一応、園児のところにもフィアを『持って』行った。
そう、子供達に被害がいかないように俺が脇に抱えていったのだ。
「あのう。
出来たら下に降ろしていただけると大変ありがたいのですが」
フィアから情けない声が上がったが、速攻で却下だ。
「駄目だ。
お前のような危険人物を、大事なうちの子達の前で野放しになんて出来るもんか」
「ええー、大司祭様酷いですう」
「やかましい!」
「なにー、このおねえちゃん」
「だっせー。
もうおおきいのに、だっこされてるー」
「さいきん、だせえヤツしか、えんにこないんだけど」
そのアルバ大神官見習い宛の罵声を、織原の奴が、やや頬をピクピクさせながら聞いている。
「はっはっは。
おーい、お前らー。
この餓鬼はしばらくここに置いておくが、問題ありありだから何かあったら遠慮なくしばいていいからなー」
「やったー」
「しばくぜ」
「おうじょうせいやー」
うむ。
元気があって大変よろしい。
さすがは俺の教え子だけの事はある。
「えー、酷いー」
「だまらっしゃい!
お前の方がよっぽど酷いわ」
御蔭で、もう園内は死屍累々だ。
子供に被害が出ていないからまだ大目に見るが、本来なら「尼寺へ行け!」というレベルだ。
いや、尼寺ならぬ大神殿に送られてきた奴なのだが。
本当に最近は、こんな問題児みたいな奴しか俺のところへ来ないな。
求む、人材!
ほんに困ったやっちゃのう。
どうして俺のところには、こういう困った奴しか集まってこないのか。
そこへ、ベルグリットの奴が訪ねてきた。
「おう、騎士団の研修の方はどうだ」
「どうもこうもありませんよ。
今まで家でくたばっていたんです。
今後のダンジョンの捜索について、お話でもと思ってきたんですけど。
あれ?
その子は誰ですか。
どこから攫ってきたんです?」
「人聞きの悪い事を言うな。
こいつは、ちょっと訳有りなんだ」
とりあえず、フィアを下ろしてみた。
確かにこの状態だと、パッと見に人攫いにしか見えんわ。
さあ、こいつはベル君相手にどう出るのか。
「こちらの御兄さんは?」
「ああ、こいつはベルグリット。
王宮の文官なんだが、一応は貴族で男爵様だぞ。
無礼のないようにな。
はい、練習」
これから先、この子は大商人や貴族王族と付き合っていかねばならんのだから。
まずは身内で御挨拶の練習だな。
「始めまして、男爵様。
私はフィア、アルバ大神殿の……」
神官服の裾を持ちながら御挨拶を始めたまではいいが、フィアは当然のようにコケた。
だがベル君はちゃんとその子を受け止めた。
おや、てっきりフィアの手刀の先が、彼の鳩尾に食い込むんだとばかり思っていたのに。
これも騎士団での特訓の成果なのか?
そしてベル君はじっと彼女を見つめた。
ポッと顔を赤らめるフィア。
おー、ベル君もなかなかやるじゃないか。
だが所詮相手は十一歳の丸々子供なのだが。
「ねえ、アルさん。
この子って眼鏡をかけさせた方がいいんじゃないですか?」
「なに?」
「だって、なんか良く見えていないから、さっきみたいになるんじゃないかと」
なるほど、それも一理あるかもしれない。
さすがは生粋の眼鏡男子だけの事はあるな。
そいつは俺にとって想定外の着眼点だ。
「おい、フィア。
これは指何本だ」
俺は指を一本立ててみたが、フィアの奴は目の間に皺を寄せるばかりで答えられない。
「あー、私は大変目が悪いのですよー。
でも眼鏡って高いですからねえ」
俺はCの字の並んだ視力検査台を出して検査してやったが、とんでもなく悪いようだった。
「おい、お前は神官だろう。
なんで自分で眼を治さないんだ」
さっきグレーターヒールでメルの目玉を治していたよね?
あれだって、そうそう使い手のいない凄い回復魔法なんだが。
御蔭で、この俺とて習得に苦労した代物なのだ。
「あー、私の場合は何故か上手い事治らなくって。
一回、目を潰してから再生してみたらどうかとか言われたんですけど、それはちょっと嫌かなと」
うーん、十一歳の女の子にそれはちょっとな。
そういう状態だと、おそらくゴッドヒールでも治るまい。
回復魔法に対して何らかの障害があるのかもしれない。
目は霊的に特別な器官と言えない事もないので、大神官候補故の何か問題があるのかもしれないのだし。
それにしても、どこまでも面倒な奴だ。
「お前Bランク冒険者だといったな。
結構稼げていたんじゃないのか?
何故眼鏡を買わない」
「えー、それがBランクにはなれたんですけど、なかなか獲物を獲れなくて」
「なんだと。
じゃあ、どうやってCランクになったんだ」
「えっと、たまたま村を襲った怪物を倒したのですが、それが高ランク魔物だったようで。
ギルマスさんが困ってCランクに上げてくれました」
おう。
こいつ、俺と同じパターンをその歳にして素でやれるのかよ!
まさかドラゴンを倒したんじゃないだろうな~。
彼女の称号を見てみたが、生憎とドラゴンスレイヤーの称号は付いていないようだった。
「それで、お前が倒したそいつはいい金になったんじゃないのか?」
「全て教会や孤児院の運営資金に消えました。
いっぱい金貨があったはずなんですがねえ」
そ、そんな馬鹿な。
本来なら無条件でBランクに上げられるほどの魔物を倒した報酬なんだぞ。
いくら手作り眼鏡の値段が地球よりも遥かに高いからといったって、その金を稼いだ功労者に対して眼鏡一つ買う金も残らないだなんて、そんな馬鹿な事があるはずがない。
あばばば。
神殿の爺達が全部吸い上げていたのかあ~。
相変わらず碌な事をしていねえなあ
「最近は何故か教会にもお金が回ってくるようになってきたし、新しく若い神父さんも来てくださいました。
そして神託が出て、私も王都に呼ばれる事になったのです」
そういう流れだったのか。
まあ、そいつは全部俺がやった事なんだが。
やれやれ。
「じゃあ、ちょっと眼鏡を作ってみるか。
おい、ベルグリット。
すまんが、ちょっとこいつを王都の眼鏡屋へ連れていってやってくれ。
俺が素材を下ろしている店へ行ってくれ。
ほい、これ御財布。
あと、これが店の住所だ。
出来たら、他にこいつが入用な物があったら一緒に見てやってくれ。
先に眼鏡屋に行けよ。
眼鏡が出来るまで、絶対にそいつを眼鏡屋から外へは出すな。
眼鏡屋へも転移魔法で行ってくれ。
ああ、案内のゴーレムはつけよう」
そう、最近はプラスチック製のレンズ・フレームの物や、チタンフレームなんかの物も製作を試させているのだ。
チタンは俺の眼鏡やチタン製のキャンプギヤなどに使われているチタン合金から手に入れた。
ドワーフの連中が、鉄よりも軽くて強くて錆びにくい新金属チタンにもう夢中だ。
今までの金属にはない特性に、新境地の製品がたくさん齎されるのではないかと楽しみにしている。
あと老眼鏡とか遠近両用眼鏡とかも作らせている。
これがまた、なかなか好評なのだ。
少し歳のいった、机仕事が多い文官や領主・代官などにな。
「わかりました。
じゃ僕と一緒に行こうか、フィアちゃん」
「うん、ベル御兄ちゃん」
おー、新しく妹が出来たか、ベル君。
どうやら奴の粗相の大元となる原因が判明したようなので、彼に任せておいても大丈夫だろう。
フィア用にアイテムボックスを調整してやる。
首輪も兼ねて。
一応、斉藤ちゃんと沖田ちゃんをつけておいた。
もし、こいつらが帰ってこないようなら、もう一度織原の出番という事だ。
だが、多分もう大丈夫だろう。
「アルさんは一緒に来ないのですか?」
「俺はそいつによる被害者のケアでもするよ」
もう、あちこちにトラウマを抱えている奴らがいる。
「じゃあ、ちょっと目を瞑ってねー」
「はーい」
仲良く御手手を繋いで転移魔法で消えていった二人を見送ると、とりあえず大猫の御機嫌でも取りにいくかと、その辺で隠れて震えていそうなメルを探しにいった。




