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67-3 リハーサル

 離宮を覗いてみると、ロドスや見習い執事どもは花火大会の準備で忙しそうだ。

 朝からバタバタしている。


 離宮の使用人の人達も準備に余念がない。

 遠方から来て、ここに泊まっていく人間もいるだろうし。


 家の御披露目は終わったので、もう食事にはそれほど気を遣う必要はない。

 花火見物なんだから、日本風に屋台であれこれというのも風情があって楽しい。


 ただ、御誕生日会の意味合いもあるし、それなりにはしたいもんだ。

 いざとなれば新戦力のエバンス爺さんもいてくれる。

 彼は山本さんと凄く気が合うようだ。


 山本さんって、その嫌みのない素直な性格と誰しもを魅了する自然体な有り様が、素でどんな相手にも通用する貴重な人材だ。

 いつの間にか、エバンス爺さんも日本式の料理法をかなりマスターしている。

 その逆も然り。


 エバンス爺さんは御隠居様だから家を出ずっぱりでも何も問題は無いし、あの当主である息子は却ってホッとしているくらいかもしれない。


 後は、花火大会に御招待する貴族のリスト作りが大変らしい。

 ワンコどもの御陰で、南の公爵とも御近づきになったので俺的にはだいぶ気が楽だ。


 うちの行事には、なるべく貴族なんかも呼んでいきたいもんだ。

 やっぱり、そういう方面にも各種御理解をいただきたい部分はあるのだ。

 特に子供達にとっての話なのだが。

 将来の進路とかがなあ。


 以前に俺が暴れ過ぎたので、そっちの方面に関しては我ながらかなり割引な印象がある。

 それは今後の精進に期待しよう。

 今ケモミミ園にいる子供達が巣立つ時まで、時間はまだ十分にある。


 まあ俺は俺で、昔ながらの知り合いを呼ぶだけだ。


 俺はケモミミ園の運動場で、仕掛け花火の具合を確認していた。

 別にここでやる訳ではない。

 手近なところで店を広げているだけだ。


 こういう仕事は楽しい。

 熱心に作業している俺の後ろから声がかかる。


「御精が出ますねえ」


 若干、唇に微妙な笑みを隠し持ちながら覗き込むのはエリーンだ。

 おそらく、こいつの点火係をやりたいのであろう。

 何をやるのかという事については、警備の人間には既に伝えてある。

 動画でも見せたし。


 アルバトロス王国の象徴である鷹を見事に象った大きめの仕掛け花火は、今回の目玉でもあるのだ。

 これも絶対に不発があってはならないので、点火システムは三系統で火が回るようになっている。


 俺にとっては公爵就任の記念でもあるので、こういうデザインで作ってみた。

 そのうちに段々とデザインが砕けてきたり、あれこれと工夫されてきたりするとは思うのだが。

 将来はデザインを子供達にやらせてみてもいいかな。


「それもいいが、錬金花火の打ち上げ役はどうだ。

 あれも好きな奴は本当に病みつきになるぞ」


 錬金花火というのは、いわゆる普通の花火の事だ。

 花火の打ち上げは、気を付けないと事故が起きる危険な作業なのだが。

 火薬を使っているので本当に要注意だ。


 日本にいた頃も、打ち上げ作業をするのを毎年楽しみにしている奴とかがいたな。


 俺は、なんとなくそれっぽい格好の服を出してやった。

 サラシに法被、あと下は、なんか昔の半ズボンみたいな奴だ。

 こいつは股引きって言うんだったっけかな。

 祭りというか、江戸時代の火消しに近いような格好だな。

 あと街へ魚を売りに行く魚屋さんとか。


 鉢巻も出しておくか。

 後でネットで調べて、それを着込んだ格好の写真も添えてやるとするかな。


 昔の時代劇なんかには、女性でもそういう格好をしているシーンがあった。

 エリーンのような、特級に見かけがド派手な外国人(いせかいじん)の女性が着て似合うかどうかまでは知らないが。


 単に俺のイメージがそうだというだけで、実際に打ち上げる時は違う格好をしているだろう。

 まあ雰囲気だけだ。 

 花火の打ち上げは危険な作業なので、変な格好はしてないはずだが。

 股引きのように肌が露出している物など論外だ。

 特に静電気対策は最新の物を使っているのではないか。


 俺の地元でも地上で花火に引火する事故があって、あの時は新聞沙汰になっていた。

 幸いな事に死人は出ていなかったのだが、火傷をした怪我人は出たようだ。

 俺が渡した衣装は凄い防御力を発揮するアイテムなのだ。


 エリーンの奴は目を輝かせて着替えに行った。

 好きだな、本当に。

 手筒花火とかに嵌りそうなタイプだし。


 うちの街の御寺では、御正月明けにやる有名な手筒花火があったな。

 確か、元々は戦国時代の中心地のような場所だったので、江戸時代になってからは戦用の火薬技術が転用されていったため、花火全般が盛んなのだと思った。


 幕府は各藩による反乱を恐れ、入鉄砲出女と言われたように鉄砲や火薬に関しては強く規制していたので、どうしても火薬を入手したい藩は作硝丘などを作って強引に人工的に硝石を製造していた。

 そういう物は外国でも十四世紀にはやられていた手法らしい。

 うちのとこは将軍家の御膝元だったので、そういう面では恵まれていたのだ。


 花火大会のメイン会場は「遊園地」に決めてある。

 観覧車をバックに花火が映えそうだ。

 あるいは遊園地の向こう側に人工渓谷みたいなのを作って、そこで花火の打ち上げをやってもいいし。


 精霊による「精霊魔法花火」も考えている。

 その場合は精霊の森から、精鋭部隊を呼んでもいいなと思っているのだ。


 そしてブラウンゴブリン達には、その打ち上げ部分まで含んだ全てを見てもらうとしよう。

 初めて見る打ち上げ花火の感激をロスコーの壁画やレリーフに刻み込んでもらってもいいしなあ。


 彼らには「出版」にチャレンジさせてみたい。

 なんというか、よく美術館の文献閲覧コーナーにあるような、大きな写真を大量に用いた美術年鑑っぽい感じの奴などを作っても悪くない。


 それは彼らの世界に衝撃を齎すかもしれない。

 古き伝統を守りつつ、新しいものへのチャレンジを。

 いかなる素晴らしい芸術も、伝統に拘るだけでは、やはりいつかは停滞し衰退する。

 でも伝統もしっかり守るべし。


 ロスコーを訪れて、彼らとそんな話し合いをしてみた。

 異世界の芸術家の間に捲き起こるニューメディアの世界。


 俺は新スキルで作り上げた、ディスク交換式オルゴール、レコード、カセットテープレコーダー、CD、HDDレコーダー、携帯プレーヤーなどを見せて説明した。


 他にも、PCやタブレットにスマホと、この世界初の技術には事欠かない。

 たとえメディアは遷り変われども、人は芸術を求め、そこでしか表現出来ない何かを表そうとするのだと。


「魔物だって、それは何も変わらないよ」


「公爵様、面白い。

 稀人の世界の話は、やっぱり面白い。

 やってみましょう」


「そうだ、新しい芸術に挑んでみようではないか」

「ああ、だがお前達、古い伝統も忘れるでないぞ」


 そんなゴブリン達を見て、長老も満足そうな笑みを浮かべている。

 芸術こそ、彼らブラウンゴブリンの生きる糧なのだ。

 その魂は世界を越えて愛されることだろう。


 是非地球でも出版したい。

 そいつはデータさえ送れば可能なんだよな。

 もし本当に出版出来たなら、世界中の美術館や大学にでも寄贈するとしますか。

 英語版も作らなくっちゃ。



 それからまた運動場の片隅で、魔法をちまちまと捏ねて「魔法玉」の花火を作ってみた。

 いつも使うエセ魔法花火は、本当に魔法を放っているだけだが、こいつは違う。

 半ば物質化した炸裂魔法を細かく積み重ね、魔法で丁寧に張り合わせていくのだ。

 これもまた、ある意味では芸術品なのである。


 何かグミを引き伸ばして張り合わせていくような、不思議な魔法物質の歪な玉が出来ていく。

 それを一回作業を終了する度にコピーしては、携帯空間に持ち込んで試験打ち上げをして、また作っていく。

 別にこんなものは作らなくてもいいのだが、単に俺が作ってみたいだけだ。


「ねえ、それってやっていて楽しい?」


 いきなりアトリエにやってきた奥さんに、後ろからそう訊かれたが返事に困る。


「お、おう。多分」


 その辺は、ちょっと難しい問題だ。

 本当に自己満足な世界なので説明もし難い。

 女性、特に若い女性には、些か理解しがたい部分もあるのだろう。

 奥さんはしばらく俺の仕事ぶりを見ていたのだが、すぐに飽きてチビスケどもの方へ行ってしまった。


 俺は残りの分をこつこつと仕上げると、満足げな笑みを浮かべてアイテムボックスに仕舞いこんだ。

 俺は、ファルを呼んでゲートを開き精霊の森に顔を出すと、精霊達に頼んでメンバーを出してもらった。


 ここは飛行系で御願いしておいた。

 ドラゴン系や鳥系のタイプだ。

 空中発射の特殊な精霊魔法による魔法花火を披露してもらう予定なのだ。

 祝福成分を含有する、見ているだけで有難い花火になるだろう。


 ケモミミ園に戻ると、遊園地から見て西側、つまりケモミミ園と反対側に、かなりスペースの余裕をもって人工の渓谷を即席で作る。

 そこが邪魔なら、また埋め立ててもいいいし。


 渓谷というか、単に大きな川なのだ。

 本物の川ではなく、流れてはいるが川の形をした細長い湖のようなものだ。

 そこでは空間魔法によってエンドレスで水が流れており、機兵団の観覧式の時のように延々と水がリサイクルされて流れているのだ。


 海外のショッピングモールや宮殿などにある客寄せの施設でもある施設内キャナル(運河)を、屋外で大型にして水を流しているようなものか。


 アイテムボックスでざっくりと地形を削り、そして細かく形を整えていく。

 ゴーレム達が更に細かく形を整え、意図的に作り上げた河川敷に打ち上げ場所を整え、それを見下ろすような感じに桟敷席(さじきせき)を組んでいく。

 ここへ貴族王族を招待するのだ。


 とにかく頑丈に組んでおいた。

 あれ、一度体育館でやる相撲を見に行った時に使ったけど、結構足場が崩れそうな感じがして怖いんだよね。


 冒険者ギルドや商業ギルドなどからも人を呼ぶ。

 後は、俺の知り合いで埋めていく予定だ。


 王都の方面は安全を期して魔法花火を打ち上げるようにするか。

 これならば、俺がいなくなってからも、この世界の人だけでもやれるだろう。

 今回の魔法花火打ち上げは、基本うちのゴーレムが担当するが、来年からはこの世界の人にやってもらってもいいな。


 魔力には限りがあるので、この世界の魔法使いがやるのであれば、交替する人員を集めないといけないだろうがな。


 これで大方の準備は整ったので、明日の本番に向けて精霊やゴーレムなどとリハーサルの続きに勤しんだ。 


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