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67-1 生まれてきてくれてありがとう

 もう八月だ。

 そう、今月は「おチビ猫」の三歳の誕生日だったりする。


 今までも簡素に誕生会などはやってきたわけだが、今回は少し頑張ってみようと思った。

 記念事業として「大花火大会」を催したいと考えている。

 夏祭りの前にやるイベントとして定着させたいのだ。


 本式花火をやるとするならば、火災の心配をしないといけなくなるので、どうしようかな。

 仕掛け花火もやりたいのだが、この街には大きな水場がないので防火の観点からは如何にするべきか。

 既に、おチビ猫三歳を祝う御誕生日カップケーキの準備も整っている。

 後は花火の支度をするだけだ。


 当日はエリも来てくれるし。

 いくら、おチビレミの誕生月とはいえ、デザートは蝉以外で御願いね。


 誕生月が蝉全開シーズンなんだもんなあ。

 おチビも、自分の誕生を祝って鳴きまくってくれた生き物への慈しみは忘れ難いのであろうか。

 主に味覚として。


 あれは外で大きな声で鳴いているから、おチビ猫に限らず耳がどうしてもキャッチして、ケモチビ達は気もそぞろになるみたいだ。


 花火に関しては学園の人と話し合ったり、また王都まで相談に行ったりもした。

 一応ミハエルには花火大会はやるぞと言ってある。

 あちこちにも話は持っていってあるし。


 王都学園でも訊いてみたが、学園長も乗り気だった。


「そんな素敵な催しがあるなんてスンバラシイ~。

 稀人の国では、いろんな催しがやられるんでしょうねー」


 身振り手振りで今にも踊りだしそうだ。

 なんか裏ダンジョン攻略についてベル君から話を聞いていて興味津々らしい。

 きっと稀人の国へ行ってみたいのだ。


 しかし、この人を連れて日本へ行くイメージがどうしても沸かない。

 こんな常時ハイテンションな外国人を引き連れて、自分の生まれ故郷の街を歩く勇気がちょっと持てない。

 あと、うっかりと知り合いにでも出会おうものなら!


 せっかく火薬式花火も作ったのでそれにするべきか、あるいは安全性を考え、また異世界ならではという事で魔法式にすべきか。

 どちらも趣きという意味においては一長一短なので激しく迷う。


 アナログとデジタルの違いというか、リアル花火とビッグサイズLEDボードでのイベントとの違いというか。


 ラスベガスのダウンタウンでは、宿泊しているホテルのあるストリップ地区でやっているリアル花火はガン無視して、しかも外に出ればすぐ拝める本物のLEDボード花火さえ見ずに、御店の中でテレビ画面でLEDの花火を見るなんていう阿呆な事までやっていた。


 客や店の人みんなでカウントダウンして、「「「「カンパーイ」」」」なんてやって楽しんでいたのだ。

 あれも盛り上がって、それなりに面白い物だった。

 あれって御店の中限定で、書き入れ時の正月中は「再放送」までやってくれていたしな。

 さすがにそれだけはリアル花火じゃ無理。


 それに魔法の花火も中々の物なのだ。

 とりあえず、両方取り入れたハイブリッド式という事で考えておく。


 あれをやりたいなあ。

 海の上でないとやれないという、超デカ玉花火を。

 あれは何尺あったっけな。

 確か六尺玉だったっけか?


 日本では、あれを見たくて観光客が押し寄せるんだ。

 内陸部では恐ろしくてやれないという凄まじい代物なので貴重な催しなのだ。


 米軍の「一発で山が消える」とさえ言われた、超大型の十トン爆弾を彷彿させる凄まじさだ。

 所詮は特大の花火に過ぎないのだから、そんな破壊力があるというわけではないのだが。

 大規模な花火会場で花火に引火したりしたら大ニュースになる事間違いなしだ。


 花火大会お知らせのポスターは、PCでトーヤとエディが作成している。

 ネットから拾った無料テンプレートの中から、なかなか可愛いデザインを選択していた。

 いいセンスだ。


 浴衣も、今年は裁縫グループの子供達が自力デザインで検討中だ。

 その一生懸命な様子を動画で見て、指導してくれていた日本の学生さん達も感無量らしい。


 とりあえずアドロスの商業ギルドと連携して、「第一回アドロス大花火大会準備委員会」を立ち上げた。


 葵プロデューサーは、まだまだ現役だ。

 レオンが遊びに来がてら届けてくれるオルストンエッグや、すっかりケモミミ園に居ついたエバンス爺さんが作ってくれるツバメの巣料理によって、葵ちゃんも実に栄養満点だ。

 彼女の「御腹にいる奴」も、さぞかし絶好のコンディションを保っていることだろう(ガクガクブルブル)。


 ファルがにこにこしながら毎日葵ちゃんの御腹を撫でまくっているのだが、そんなに神の御使いからの祝福ばかりを与えなくても全然大丈夫だと思うの。

 いや、むしろヤバいからやめて。


 岩ツバメどもは全部巣を引き払ったので、前もって引き取りを交渉しておいた残りの巣は斉藤ちゃんをリーダーとするゴーレム部隊により回収に行かせた。

 ついでにエリーンもついていったので、御愛想とヨイショの嵐がアルバトロスの北海に吹き荒れた。


 ツバメ達にはもれなくアイテムボックスを貸与したので、そこに対価の御飯をたっぷりと詰めておいた。

 便利な道具がもらえたので、連中も大喜びしている。


 しかし、あの鳥頭どもはまったく気付いていないのだが、それを用いて、しっかりと次の巣の材料を集めてもらうのが真の狙いなのだ。

 我ながら中々腹黒いぜ。


 海草を集めたり魚しか獲らない魔物なので、襲撃を受けない限り人間を襲ったりはしないので安全安心だった。

 むしろツバメどもに危害を加える人間がいたら、この俺が滅ぼす。

 国王陛下に頼んで捕獲禁止にして、王国保護指定となる天然記念物にでも指定しておこうか。


 渡って行った先ではどうか知らないが、どうせ人が簡単に入れないような絶海の断崖に巣を作るのに決まっている。

 ツバメの巣は王家にもたっぷりと献上してあるから、既に保護魔物化への動きも顕在化しつつあるのだ。


 ツバメの巣レシピについては、今山本さんとエバンス爺さんで資料化してもらっているところだ。


「食通エバンスのツバメの巣三昧」

「稀人料理から作られるツバメの巣レシピ百選」


 そんなタイトルでの共著も残してもらえるように御願いしてある。

 編纂は、近代的な機器の扱いに精通した御稲荷コンビが受け持つ予定だ。



 遊園地も花火大会に合わせて正式に稼動する。

 ゲルスの奴らも不気味な沈黙を保っているが、このままだといつまでたっても開業できない。

 エドとも相談して警備は厳重にして、様々な訓練を行ないつつ備える形にした。


 とにかく、今回は「おチビ猫誕生会」「大花火大会」「遊園地正式営業開始」の合同イベントなのだ。

 絶対に大成功させるぞ。

 新撰組の連中も気合が入っている。

 いや、一番浮かれているのは子供達、そしてエリーンか。


 エリーンには色々と、そう「近代装備」の数々を持たせてある。

 俺のオリジナルも含めて。

 飛び道具や罠の専門家に、地球式の武器装備の扱いも習熟させておいたので何かと心強い。


 そのうちに奴ら(ゲルス)も動き出すだろう。

 俺に対して正攻法では通用しないという事が理解出来ただろうから、次は必ず絡め手で来るはずだ。

 自分の手を汚さずに、懐も痛めずに、こちらの反応を見ているあたりがまた厭らしい国だ。

 あれは一筋縄ではいかない。


 だが、あの国を灰にしてしまうわけにはいかないのだ。

 あれは本来アルスの国、そして国民はアルスの民なのだから。


 対ゲルス戦のテーマは「奪還」だ。

 必ずや取り戻す。

 監視用のゴーレムも放ってあるし、チャンスを待って必ず達成する。


 今回は、明確な勝利条件を設定した『課題達成型の戦争』なのだ。

 俺は短気な癖に、こういうところは妙に辛抱強く、そして執念深いのだ。


 無念のうちに散ったアルスの家族や爺やさんのためにも。

 そしてヘレンのためにも。


「俺の中のあいつ」イコマも警告してきているので、迂闊な事はしない。

 こいつとのアクティブな交信が復活してきているので心強い。

 絶対に、必ず何かある。

 ゲルス絡みで俺の予想もしない事が起きるはずだ。


「時期を待て。されば勝利の栄冠は君に輝くだろう」


 あいつ、イコマはそう言った。

 ならば、それを信じるのみだ。


 こいつがタイミングについて言及する時は要注意なのだ。

 そういう事に大変な強みを持つ能力なのだから。


 ここで慌てて馬鹿な事をすると絶対に碌な事にならないのは、あいつとの二十九年に渡る黒歴史が証明している。

 今回はアルスのための戦いでもあるので絶対にミスってはいけない。


 外では、蝉を追い掛けて虫取り網を振るう子供達の歓声が聞こえてくる。 

 みんな、生まれてきてくれてありがとう。

 この子達だけは絶対に守ってみせるぜ。


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