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66-2 水場にて

 俺は比較的近場にある水場へ向かうことにした。

 ここには、体内にいるハリガネムシの産卵のために中から操られたカマキリがやってくる事もあるのと、トンボさんとかがいるからだ。


 トンボは大体、地球の昔トンボくらいの感じか。

 それでも、おチビ猫なんかだと、あっさりと連れて行かれてしまいそうな大型サイズだ。


 あと水棲昆虫もいそうだ。

 気を付けないと「アマゾン川モード」かもしれないので要注意なのだが。

 あそこの水辺で小さな子供が遊んでいるとパクっと一口で丸飲みにしてくる大ナマズのような奴がいると困る。


 まあ警備のゴーレムが常駐しているので大丈夫だろう。

 そして警戒モードの俺を、このあたりの魔物如きが出し抜くのは無理な芸当だ。


 アドロスの街には地下水もあるが、迷宮の魔力を利用して水を作る施設がある。

 それは武が作った物で自己修復機能があり、千年間一度も止まらずに動いている。

 俺も確認したのだが、システムは今でも特に問題はなかった。


 こいつの御蔭で、この街のストリートチルドレン達も無事に生きてこられた。

 感謝するぜ、錬金魔王船橋武よ。


 そのせいか、アドロスには池や湖などはない。

 元々、天然の貯水池になるような地形を持っていなかった。


 ここだけは天候に頼らずに水を供給できるため、人工湖のような大規模な土木工事は避けたようだ。

 王都の守りを固める方を優先したのだろう。

 あの三重隔壁を作るのは大変な作業と材料を要した事だろう。

 コピー能力や莫大な魔力を擁する俺じゃないんだからな。


 強大な土魔法に、膨大な魔力とコピー能力、そして錬金素材であるアルバコンクリートを擁する今の俺ならば、あれをたぶん一日かからずに構築できるだろう。


 それで俺達は近場の湖沼を目指したのだが、そこは魔物なんかも生息している場所なのだ。

 生憎な事に肝心のカマキリさんは御留守だった。


 まだ夏まっさかりだから、ハリガネムシも出産シーズンじゃないのかな。

 ハリガネムシに操られて水辺にきたオオカマキリは、今は残念ながらいなかった。

 こいつらって地球のカマキリと違って年中見かけるのだが。

 

「カマキリいないねー」


 失望を隠しきれないトーヤが呟いた。

 そこへ、ふらーっとトンボがやってきたかと思うと、いきなりトーヤの頭を抱え込んだ。


「うわっぷ」


 トンボは、その全長がトーヤの身長の三分の二くらいしかなかったが、その猛烈な羽ばたきはなんと自分の体重の何倍あるか知れないトーヤを十センチほども持ち上げた。

 蟻じゃないが、やはり昆虫と言う奴らは力が強い。


 そいつはバタバタバタと、まるでうっかりとハエ取り紙に捕まってしまったオニヤンマか何かみたいに五月蠅く羽根を動かしていた。

 生憎と五月の蠅じゃなくて七月の蜻蛉だがな。


 七月蜻蛉って何て読んだらいいのかね。

 別名読みの組み合わせで「ふづきせいれい」とか?

 こうやって見ていると、意味はやっぱ五月蠅と一緒で煩いでもいいのかもな。


 そこで必殺の御狐パンチが炸裂した。

 両手で交互に、頭と胴体に一発ずつ食らわせたのだが、案外と強力な攻撃のようだ。

 傍から見ていると、とても可愛いらしい様子なのだが。


 トンボは蝿叩きで叩かれた蝿みたいに落ちて、尻尾を丸めてピクピクしている。

 可愛い顔をしていても獣人の子供は力が強い。

 見事なツーパンK・Oだった。


「危ない危ない。

 あやうく、こいつのオヤツになるところだった」


「トーヤ、これって美味しいかな」


「これはまずそうだ。

 帰ったら蝉でも獲って食べようよ。

 それに、これは標本にするんだから駄目。

 でも羽根はパリパリしているから、ちょっと美味しそうかな」


 やれやれ。

 俺は、あんまり食欲が湧くような代物じゃないんだが。


 ゴーレム達も見ていたが、大して危険はない奴なので自分で対処させる事にしたようだ。

 連中も何気にスパルタだな。


 俺も魔物の怖さは教えておこうかと思って、いつでも助けられる体勢で見ていた。

 トンボは、いきなり齧りには来ないので安心して見ていられる。

 まあ大人しく齧られているような連中でもないのだが。


 とりあえず、まずは標本一個ゲットかな。

 こいつはまだ生きていたので、俺が電撃殺虫しておいた。

 子供達に、固まってしまう前に標本箱の中でトンボの形を整えておくように言ってから、俺は池の方へ向いた。


 お、何か来ている。

 水面を泡立たせ、激しい水音を掻き分けるようにして姿を現したそいつは魚型の魔物だ。


 ナマズか鯉か雷魚か。

 全長五メートルほどの大きさだ。

 この池は大きいので、大型の水棲魔物が棲んでいる。

 そいつは舌をピュッと伸ばしてうちの子達を狙ったが、その長い舌を俺にあっさり捕まえられた。


 よしっ。

 そして魚群探知機……じゃない、レーダーMAPに映っていたそいつが姿を現した。


 それは巨大なタガメだ。

 そして、ちゃんとエサに食いついた。

 魚はじたばたと激しく暴れ、そいつを振りほどこうとしたが、がっちり抱えこまれて吸血口を突き立てられ、もはや脱出は不可能だ。


 俺は釣り糸ならぬ、魔物舌を切らないよう上手に手繰り寄せ、諸共に地上に引き上げた。

 陸(おか)に引き上げられて、タガメはキーキーとちょっとゴキブリっぽい鳴き声をあげている。

 実際には、ゴキブリだって脚の関節で音を出しているだけなので、別に鳴いているのではないそうだが。


 ちなみに、こいつは地球では貴重な高級食材であるらしい。

 食べるとフルーティな味がするというが本当だろうか。

 スパイシーな味だと言う人もいるらしい。


 フルーティ且つスパイシーって、一体どういう味なんだよ。

 とてもじゃないのだが食材として試してみる気にはならないので、こいつは子供達の標本用に決定だな。

 だって、これってカメムシの仲間なんだぜ。

 試食はさすがに勘弁してくれ。


 タガメは魚なんかを襲う吸血水中カメムシなのだ。

 田の亀虫でタガメだからな。

 よく見ると、そういう形をしている。


 本物の飛んできたカメムシが欠伸の最中の口の中に入ってしまい、うっかりと噛み砕いてしまった人が物凄い顔をするらしい。

『苦虫を噛んだような顔』という言葉の語源は、おそらくうっかりとカメムシを噛んでしまった人の事が由来なのだろう。


 猫がそれをやると真っ白な泡を吹いて苦しみ、飼い主を大慌てさせる羽目になる。

 獣医に駆けこんで診てもらう頃にはケロっと平気な顔をしているらしいのだが。


「ああ、お前達。

 危ないから近寄らないように」


 これも電撃殺虫しておく。

 ついでに魚も。

 クラーケンもそうなのだが、水中魔物は電撃に弱い。

 だから十三か国との闘いでも、あの司令官の提督は強烈な電撃魔法の使い手だった。


 一番偉い奴が先頭を切って戦えないと、この世界では海なんぞには出られない。

 兵隊の士気がすぐに下がって全滅してしまう。

 その理論の末に出来上がった結晶が、あの「海賊王シド」なのだ。


 うちのクラーケンどもは完全に絶縁済みである。

 何しろ彼らの主は、ありとあらゆる絶縁材料に満ち溢れた、材料素材関係では世界でも名にし負う二十一世紀の日本から来たのだ。


 そのイメージを徹底的に魔法に練りこんである。

 その上で電撃魔法に対抗できるバリヤーの魔法を組み込んであるのだ。

 この前の小競り合いの時には、俺の超強力バリヤーで防護してやったし。


 さすがに、こいつらはでかくて子供二人の手には負えないので、俺が標本箱に入れてピン打ちまでやってやる。

 二人にはラベル作成と説明文を書かせている。


 トーヤはオフィスに置いてあるような複写機を取り出し、エディは机を用意し、それからノートパソコンとプリンターを取り出した。


 シールになったラベル印刷用紙もある。

 そう、俺は新スキルを用いて、ついにプリンターやコピー機を手に入れたのだ。


 最早文明度において、この世界の人類は、うちの御狐コンビの前になすべくもない。

 これらを見た親方も唸ってばかりだし、うちの国王陛下は己の世界を越えた異世界のテクノロジーに脂汗を流しっぱなしだ。


 ミハエルは深く考えずに、その場で利用を始めた。

 もう日本語の取り説も読めるようになったしね。


 王宮の若い文官達も、仕組みなんぞは全く意に介さずに、ただちに「購入申請」「使用申請」の要求を文書に認(したた)め、あっさりとオフィスに導入した。


 ベル君なんぞは、既に日本語の読み書きを軽くマスターしているので、すぐに指導員として呼ばれてしまうらしい。

 彼も伊達に優秀ではないのだ。

 仕方が無いので、ベル君が翻訳マニュアルを作ってほしいと言ってきた。


 彼は自分でもそれを作る能力はあるのだが、肝心の自分の仕事が出来なくなってしまう。

 そうなるとダンジョン探索に行けなくなって俺が困るので作ってやった。


 それらの品は、王都の冒険者ギルドにも寄贈したのでレッグさんが大変喜んだ。


「この功績をもって、あなたが死んだ時はSSSSランクを創設して、その偉業を称えましょう」と言ってくれていた。

 よっぽど嬉しかったらしい。


 少なくとも、俺は老後に嘱託として冒険者ギルドで働かなくてもよくなった。

 どうやら「御茶汲み公爵」の称号は得ずに済んだようだ。


 だが、うちの子達はみんな、結構業務用プリンターで遊んでいる。

 おい子供達、金玉や尻の穴とかをコピーして遊ぶんじゃねーよ!

 あと変顔のコピーとか。


 ええい、本当に子供は碌な事をしない。

 世界は変われども、人はこの法則から逃れる事は絶対に出来ないのであった。


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