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64-6 白亜の城

 ホテルは島の南側、島で一番大きな湾にある。

 ぐーんと歪曲していて、ホテルから見て右側には限りなく続く砂浜が広がる。

 まるでメキシコの有名な観光地であるカンクーンを思い起こさせるようなビューティフル・サンズだ。

 左手には島で最大の半島が見事な景観を見せている。


 この湾の中のビーチは実に三十キロメートルにも達するような白砂の世界だ。

 その景観とホテルの造形の見事さに、シェルミナさんも御満悦だ。


「これだけ見事な別荘を持った王侯貴族も滅多にはおりませんでしょう。

 まるで美しい宮殿です。

 しかも、このような人跡未踏の遙か南の島で。

 シルベスター様には実に相応しいものです。

 これも稀人式なのでしょうね」


 ふう。

 この青く蒼く碧い南の楽園が『離宮の主』の御眼鏡にも叶ったようで何よりだ。

 この人は一見煩型なのだが、やる事さえきちんとしておけばそう何も言われない。

 俺に対しても、ちゃんと敬意を表してくれる。


「ひゃあ、これは凄いものですね。

 あのう、これの管理も僕達の仕事に?」


 この世界に生きる人の目には、現代風の高層ホテルなど、白亜の巨大宮殿にしか見えないのであろう。

 恐る恐るハモンドが訊いてくるが、俺はポンと頭を叩いて教えてやった。


「心配するな。

 ここはゴーレム達が管理してくれている。

 お前とミハルドは、俺達と一緒に来て執事としての仕事をしてくれるだけでいい。


 ただここは、お前が生まれてこの方出会った事のないような、とてつもないVIPをもてなす場合もある。

 そういう時には正式な執事が対応しないとまずいだろう。

 だから色々と精通しておいてほしい。

 わからなければ、ここのゴーレムに訊いてくれればいい」


「そうですか、わかりました。

 そうしておきます」


「ははは。

 まあ、そうしゃちほこばるな。

 今日はゴーレム達も久しぶりの御客様を御迎え出来て張り切っているから、お前達も遊んでいていいぞ。

 こういう事は遊びながら覚えるのが一番さ。

 何しろここは、そういう遊戯施設なんだからな。


 今日は大事な客もいない。

 ここは使用人の福利厚生も兼ねている。

 飛行機は、子供達が喜ぶから御楽しみで出しているだけだ。

 ゲートの魔法で繋げば、すぐに来られる場所なんだからな」


 エミリオは、もう客なんかじゃない。

 大事な大事な俺の家族、可愛い弟なのだから。


「ありがとうございます。

 とりあえず施設の把握から始めたいと思います。

 あとシェルミナさんにも御伺いを」


「あ、僕も行きます」


 ミハルドも一緒に行くようだ。

 彼は、いつも自分を助けてくれていたこの親友を非常に敬愛しているらしい。

 兄に対するのに近いような親愛の感情があるのかもしれない。


 律儀な奴らだ。

 まあ任せておくか。

 シルの御付きの人は、ほぼ例外なく貴族関係だしな。

 彼らと上手い事やってくれていればいい。


 まあうちに来てくれた人達に、そう煩い人もいないので特に問題はないのだ。

 どちらかといえば家宰のロドスが一番煩いくらいだ。

 彼も本来ならば、こういった資産の管理も仕事の内なのだから当然だろう。

 彼もあちこちの点検に行ったようだ。


 ついでに子供達も「点検」に行ったみたいだ。

 あいつらは絶対に碌な事はしないはずだから、ゴーレムどもにしっかりと監視されている。

 少々のオイタは構わないのだが、何か危険な事故があってはならない。

 ゴーレムや冒険者達には子供達の安全第一を通達してある。


 気が付くと、見慣れない子供達が一杯いた。

 精霊どもがまた湧いてきているようだ。


 別に精霊が居てくれてもいいんだけど、こいつらがいると子供の人数を把握しにくくなるので、子供達の安否確認がしづらくなるんだ。

 水場のイベントだと、そういう事にも気を使う。

 まあ精霊が大勢いてくれると、祝福効果により事故そのものがまず無くなるのだが。


 それに腕輪を通して子供達の事はきちんと把握されている。

 もし何か危ないようなら、子供付きのゴーレムが腕輪の中から飛び出してくれるはずだ。


 エバンス爺さんは、あれからすっかりケモミミ園に居ついていて、離宮にて我が家のように寛いでいる。

 ここにも当然のようについてきていた。

 普段は縁の無い南国の海の幸に興味があるようだ。


 まあ、この人には子供達が物凄く懐いているのでいいかな。

 エバンス爺さんも子供達を可愛がってくれているし。

 今まで御爺さんのような人はいなかったから丁度いい。

 俺も見かけは若いし、まだかろうじて後数年程度はおっさんの領域にあるのだ。


 まるで日露戦争の頃の軍人のように立派な髭を生やした様は、さしずめケモミミ園の理事長先生といった貫禄か。

 塾長先生でもいいけど。

 その場合は、もっぱら美食塾だな。


 本日の塾長様のスタイルは、昔地球で流行ったような白と水色のストライプが入った半袖で膝まで生地のある、おっさん水着を着込んで準備体操をしていらっしゃる。

 泳ぐ気満々だ。

 素もぐりで何か獲物を狙うのか?


 一緒に体操しているのは、御揃いの水着を身につけた神聖エリオン様だ。

 あの子は爺さんの事が凄く気に入ったらしくて、もうべったりとくっついている。

 ファルには実の爺さんなんていないからな。

 ファルスは代々母子家庭なのだ。

 強いて言えば、幼かった頃のレインを可愛がってくれていたバルドスの爺が祖父相当かな。


 とりあえず、水に慣れていない奴があまりにも多いので、子供は水深が浅いプールで始めてもらう。

 圧倒的におチビが多いので、まずはチビ用プールから。

 スイミングコーチは冒険者やゴーレムだ。


 だが身体能力に秀でたケモミミチビ達は、あっという間に泳ぎをマスターしてしまった。

 既にバタフライをマスターしている奴がいた。

 ここは安全のため水深五十センチしかないのだが、手足の短いこいつらならバタフライも充分できるかな。


 人族だから、エルミアの大きい子達の方が泳ぎは苦戦していたのだが、まあ楽しく遊んでくれているならいいか。


「おーい、海に行くぞー。

 全員これを着用しな」


 そう言って俺が出した物は『ライフジャケット』だ。

 おチビ達が、初めて見る物に燥ぎながら着けさせられている。

 これがないと怖くて海なんかで遊ばせられない。


 本当は川遊びでも着けないと駄目なのだ。

 結構、川での事故は多い。

 キャンプや林間学校なんかで行った山の方面でも水の事故は起きる。


 国土交通省だか消防だかの人が、「川遊びをする時はライフジャケットを付けてね!」とSNSでウイットの利いた発信をして人気になっていたな。


 うちなんか言われるまでもない。

 だって幼稚園なんだものな。

 みんな、もう碌な事をしないのだ。


 子供の世話を担当する職員は心得のある貴族の子女とか元冒険者みたいな人ばかりだから、なんとかやれているが。

 パワフルで俊敏な現役冒険者の男性警備員もたくさんいるしな。


 男の子はこういうライフジャケットみたいな物が好きだからいいが、女の子、特に裁縫グループの子達がカラーやデザインなどに煩いので気を使った。

 一応、ネットで売ってる子供用の格好いい奴を参考に作り上げてみたものだ。

 色合いや形も、なかなかファッショナブルに出来たので、彼女達も気に入ってくれたようだ。


 おチビ猫にもしっかり装着する。

 小さい子はきちんと着けてやらないと、すっぽ抜ける場合がある。

 おチビさん向けは、ベルトからすっぽ抜けてしまうシートベルトのサブマリン現象のように股から抜けてしまわないよう特別な形になっているので、きちんと股間を通したベルトを嵌めておけば大丈夫だ。


 ファルは……自分で着ていたようだ。

 こいつの場合はライフジャケットが無くても全然大丈夫だと思うのだが。


 それにレインボーファルスの気配を感じ取ったのか、あちこちから水系の精霊が集まってきたようだし、俺にも何匹かくっついて魔力を吸っていた。

 その分は子供達の守護者として加護全開で働いてもらおう。

 他の精霊達にも魔力を振り撒いてやって、臨時安全員として滞在させた。


 子供達にも準備体操をしっかりさせてから海へ入らせた。

 泳いでいる時に足がつったりしたら最悪だからな。


 ライフジャケットだけでなく、海水で体自体が水に浮くので、とても楽しそうだ。

 あの水に浮くビーチサンダルだけでも、大人の男性の下半身を海面に留めるほど強い浮力を与える事が可能なのだ。


 理科の授業で塩水を使って、浮力の実験をした事もあった。

 うちの子供達は比重についての知識がある。

 まだ幼稚園児なのに物体の熱による膨張や収縮まで理解しているのだ。


 おチビ猫も、海の浅いところでパチャパチャしていたが、そのうち浜辺で蟹さんやヤドカリさんと遊び始めた。

 こういう物やイソギンチャクなんかも、この世界には普通にいるようだ。


 この島は砂浜に周囲を覆われているが、一部磯になっていて、その手の水棲生物も理科の課外授業として観察できる。

 そのあたりは若干弱い毒のあるものもいるので、あまり無闇に触らないよう言ってあるが。


 地球だと、うっかり触ると凄まじい神経毒を持っていて、すぐに呼吸困難に追い込まれるようなヤバイ奴もいる。

 そいつを幼児が食らってしまったらヤバイ事この上ない。

 確か神経毒を持つ針を所有する貝なんかは日本にもいた。


 幸いにして、この島にはそこまで凶悪な奴はいない。

 水中にも、やたらと危険な生物はいないようだ。


 フグ毒と同じテトロドトキシン持ちであるヒョウモンダコみたいな奴が一番困るのだ。

 あれは見た目が綺麗で、おまけに小さくて可愛らしいので子供が触りたがる。

 唾液に毒を持っているらしいので噛まれたらヤバイ。

 場合によっては体表面を触っただけでも手に唾液の毒がついて、探偵物アニメに登場する毒殺シーンのように酷い事になるかもしれん。


 綺麗な色をしたウミウシなんかでも、カツオノエボシのような猛毒クラゲからかっぱらった猛毒の刺胞を大量に背中に蓄えているような危険な奴もいるのだ。


 魔物なんかはゴーレムがおっぱらってあるし。

 沖縄の海蛇みたいに危険な奴もここにはいない。


 水中眼鏡とシュノーケルを渡して、海中の観察とかもやらせてみた。

 一応、これは臨海学校なのだ。

 まあ基本的には御遊びなんだけれども。


ダンジョンクライシス日本

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こちらもよろしくお願いいたします。


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