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64-4 たゆたうもの

 やっと臨海学校当日になった。

 ロドスによる厳しい修行が終わり、晴れて執事見習いとなったハモンドとミハルドは、執事服に身を固めて待機している。



117:一緒に海水浴に行きたい名無し


 いやあ、美味しそうっす。

 初々しい少年執事、たまらないっす。

 ジュルジュル。

 うちは紐水着でいいやろか~。


118:頭を抱えるガーディアンの名無し


 どうどう。

 もうこのスレ、変態が次々と湧いてきて大変。

 まあ実地にどうこうできるわけじゃないから、別にいいんだけど。

 最近は、警察のサイバーパトロールも進化しているんだから気を付けなさいね~。

 せめて貝殻水着にしておきなさい。


119:今、東映怪獣映画祭り中の名無し


 南海の大決戦とか期待しているんだけど、そういうのは無いの~。


120:スレチですいません、の航空マニアな名無し


 うわあ、あの機体が新品でロールアウトされているのかあ。

 じゃ、じゃあ、あの機体も?

 それに、あの幻の機体とかも~~


121:真昼間からビールタイムな名無し


 なんか変な人が来てる~。

 まあ、南の島でケモミミチビちゃん達と夏休みか~。

 飲食業なんで纏まった休みが取れないから、たとえ誘われても行けないわねえ。


122:新称号、「公爵魔王」な名無し


 おう、おまいら。

 いつかブルーアイランドでオフ会とか出来たらいいな。


 くっくっく。

 その前にあのアドミンの野郎だけはしばかんとなあ。

 ふっふっふ。

 ふう、ウエーハッハッハー!


123:こう見えてプロの占い師な名無し


 やれやれ。

 園長先生、さては受けた仕打ちは一生忘れないというAB型だね?


124:最高機密漏洩に慌てる魔王


 なぜわかった~~!!


125:女の子の水着姿を早く出せな名無し


 わからいでか!



 子供達を並ばせている間に、掲示板書き込みが出来てしまった。

 いやはや、もう凄い人数だわ。


 エルミアの子供達も、早くも花柄ビキニにパーカーを羽織った姿のエリーンに引き連れられて集まってきた。

 こいつが一番遊ぶ気満々だぜ。


 あれだな。

 プールや海へ行く時に、服の下に水着を着ていく小学生と一緒だ。

 まあ、こいつの場合はいつもの事なのだが。


 慣れない航空券発券にわたわたしているが、子供達はみんな楽しそうだ。


 これにエミリオ殿下の一団も加わる。

 いや、もう兄弟みたいなものだからエミリオと呼ぼうか。

 王子様だから対外的にはエミリオ殿下と呼ばないとまずいのだが。


 向こうは、もう「アル御兄ちゃん」とエリみたいな感じに呼んでくれている。

 でも兄上とか兄様とか呼んでくれないのは何故なんだろう~。

 いや畏まられないのは親愛の情があるという事だから 嬉しいんだけどね。


 当然、護衛の王国騎士団も来ているので、一階はもう満員だ。

 二階にはサロンというか食堂というかといった感じのスペースが広がっている。


 いつもの如く、すったもんだしながらも離陸準備は整った。


「テイクオフ」


 俺の指令に従ってゴーレム魔核を組まれた機体が浮き上がると、怒涛のように歓声が上がった。

 子供達は窓に鈴なりになっている。


 うちの機体は、もう航行法がこなれているので安全性は高い。

 離陸中も座席に縛り付けたりせずに、そういう事もOKにしてある。

 乗客の移動による重量の偏りなんかも心配ない。


 それに、この子達が地球で本物の飛行機による離陸を経験する事も無いだろうしな。

 まあ俺的にはやりたい放題だ。


 この機体は、いつものバッタもんではない本物の飛行機なのだが。

 その代わり、機体の材料は柔なジュラルミンではなくオリハルコン製だし、飛行は魔法で行なっている。


 ぐいぐいと蒼穹を断ち割るかのように上昇した機体は一気に雲上の世界へと遷(うつ)り、地球人には御馴染みの神秘的な光景に、子供達は無垢の魂を奪われた。


 そういや、エミリオも飛行機は初めてだったな。

 今度、超高高度飛行を体験させてやるか。

 やがて王となるこの子の世界を眼に、あるいは魂に焼き付けるような体験を。


 そして、ほどなくして一行は珍しい客人を迎える事態になった。

 俺も初めて目にするものだ。


「空魔」


 それは大空を遊弋する大きな魔物だった。

 いや、正確には魔物とはいえない。

 これは精霊の末裔とでもいうようなものだ。

 そう、あのエルフやドワーフと同等の存在なのだ。


 ただ、こいつらの方が精霊っぽさを遥かに残している。

 というか、精霊っぽい習性そのままの生き物だ。


 記録には残されているが、大概は仕事で高い山に登った冒険者などが目撃するもので、特に危害を加えてくるわけでもない。

 彼らは、ただ漂うのだ。

 かつて自分達の祖先が、どんな使命を持っていたのかすら忘却の海に置き忘れたかのように。


 ある冒険者は、その空魔が魔素を吸収しているようだと記述を残している。

 おそらくは、ファルス不在の時代に魔素を直接吸収して存在を続けられるように進化したものではないだろうか。


 地球にも信じられないような生き物はいる。

 海底の猛毒な硫化水素溢れる地帯で、その毒を養分として生きる生物なんかだ。

 毒ある限り無敵という種族だ。


 彼らが滅ぶのは、まさにその並みの生物なら瞬く間に死滅させてしまうような凶悪無比である毒の提供が終了した時となる。


 いつまでも永遠に栄える種族は、地球の歴史の中で決して有り得ないだろう。

 太古から一億年単位で延々と存在する一部の生物とて決して例外ではない。

 三億年の歴史を誇る台所の覇者『G』とて、いつかは滅び去る。


 海底に存在するカリウム鉱床の中には、生物が作り出した物がある。

 海水中のナトリウムを「原子変換」して作ったと言われている。


 かつて、地球にいた錬金術師の中にはイカサマな奴らも多くいたが、生物の中には生きるためにごく当たり前に錬金術を行使する者もいる。


 ニワトリは、カルシウムが足りなくなるとタマゴの殻が薄く弱くなってしまう。

 カリウムなどを多く含んだカラス麦のような餌をやれば、自分でカルシウムを作り出し殻の材料にする。

 奴ら、とぼけた顔して案外やるものだ。


 その辺の雑草もそうだ。

 平気で錬金術を操り、養分の不足する荒地でも、奴らだけは水さえあれば見事に生い茂る。


 無論、全ての者が対応しているわけではなく、おそらくは生存競争に敗れ、死に地へと追いやられた者が対応し、その中から生き残った者だけが死に物狂いで進化を遂げたというのが実態であろう。


 そういうものは、大概「軽元素」が対象だ。

 俺が聞いた事があるのは、元素番号二十番のCaまでだ。


 そして、その芸当は高等な生物には出来ないようだ。

 大概は微生物や下等な植物くらいまでの役割だ。

 ニワトリなんかは、まだ頑張っている方だろう。

 まあ、あいつらも時には首を撥ねられても走り回るくらいタフな生物なのだが。

 異世界魔物のオオカマキリかよ。


 錬金術というのは、何も考えない方が強いのかもしれない。

 もっとも、そんな彼らとて本物の錬金術など行使するべくもない。


 確かにニワトリは錬金術を行なう生き物だが、それは彼らが必要なものだけだ。

 はたして金の卵を産むガチョウやニワトリなんていたのかね。

 俺はいないと思う。


 金の卵は鳥どもにとって必要のない物だから。

 彼らが命を削ってまで原子変換をして手に入れたがるのは、可愛いタマゴ達の材料であるカルシウムなのだから。

 無理して、生成が著しく困難であろう重元素の変換などに挑戦しない。


 そんな地球の現存する愛すべき錬金術師達も、新しい高位元素を作り出す高価な科学装置には敵わない。


 だが、それらが作り出す最新の元素よりも多くの未知の元素が、このアスベータの世界にはある。

 もちろん、作った人間がいるのだ。

 言わずとしれた錬金魔王である。

 そして、それらは只の元素であるので、俺にもコピー出来てしまっている。


 王宮の宝物庫に元素サンプルたくさん飾ってあったが、あの世界でその価値が理解できる人間は只の一人もいなかったようだ。

 表示された元素番号の意味を知る者は、今でさえ知られる限りはこの世界に三人しかいない。


 あ、トーヤは勉強して知っているけどな~。

 あの子、本当に天才だわ。


 出遅れてケモミミ園にやってきたエディも、既に半ば理解している。

 恐るべし狐族獣人達。


 その他で理解しようとした人間は親方とミハエルくらいのものだが、さすがに彼らの理解の範疇を超えたようだ。


「王子様には、どうして理解出来ないの?」


 不思議そうに、その可愛らしいブラウンの円らな瞳で見つめ返された疾風のミハエルが苦悩する貴重な姿は、俺のアルバムにコレクションされている。

 あれは傑物で非常に優秀な男だが、さすがに天も全ての才を与えたりはしないようだった。


 武は俺のようには製作品を量産できなかった。

 後世の人達には、それらに応用的な利用価値は見つけられなかったようだ。


 武の没後には微量の生産も出来なかったし。

 あれらを地球に持って帰ったら、何か使い道があるだろうか。

 希少なカリフォルニウムの天文学的な値段とかを考えると、ちょっと楽しい。

 時間の停止した装置の中で、それらは放射性元素も鉛に代わってしまう事もなく保存されていた。


 あの空魔達も、暗黒の時代に存在が消え行く中で必死になって道を探したのだろう。

 そして進化した。


 だが皮肉なのは、その結果、ただ魔素を求めて遊弋するだけの生き物になってしまったという事だろう。

 彼らの望んだ、世界の調停者としての存在である精霊のままでは残れなかったのだ。


 ただ、その不思議な姿や動きは子供達を魅了したらしい。

 チビ達全員で顔を寄せ合って、窓に張り付いている。

 エミリオも夢中でケモミミに囲まれながら、もふもふ王子と化していた。


 俺はゴーレムパイロットに、しばらく彼らと空の旅を共にする事を命じた。

 中々見る事のできない珍しい光景だからな。

 おそらく子供達にとっても生涯一度きりの経験だろう。


 俺は感慨深く彼らを眺めた。

 奴らは魔力を吸ったりはしない。

 普通の精霊達のように俺の魔力に寄ってきたりはしないのだ。


 頃合を見て俺は指示を出し、その大空にたゆたう姿を見送りながら、機体は一路南海に浮かぶブルーアイランドを目指した。


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こちらもよろしくお願いいたします。


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