64-3 準備に余念無し
「そうですか。
この子達を執事に。
では二人とも、私についていらっしゃい」
ロドスが放つ千年物の風格の前に、小僧どもは言い返す事も出来ずに引き立てられていった。
こうして、嫌も応も無く二人は我が家の執事として納まる事に決まった。
今までのように毎日暗い顔をして俯いていた貧しく惨めな生活と違って、この世界で一番の離宮にて自分専用の豪華な一人部屋を貰って、世界一裕福な公爵家での素晴らしい暮らしが待っている。
あるいは大国アルバトロスの王都ど真ん中にある王宮ゾーンにて威風堂々と存在感を示す、グランバースト公爵家本宮での立場ある暮らしが。
ハロルドには王都の公爵邸に部屋を宛がう予定なのだが、うちのメインであるシルベスター離宮で仕事をさせる場合もあるだろうから、離宮にも部屋をやっておこう。
彼らにはやり甲斐のある仕事が与えられ、能力に見合った対価が与えられる。
慣れるまでちょっとばかり大変だろうが、優秀な千年物の教師の下で働けるので何も問題ない。
いやあ、めでたしめでたし。
「また、強引な事をやっていますねー」
後ろから声がかかったので振り向いたが、誰から突込みが入ったかと思えばエリーンだった。
「おう、久しぶりだな」
「ちょっとエルミアへ出張に行ってたんですよ。
流れであそこの御領主様と一緒に狩りに行ってきました。
これがまた、中々の腕前でして。
まあ、引き分けってとこですかね」
マジか!
こいつの狩りの腕は半端じゃないんだがな。
素だと、俺ではスコープ付きの銃を使っても魔法抜きでは絶対に勝てんレベルだ。
貴族の狩りは伝統的に弓矢を用いるから、魔法を使うなんて邪道だそうだ。
ましてや銃なんぞを使うのは邪道の極みだ。
まあ、あの豪胆そうな御領主様なら、エリーンとタメを張るのもありなのかもしれないなあ。
「へえ、新入りですか。
執事見習いねえ。
早くここの雰囲気に馴染めるといいですねー」
他人事なので、のんびりした様子で離宮にて呟くエリーン。
狩りの土産を持ち帰ってきたので、離宮の厨房で調理してもらう心積もりらしい。
奴はもうこの宮殿で我が家のように寛いでいる。
彼女から見て新入りの執事見習いなどは、単に新しい丁稚が増えたくらいにしか思っていないのだろう。
御客様でもあるまいに「我が家のように寛いで御過ごしください」なんて言った覚えは無いのだが、こいつに関してはもう今更だ。
寛ぐどころか、ここも奴の仕事場の一つなのだし。
得意の御愛想で、離宮の面子ともとっくに昔馴染みのように仲良くなっている。
特に厨房の連中とは。
何しろ、ケモミミ園開設以前から付き合いのある超古参冒険者なんだからな。
俺としても、まるで直臣のような気楽さで仕事を申し付けられる、貴重にしてその上超有能な人材だ。
「まあ、ロドスにつけておけば大丈夫さ。
千年くらい年季が入った一族だし。
あーそうそう、神父様は何か言っていた?」
「さあ、特には。
それに、あそこもケモミミ園同様に毎日が戦場ですからねえ」
そうだった。
色々と御手伝いを派遣したりもしているし。
臨海学校には教会の子達も呼ぶとするかな。
俺は久々にエルミアへ跳んだ。
「こんにちは、神父様。
ずっと所帯を持った挨拶に来よう来ようと思っていたのですが、遅くなっちゃって。
今日は俺だけです」
「やあ、アルさん。
御結婚おめでとうございます。
こちらは相変わらずですよ」
そうみたいね。
小さい子が群がってきて、俺の手を引っ張ってじゃれついている。
そのまま子供達を引き連れて、応援に出しているうちの職員さん達に挨拶しつつ、御土産を御披露していった。
この間の離宮の御披露目に使った食い物などを出しながら、臨海学校へ招待する話をした。
「臨海学校ですか。
稀人の国では面白い催しをやるんですね。
それでは、せっかくの御誘いなので参加させていただきます」
俺は臨海学校の栞の束を渡しながら、説明を始めた。
「そう問題はないんですがね。
あの新婚旅行で行ったブルーアイランド・リゾートでやりますので。
ただ、水の事故だけは気を付けないと。
みんな辺境のエルミア暮らしですから、多分泳げないでしょうし。
まあゴーレム達もついていますし大丈夫だと思いますが。
ああ、海って塩水ですから基本的に体が浮くんで大丈夫ですよ。
湾内は波も穏やかですから。
浮き輪とかもありますしね」
島では大量のゴーレム・ライフセイバー隊が日々訓練に勤しんでいる。
だが選ばれた人間しか来れない特別なところなので、肝心の御客が中々やって来ないのが彼らのもっかの悩みなのだ。
子供用プールなんかも完備している。
希望者には水泳教室なんかも開催される予定だ。
この世界の海で遊んでいた場合、油断すると海辺がアマゾン川も真っ青な「B級映画の世界」になってしまいかねないので、この世界の人達にはあまり海で遊ぶ習慣がないのだ。
どちらかというと、海とは魔物と戦う場所! というハイドのような考えが主流なのだろう。
しかも普通は戦わずに逃げるだけなんだけどね。
海の魔物はでかい奴が多いので、連中と出くわして正気を保っていられる奴ならば、まあ戦うのが普通だ。
その手の化け物から無事に逃げ延びるのは難しいからな。
まあ相手の魔物の方も手痛い目に遭うと逃げ出す事も多いらしい。
普段は魔法を使う人間なんかと出くわさないからな。
俺はエルミアの人達に別れを告げて、転移魔法で帰還すると色々な工作にかかった。
エルミアの孤児院の面子を加え、職員などの引率も入れると総勢で参加者が二百五十人を越えた。
これに離宮の人間が加わるので、それだけで軽く三百人を越えてしまう。
そこまでの人数はフライングパレスでは収容しきれないので、通常座席のジャンボジェットを作り出した。
というか、新スキルで作成した。
これも相当前の型だ。
この俺がまだ『若者』の範疇にいた頃の代物だからなあ。
この手の「地球製品」の最新型は、地球へ帰らない事には入手できない。
この機体は操縦出来れば普通に飛べる代物なのだが、操縦出来る人間が誰もいないため魔法で飛行させるしかない。
だがシートやキッチンの設備などは、地球の工場で作ったそのものの製品なのだ。
現行機種よりも三つくらいは型が古いのに、ロールアウトしたての新品という有り得ない代物なのだ。
たぶんF4ファントムが一線級の戦闘機として配備されていたのと同じくらいの時代に、こいつが全盛期を謳歌していたんじゃないか?
地球では製造ラインも解体されて、組み立てるための基幹部品すら存在しないので、もう二度と生産できないという幻の製品だ。
翼や胴体のような基幹部品の仕入れ先も製造ラインを解体しちゃっているからなあ。
備蓄されていた部品を食い潰すと、共食い整備をしないと何かしらの部品が足りなくて飛べないタイプだな。
にも関わらず、まだ素材の香りがぷんと香る新品の機体なのだ。
これだけ人数が多いと、座席指定にした方が良さそうだ。
乗る時に席を決めるだけでも時間かかりそう。
この世界初の航空チケットを発券するか。
どうせなら自動発券機も備え付けておこう。
おチビさんが届くくらいのサイズも作って、小さい子用に台も用意して。
あとリゾート用の服を作るか。
おチビ達のところへ行って裁縫グループの連中をかき集めた。
「カミラ~。
みんなで島へ遊びに行く時の服を作ってごらん。
ほら、こんな感じの奴とか、あるいはこっちの奴の方がいいかな。
エルミアの子達の分も御願いね」
「わあい。すごいおしごとの、じゅちゅうだ~」
俺がネットで落としたデザインのサンプル集を大量に渡してやったら、もう本物の狼のように駆け出していった。
当分、裁縫グループの子達を引き連れて、服飾実習室に引き篭もるのだろう。
素材は常に山のように置いてあるので十分に事足りる。
今回も今までにない番手や色合いに織り方なんかの新素材も含めて、更に追加で大量に出しておいてやった。
さて残りの準備にかかるかな。
ダンジョンクライシス日本
http://ncode.syosetu.com/n8186eb/
こちらもよろしくお願いいたします。




