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61-6 疾風怒濤

 内覧会は続き、人々に優雅でゆったりとした至福の時を与えた。


 そしてランチの時間と相成った。

 本日は館、本館前の植物精霊が管理する庭園で園遊会と洒落込んだ。


 トイレは、景観を損なわないよう普段は地下に内蔵されている本格的な物が、少し離れた所にせり上がってくる。


 鮮やかな模様のピクニックシートが敷かれたが、その柄がアニメ系なのは御愛嬌だ。

 ちょっとくらいは悪戯心が欲しい。

 御客人には、それが何なのかわかるまい。


 それが何かを知っているシルは、くすくす笑いを堪えている。

 ベルベット嬢も同様に、そっと上品に口元を押さえている。


 そして山本さん謹製の本格和食弁当が各所に散りばめられた。

 なんというか、日本の美術館で見かけるような「大名の弁当箱」に入ったような煌びやかな物だ。

 それも只の三重の御重ではなく御茶の道具なども付いているみたいな。

 その一つ一つが、昔の日本の御姫様の嫁入り道具に入っているような逸品なのだ。


 そして、その中身がまた豪勢だ。

 この世界の超高級素材を、丁寧に和食として設(しつら)えて。


 それに華を添えるのは、故郷愛知のすぐ上に在る岐阜で作られた「龍」の名を冠した米だ。

 これは生産量が少ないのも相まって、値段はとても高い米なのだ。

 こいつは俺のとっておきなのだ。

 新潟の魚沼産を遥かに上回る値段だが、これがまた実に美味い。

 これは大粒なのが大きな特徴だ。

 値段が高いので五キロだけ持ってきていた奴なのだが、これがまたとてつもなく美味い。


 もちろん、値段お高めの魚沼産コシヒカリも持ってきているけどね。

 それに対して数々の和食素材の料理が彩りを添える。


 伊勢海老(本当はアピポエビ)の御造り、マグロ刺身、蛤、毛蟹、クラーケン煮、高級蒲鉾、飛龍頭に千枚漬け。

 なんというか、まるで超豪華御節料理であるかのようだ。

 子爵以下の家では、当然夕食がこれよりも遥かに落ちる。


 警護の王国騎士団達にも、これが弁当として支給される。

 当然、連中の分の御飯は大盛りだぜ。


 騎士団員には交替で食べてもらうようにした。

 俺と奴らとは、もう昵懇(じっこん)の間柄だ。


 みんな、来てくれてありがとうよ。

 俺の感謝を込めた笑みに対し、目配せ、ハンドサイン、なんとなくの笑顔などが秘めやかに届く。

 まるで猫のショーみたいに、それとなく親愛の情を送ってくれる騎士達。



 そして食後に午後の和風茶会を経て、遊園地の内覧会を執り行なった。

 絶叫、興奮、歓喜、感動と涙、稀に失禁。

 阿鼻叫喚、思い出、親しい者達と過ごす大事な一時。


 それらは、たとえその者がいなくなっても、残された者の心の中に継がれていくヒストリー。

 小煩い公爵達も、今は孫達と絶賛童心に帰り中らしい。


 ジェットコースターは大人気だ。

 こいつは孫よりも爺さんの方が嵌っている感じなんだが。

 フリーフォールも完成していたので、この異世界に何度も絶叫が響き渡った。


 レールに乗った列車でダンジョンを巡り、ラストは水に突っ込むライドアトラクションを追加で作っておいたが、これまた大好評だった。


 観覧車も、優雅にして且(か)つゆったりとした時を賓客達に与える事に成功した。

 夕暮れのアドロス、地平線の彼方に浮かぶ王都は幻想的な風景を醸し出し、人々を幻想の世界に酔いしれさせた。


 親子で回る観覧車は、乗り込む人達の家族の想いを表すかのように、ゆっくりゆっくりと時の輪を刻んでいった。



 そして、ついに本番たる晩餐の時がやってきた。

 そう、伝説の食材が久しぶりに表舞台へ姿を顕す時がやってきたのだ。


「御来場の皆様方、某(それがし)は本日グランバースト公爵家離宮シルベスター・プティパレスの目出度き内覧の儀において料理長を務めさせていただく事と相成った、食通の街アボランゼの元ゴーリル伯爵エバンスである。

 宴席に御付きの皆様方におかれましては、この古き王国にもこの世のどこにも比類無き、とびきり上等な料理の数々に刮目されよ。

 長年この王国にて食通と謳われし料理長エバンスの腕の冴え、どうぞ御ゆるりと御愉しみあれ」


 優雅に、そして気概の籠った挨拶の口上を述べる前ゴーリル伯爵に、嘗ての彼を知る者は驚きの声を上げる。

 彼は決してこのように立派な態度を取るような人間ではなかった。

 偏屈で決して己を曲げず、そして美食と家族のみを愛した、この古き名門アルバトロス王国でも名にし負う変人貴族として遍くその名を知られた人物なのだ。


 国王陛下の視線が突き刺さるように痛いな。

 そんな、「お前は一体どんな魔法を使った」みたいな目で見るのは止めてほしい。

 その魔法使いの血統が欲しいと、元々は半ば無理やり娘を押し付けたのは、他ならぬあんただろうが。

 だから今日の日があるのですよ?


 あんな偏屈爺だって、やっぱり人の子なんですからね。

 空気というか、ノリというか、そういうものに感じ入る事だってあるのだから。

 この嘗ては自分が仕えた王国の姫君のために、自分の専門分野で奮い立つ気概だって持ち合わせているのだ。

 所詮そういう事は、共に現場で苦労した人間同士じゃないとわからないのさ。



 まずは定番であるツバメの巣のスープから。

 あちらこちらから湧き上がる感動と賞賛の声。


「これが、あの伝説のスープか!」


 陛下、その賞賛はまだ早いぜ。

 今夜は稀人式伝説のメニューが華開く夜なのだから。


 そして「海草サラダ」の出番だ。

 ツバメの巣を俺のアイテムボックスで分解して、海草と滋養分に取り分けたものだ。

 この世界のツバメの巣は、地球の物と違ってちゃんと海草が使われている。


 素材に分解し、そのうえ再生をかけてフレッシュにした【長時間寝かせた魔力漬け海草】に、稀人世界から持ち込んだあれこれの健康オイルや調味料を加える。

 更にこの世界で収拾した香辛料をマイルドミキシングした上、俺の魔力で練りこんだ禁断のドレッシングを振りかけて。


 トッピングとして、コピーしたドラゴンを丸ごと一匹ほど使ってそれを濃縮した【ドラゴンエキス】を、たっぷりと絡ませたドラゴン・フィレ肉。

 噛めば口の中で蕩けるどころか、頬からそのまま体の隅々にまで滋養が深く染み込んでくる。


 そして、くっくっくっ。

 禁断の【マジック・マッシュルーム】の出番だ。

 これは言わずとしれた精霊の森産の、あのエリクサーの主原料であるベニテング茸擬きだ。


 しかも、レインボーファルスの祝福の二重奏をたっぷりと、祝福の鎧を使って練りこんである逸品だ。

 おまけにグスタフの野郎にも手伝わせた、ダブル二重奏の恩恵を受けた代物なのだ。


「アル。

 お前……こんな物を使って、一体何をするつもりだ。

 これ、結構ヤバイ代物だぞ」


 グスタフよ、そんな台詞を吐かれても知らないな。

 安心しろよ、ちゃんとうちの国王夫妻にも食わせる物なんだから。

 わはははは。


 俺はぶっとんでいた。

 とことんまでメーターが振り切れていた。


 続いてはオードブルの御時間だ。

 これはツバメの巣×蒲鉾で攻める。


 これはそれぞれの道の専門職が二人がかりで、俺が作ったヤバイ食材で芸術品に仕上げた一品なのだ。

 参加者どもお、今夜はとことんトリップしてもらうぜ!


 宴会なら日本のデトロイトの御家芸だ。

 飲みが足りないと自動車なんか、ただの一台だって作れやしないんだからなあ。


 昔は自動車工場なんて、轟音と火花が飛び散る戦場だった。

 溶接ではパンツまで焦げて穴だらけになり、ラインに乗った自動車ボディから飛び出る鋭い凶器のような金属バリによる切り傷も絶えなかった。 


 ラインの中を通るボディが、その端にある人間一人がギリギリ通れるほどしかない狭い通路を通る、人間の体の中でもっとも外縁に位置する二の腕あたりを切り裂くのさ。

 そういう物でパワフルに深めに切り裂かれた傷って、ずっと痕(あと)が残るんだよな。

 刀傷と一緒だ。


 自動車メーカーの従業員には荒くれ者も多かったようだし、社員寮で走り回りながら日本刀を振り回すヤクザなんかもいた。

 全国から集まった若者のいる社員寮なんか暴走族の巣みたいになっている物まであって、警察による手入れが何度もあったという。


 一般の人は自動車業界へ入るというだけで親戚一同から猛反対されていた人もいたのだ。

 とてもじゃないが、飲まずにはやっちゃおれんような業界だったのさ。

 今でも『Fラン製造業』とかいって馬鹿にされたりもしているよな。

 生意気で糞な小僧若造どもによ。


 だが、そのFラン産業が長年日本を食わせてきたんだぜ。

 必死で外貨を稼がないと日本人は真面に食糧さえ外国から買えない。

 尋常小学校しか出なかった学のない、食料自給率という言葉すら知らない馬鹿で間抜けな大昔の政治家が「食い物なんぞ外国から買えばいいんだ!」とか言って、そうしちまったんだから。

 それを蔭から支えてきたのが『宴会』なんだから。

 


 酒も、とことんヤバイ特製エキス入りだ。

【俺のインベントリ】内で超熟成された、現実時間で言えば「一万年物」に相当する超古酒だ。

 その【拡張時間】の間、俺の魔力で練り上げまくった、とてつもない代物なのだ。


 水は、あらゆる物質あらゆるエネルギーを溶かし込む神秘の物質、そして命の水。

 酒の原材料で、最も基本かつ重要な物の一つは水だ。


 今回の酒に使ったものは、精霊の森の神秘の力を秘めた湧水(ゆうすい)だ。

 しかも、こいつはファルに頼んで【聖水化】してある。


 聖水とは、人間が作った不思議な作用がある特別な水の事だ。

 俺は訳あって、かつて日本にいた頃からその専門家みたいなものだった。

 この手の物の製造なら、この俺に任せろ。


 だから、ファルに聖水の作り方を仕込んで【レインボーファルス聖水】を作らせてみたのだ。

 レインの治療に使えないかと思ったのだが駄目だった。

 あまりにも強烈過ぎて、却って害になるようだ。


 それで大量の精霊神水ベースから製造された神の子による超聖水が、俺のインベントリの中で魔力を練りこんで【魔王水】みたいになっていた【封印されし物】だったのが、今回は何の躊躇いもなく遠慮なく使ってしまった。


 いやあ、この話をミハエルが聞いたらまた目から火を噴いて怒るだろうなあ。

 だから内緒にしてあるのさ。


 ぶははは。

 もう、今夜の振り切れまくった俺は誰にも止められないぜ。

 魔王公爵、いざ参る!


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こちらもよろしくお願いいたします。


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