61-5 出迎えの鬨の声
「各々方、準備に怠りはなかろうな」
「「「おー!」」」
「いざ血戦の時~」
「「「おー!」」」
近藤、そんな物騒な掛け声はやめろよな。
シル付きの使用人達は、そんな新撰組の血風録的な風景にも、もうすっかり慣れ切っており、自分達のやるべき責務に集中していた。
料理関係の人達も完璧に仕度を整えており、未だ緊張は残すものの笑顔を浮かべるだけの余裕はあった。
俺も、もう今更なのである。
一応は国の危機を救ったような形で今の地位にある。
それが王家に認められて御姫様を娶った。
俺の方から「御姫様を寄越せ」とか言ったわけじゃない。
だが彼女を守りたくて婚約を受けた。
文句を言ってくるなら、そんな奴らとは縁を切ったっていい。
それくらい、ずしっと腹を括ってこの場にいる。
そして俺の傍らにいて力をくれる奴もいるのだ。
そいつは今笑って俺の顔を見上げている。
もうちょっとくらいは頑張れそうだ。
今日は家を構えてからの初行事、初めての法事くらいの気構えでいる。
助けてくれる存在も多々いるのだから、どうという事はないさ。
今、シルの反対側にはミハエルと元草原の御姫様がいてくれた。
「魔王城大決戦ですね!」
うん、王太子妃殿下。
それも別に間違っちゃいないけどね。
妙にテンション上がりすぎじゃないですか。
ミハエルも、なんだか愉しそうだ。
このところ、こそこそしなきゃいけないような展開だったからな。
「兄上も晩餐には御出でになるそうだよ」
「ダーリンと遊園地で一緒に遊びたかったな」
王太子妃が、やや寂しそうな表情を見せる。
「まあ機会はいつでもありますよ。
俺達は家族なんだから、王太子殿下の時間に余裕がある時を見計らって二人のために遊園地を貸し切りにしたっていいんだし」
「そうですね。では楽しみにしておきます」
日頃は忙しい王太子カルロス君も、今日は可愛い妹のためにと出張る予定でいてくれるものらしい。
感謝感謝。
「北の公爵、アニオン公爵閣下の御成り~」
この国では、その在り方から方角で公爵家の役割を表す。
北の公爵とは王家の最後の守りである事を指すのだ。
西の公爵は敵を迎え撃つ役割のはず。
この俺には相応しいポジションだ。
東は交易がメインとなるが、昔はハイドとの仲が微妙だったため予断を許さないというポジションだった。
もし、あのままの関係でミレーヌ王女がハイドへ嫁に行かなかったら、東の公女が代わりを務めたのかもしれない。
南は出身地であるサイラスや南方のエルドア王国などとの外交を司る事が多かったのではないかと言われている。
特にロス大陸の中心にあり、そこにおける微妙過ぎるバランスの要ともいえる、素でも厄介過ぎるドワーフ国のエルドア王国が相手ではな。
その分、表向きだけでも強面でいないといけない。
噂に聞く強面な態度は、そのせいなのかもしれない。
もしかすると案外と話のわかる人である可能性もある。
彼とはまだ話をした事がない。
何度か遠めに見ただけだ。
俺もエグイ人間だから、もし俺が南の公爵の立ち位置だったら俺みたいな人間は是非とも引き込みたい。
そのような希望的観測は捨て切れない。
しかも俺という人間は、いわば彼の管轄であるともいえる厄介なドワーフ共とは昵懇の間柄なんだから。
「やあ、アニオン公爵。
ようこそ、御出でくださいました。
御機嫌大変うるわしゅう」
おっさんは会社生活が長いので、これくらいの事は平然と素でこなす。
日本の会社の一員なら、絶対にやらなければならない時に出来ませんなんて言えやしないのだ。
というか、ごく普通に出来てしまう。
それに今日の舞台は色々あるのだから、半端な気構えでは乗り切れない。
魔王として力押しで全てに臨む所存だ。
まず、御出でいただいた方々は、執事の格好をしたゴーレム達が多数で御出迎えする。
そして上着などを受け取りながら丁重に御案内するのだ。
まずはサロンで好みの御飲み物を楽しんでいただく。
ゴーレム執事はマンツーマンで御世話をし、それにメイドゴーレム達がつき従う。
沖田執事と斉藤メイドがコンビを組んで待機している。
かなり応用力のある彼らを、要注意対象の方の御世話に付けるつもりだな。
こういう命令をしたのは近藤じゃなくて土方の方だろう。
近藤と来た日には「一体あの御大尽は誰?」みたいな雰囲気を漂わせて、「ズン」っと音が聞こえてきそうなほどの迫力を滲ませながら、ど真ん中でどっしりと構えていらっしゃる。
お前はどこの西郷どんだ。
まあ歴史的知名度においては、御互いに相譲らぬほどのものなのだがな。
もう一組目に付くのは、山崎執事と秋山メイドの超強面コンビじゃないか。
秋山君、頼むから南の公爵を拷問にかけたりなんてしないでくれよ。
今日の大一番で、こいつらが一番ハラハラさせてくれるんだが。
本当に愉快な連中だぜ。
こいつらも俺の大切な家族なのだ。
なんたって、この俺自らが生み出した奴らなのだから。
そして俺のレーダーに映る精霊達。
今回こいつらは特に呼んでいないんだけど、加護を与えたこの俺の一大事が気になるらしくて、あちこちで出待ちしていやがる。
御客さんの中には精霊の気配がわかるような人もいて、奴らに向かってニッコリと笑いかけてくれる。
そうすると「見つかっちゃった~」みたいな感じで精霊は一旦隠れるのだが、その後でこっそりと、その御客人を尾けていったりする。
そして迷った挙句に、そ~っと加護を付けたりしていた。
お前ら、一体何をしにきたのよ。
まあ今回の招待客などは、精霊がいればありがたがるような人も多いので、賑やかしになっていいっちゃあいいんだがなあ。
サロンで一頻り、ゆったりとした時を過ごした人々は、ゴーレム執事の案内で館内を内覧して回る。
入り口でカラー印刷のパンフレットを配ってあるので、それに基づいて案内されていく。
それはもう、それ自体が御土産にも出来るほど上等な装丁の、まるで超高級レストランのメニューか、あるいは有料の高額なオークションカタログか何かのようだ。
天井にも初代国王に纏わる神話、ゴブリン達の祖先が見聞きしたその姿や物語が、天井画として壮大に描かれている。
ここは優先してやってもらったのだ。
ゴーレム達が、時には館内装飾を製作中のブラウンゴブリンの芸術家自身が、そしてまた俺自身が熱く語った。
上流階級に位置する貴族達が、それら最高の芸術に興味無い訳がない。
王都に開館したロスコー美術館の大盛況で、それは既に証明されていた。
だからこその、この企画であったと言える。
中庭で一心不乱に製作に打ち込むブラウンゴブリンの姿に、貴族達はなんと思った事だろう。
そして、こんな内覧会を開催する事になった、この新公爵家に対して何を思うだろうか。
サロンで、そして中庭で、御菓子を提供するのは若干十一歳の大師エリと、仙師と呼び称される稀人料理人の山本さんだ。
人々は、この世界の最先端及び地球でも有数であるおもてなし精神を添えた和の心に包まれて、期待通りとなる至上の時間を過ごしていった。
飲み物は、稀人の世界から持ち込まれた物や、それを改良した物だ。
それらもアルフォンス商会から販売されてはいるのだが、その最善は常にここにある。
それを印象付けるように、グラスにも、ちょっとした小物にも、アルフォンス商会のロゴをあしらってある。
これは地球で高い金を払ってデザインしてもらったものだ。
アルファベットで、優美に流れるようにアルフォンスと描かれ、それに鷹をアレンジしたシンボルが寄せられている。
この世界では決して作れない、稀人世界の文化の中だけから生まれる物。
それに対して誰しもが、その目を吸い寄せられる。
さすがは貴重な円を800万円も費やしただけの事はあるぜ。
ありがとうございます。
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