60-1 幸せについて考えてみる
十三か国もなんとか抑えたので、いよいよ遊園地が本格オープンを待っている。
まだゲルス共和国の相手も残っているのだが、ちょっとした目論見があるのだ。
離宮の杮落としというか、内覧会での目玉にしたいのだ。
館本体も含めた芸術を見て美味しい物を食べて、そして今までに無いスケールで遊んでもらう。
これで俺の味方になってくれそうな人を増やそうという魂胆なわけだ。
目玉はジェットコースターとフリーフォール、それと巨大観覧車だ。
後、何か変わった食材・料理があればいいのだがなあ。
朝、箒を持ったまま観覧車を見上げていると、ふっと体温を感じた。
首を少し左下に傾けると、体温の主が微笑んでいた。
「遊園地オープン、楽しみだね」
この子と、こんな風にする日が来ようとは。
夢にも思わなかったぜ。
あれは、シルと初めて会ったのは、エミリオ殿下とルーバ爺さんと王宮の中庭でまったりしていた時の事だった。
俺はエミリオ殿下を喜ばせようと思い、あれこれと作った調理器具で、いろんな食い物を作っていた。
俺も嬉しかったし殿下も喜んでくれた。
そこへ、ずいずいと現れた美女と美少女の団体が俺の前に立ちはだかった。
「!?」
そして、王妃様が仰った。
「いい匂いね」
そして彼女は俺に命じるというのか、いやなんて言ったらいいのだろう。
何か「そうするのが当然ね! それが貴方の使命なのよ」みたいな感じで。
しかし、特に高圧的ではなく。
俺は言われるがままに、いろんな食べ物を作っては差し出した。
笑顔と共に。
王妃様は美人で、こう胸の谷間も露にしていて、それでいてまったく嫌味がない。
色恋沙汰というのではなく、純粋に彼女へ好意のようなものを持った。
だが後で彼女の歳を聞いて俺は飛び上がった。
「詐欺だ~」
本人が聞いたら「お前が言うな~!」と言われそうだったが。
彼女は俺よりも年下だったのだから。
たったの四つだけれども。
そして一緒にいた人達の中でも、その少女に見惚れていた。
傍にもっと大人びたような感じの美しい少女もいたが、彼女の幼いなりに、光輝くような何かのオーラのような物を見たような気がして、それに惹かれた。
大人の女性でも、そのような物を放つ人間をかつて見た事がなかった。
また「あいつ」が見せているのかなと思わないでもなかったけど、彼女の事はとても気になった。
忘れてはならなかった事なのだが。
その後、彼女はこの国の王女なのだと聞いてなるほどなと頷いたが、この世界でも一介の冒険者に過ぎない俺には関係ないと思った。
日本でもそうだった。
何かに期待しない癖は体に染みついていた。
そして、その後も彼女に関わる事も多かったが、こんな事になるとは夢にも思ってはいなかった。
だが、あの日俺は王宮へ飛び込んでこう言ったのだ。
「婚約を御受けいたします」と。
そして、今彼女は俺の横にいる。
この世界で誰よりも大事な人になったのだ。
傍にいてくれるだけでいい。
ふっと体温が感じられるだけでいい。
死とは体温が無くなる事を言う。
肉親の体温が徐々に消えていく事は経験した。
とても悲しいことだ。
身内の人の、愛しい人の体温が感じられる事。
それが何よりの幸せだと思える。
日本でもここでも、それは変わらない。
各種の強力な回復魔法を持っている事はとても心強く感じるのだ。
いつも誰かに囲まれて生きていた人は忘れがちな事なのかもしれない。
それがわかっていて、その幸せの価値を知っている俺という人間は、もしかしたら意外と幸せな人間なのかもしれない。
とりあえず、遊園地作りを続けよう。
今はそれが最大の優先事項だ。
これから、この家で共に暮らす愛すべき人達のために。
そのうちにはベル君から裏ダンジョン攻略についての新しい連絡もくるだろう。
所帯を持ったとなると、それはそれでまた家族のために日本へ御買い物に行きたいのだ。
俺が面倒を見ている大勢のチビ達もいるのだし、エリの奴も御菓子作りの勉強のために日本へ連れていってやりたい。
やはり、ここはジェットコースターからだろう。
日本でも、あれが遊園地の一番の目玉なのだ。
とりあえず、ちまちまと模型から作ってみた。
斉藤ちゃんがわくわくして、背後から俺の肩にしがみ付くようにして見つめている。
「マスター、出来上がったら是非私めを一番に!」
一緒に座って見ているトーヤもわくわくしているようだ。
そして俺が作った、なんちゃってジェットコースター模型は試運転をする事になり、みんな見学にやってきた。
「よーし、いくぞー」
俺の掛け声と共に発進したジェットコースターの模型は、とてもいい感じで走り、大きく期待させてくれた。
そして見せ場の頂点で止まり、一気に舞い降りたかと思うとループに乗り、そして『大空へ』と旅立っていった。
「飛距離十二メートルほどです!」
沖田ちゃんがわざわざ報告してくれた。
これが実物なら確実に野球場でホームランコースだな。
電光掲示板をぶち破って場外まで行きそうだ。
俺は溜め息を吐くと斉藤ちゃんに言ってみた。
「じゃあ、一番乗りはよろしくな」
真理曰く。
「稀人の国では楽しそうな遊びをするのね」
日本人がみんな俺みたいだと勘違いしていないか?
「あ、土方さんが是非乗りたいって言っていましたよ~」
そうのたまう沖田ちゃんの背後に、ずんと立ちはだかる影。
「お~き~た~」
また恒例の追いかけっこが始まったようだ。
とりあえず、基本のところからやり直しだ。
ジェットコースター本体はオリハルコン製だから、ぶっ飛んだところでビクともしないが、中身の乗客が無事に済みそうもなかった。
魔法による保護機能が必要かもしれない。
とにかく数え切れないくらい試作して、実際に模型を走らせてみた。
その結果、なんとか実用安全レベルは確保出来たと思う。
そして大掛かりな実物大の物をなんとか完成させた。
この世界初のジェットコースターだ。
これが娯楽の頂点と呼ばれるのか、恐怖の大王と呼ばれるのか。
皆からの評価がちょっと楽しみだ。




