58-2 ゴーレム忠臣蔵
あの日、俺は最後の決戦を行なうために帝都ベルンのニールセン邸へと乗り込んだ。
でも本当は、奴がそこに居ない事の確認のためだった。
だが奴の部屋へ行くと執務机の椅子にニールセンは座っていた。
まさか野郎が居残っているとは思わなかったよ。
俺はサブマシンガンの狙いを奴に定めた。
「死んでもらうぞ、ニールセン」
だが、奴はあろうことか予想外の手に出て来た。
『魔界の鎧』
あの時は、そんなとんでもない代物だとは思ってもいなかった。
奴は無様な敗走ではなく、最大の脅威である俺を倒すため屋敷に残るという選択をしたのだ。
俺さえ倒しておけば、ここは敗北しても第二次アルバトロス・ベルンシュタイン戦役で、今度こそ帝国の圧倒的な戦力を用いてアルバを落とすと。
奴の攻撃を食らった時、次々とゴーレム達が飛び出していった。
俺が命令してもいないのに。
そして後に言葉を話せるようになった時、彼らが語った物語がこれだ。
◆◇◆◇◆
「いざやいざあ~」
「天誅!」
アイテムボックスの中でゴーレム達は張り切っていた。
対帝国戦で活躍してくれた彼らゴーレム達は、俺のアイテムボックスの中で気勢を上げていた。
戦国時代の名残が色濃い西三河生まれである俺の影響か、着物に刀、それに頭の造形もなんか髷っぽくして。
そして襷で着物を整えて、ケモミミマーク入りの鉢巻をしていた。
元々、彼らはケモミミ園を守るために誕生したのだから。
そして俺がニールセンに討たれたのを見て彼らも慌てた。
「御館様~」
「マスター~」
「おのれ、ニールセン」
そして俺の命令が無いのにも関わらず、自ら『オモチャ箱』から飛び出して、敵目掛けて殺到した。
「うおお、やられた~」
「ぐおおお」
「各々方! 御気を付け召されよ! ぐはあ」
次々と真っ二つにされていくゴーレム達。
だが、彼らは怯む事無く立ち向かっていった。
まだ素材が土砂・石・岩などで作られていた頃だった。
姿形も岩くれが人の姿を取っていただけで動きものろかった。
強化されているとはいえ、魔界の鎧を着込んだ相手に敵うはずも無かった。
負傷というか、真っ二つになった者を担いで退却する部隊まで編制されていた。
味方を回収すると共に、新たな味方の突撃の邪魔にならぬように最新の注意を払いながら。
だが彼らは忠義だけを胸に突き進み、強大な敵と渡り合ったのだ。
「敵は手強いぞ。
押せ、押せー、数で押すのだ~」
そう叫びながら刀を振り上げて味方を鼓舞し、敵を果敢に追い詰めていた者が、あの近藤だった。
その気迫にニールセンは下がった。
怯む事無く前線へ赴き、回収部隊を率いていたのが土方だった。
そして奴の懐に飛び込み、奴の抜いたミスリル剣をすかさず打ち払ったのが沖田と斉藤だ。
その隙を逃さぬよう間髪入れず奴に迫り切りつける山崎。
「おのれ、この岩くれどもめ。
だが、お前達の主人はもう御終いだ。
この鎧に討たれ、その後生き延びたものなど、この世には決しておらぬのだから。
貴様らの命運もそこまでよ」
奴は勝利を確信していた。
この俺に魔界の鎧の一撃を与える事、それが奴の勝利条件のはずだった。
俺が神聖エリオンの力で生き延びるのは、奴にとっても計算外の誤算だったのだ。
にじり寄るゴーレムどもを鎧の力で打ち払い、跳ね除けた隙に鎧を解いて逃げようとしたのだ。
どうやっていたのかまではわかたないが、野郎としてもあの鎧を長時間纏うのは厳しかったのだろう。
そしてゴーレムどもが跳ね除けられた空間が奴との間に広がっていた。
ゴーレム達も俺の邪魔をしないように、敢えてそのまま射線を開けた。
俺が最後の力で放った三十二口径ACP弾は、アイテムボックス供給で奴に延々と撃ち込まれていった。
「ぐっ、がっ、はっ、げふっ」
次々と奴の体に向けて、中口径で比較的低威力の鉛弾が背後から主に尻や脚に向けて撃ち込まれていく。
防弾着を着用されていると極端に威力が低下する小口径の弾丸も、無防備な布の服など問答無用で貫通していった。
それは奴の尻の穴の数を増やしていくばかりで、まったくといっていいほど急所を晒していない奴の姿勢的にすぐには致命傷には至らない。
それが故に永く続く激しい痛みと衝撃の嵐。
唯一の急所として無様に晒した股間にも容赦なく撃ち込まれて、無残に生きながらにして肉を千切り飛ばしていく横殴りの熱い弾丸の雨。
たとえ戦場で有名を馳せた将軍とて、熱く焼ける弾丸をその身に受けるのは初めてであろうよ。
数々の任務で銃弾に撃たれ慣れたような歴戦の地球の兵士とは訳が違う。
狭い脱出口の中で思うように進めぬ中、熱い鉛玉を降りやまぬ雨のように撃ち込まれ続けながら、蹲った状態のまま身動きも取れずにニールセンは最期の刻に何を思っただろうか。
ほぼ嬲り殺し生殺しの、リンチならぬミンチ状態なのだが、それを為している俺自身も瀕死の状態であったので奴に感想を聞いていられるような状態ではなかった。
おまけに火薬式サブマシンガンの絶え間ない反動が、半ば意識を手放し深手を負った体に苦痛と共に響き巡った。
文字通り完全に痛み分けの結果ではあったのだが、生き残った者だけが勝者の称号を得た。
このサブマシンガンのモデルになった銃は、小型軽量かつフルオートでのコントロール性が非常によかったので用途を越えて広く使われていた。
命中精度の低い短機関銃であるにも関わらず、三十メートルくらい先のトランプ大の的に弾着を集約出来たという。
だが防弾装備の高性能化が進んだため威力不足が問題となり、また開発国における軍用使用弾薬の変更などもあり、地球では廃れていった。
だがこの異世界では、俺の一番厳しい場面を乗り切ってくれた素晴らしい名銃だ。
もし、あのままニールセンを逃がしてしまい、いつか奴が鎧に呑まれでもしていたら、この世界を大惨事が襲った事だろう。
ゴーレムの魂と、地球世界に勇名を馳せた嘗ての名銃が、俺とこの世界を救ってくれた。
そして、あいつ。
俺の中のあいつ、セブンスセンス。
あいつのおかげだろう。
奴が俺に火薬銃を造らせ、ここ一番という時に持たせてくれた。
そして俺も素直にそれに従ったのだ。
あいつは、いつも正しい。
間違えるのは、いつも俺だ。
それが俺の地球時代の口癖だった。
だが今回は間違えなかったので、幸いな事に俺はまだ生きている。
◆◇◆◇◆
敵がケモミミ園を襲う計画があった時の事だ。
冒険者も手配したが、念には念を入れてゴーレム達を、園を守る守備兵として配置した。
当時はまだ岩くれのような形をしていたので、子供達は面白がって彼らに纏わりついていた。
俺は気が付かなかったが、ゴーレム達は子供達を大変愛しんでいた。
あの頃はゴーレム達もまだ話せなかったので、身振り手振りでコミュニケーションしていたらしい。
トーヤの話によると、彼らはよく子供達と遊んでくれたという。
中でも、殊更にチビ達を可愛がっていたゴーレムがおり、子供達は今でも沖田ちゃんや斉藤ちゃんにはとても懐いている。
純粋で直感に優れた子供達は、ゴーレムの姿形は変われども、その魂を見間違えたりはしないようだ。
そんなゴーレム達は、今でも俺の大切な家族であり仲間であり、通常はアイテムボックスの中にいたりしても、その熱い魂は感じられるような気がする。
そして、また新しいゴーレムの仲間達が大勢増えた。
今度は俺の家族となってくれた人を守るための騎兵隊として。




