57-9 新居選び
やがて、存分に御高説を垂れ終えたローゼンバーグのおっさんは退場してくださった。
俺はインビジブルを解いて、ふう~と汗を拭った。
「なんじゃ、アルよ。
そこにおったのか」
「いやあ、御腹が空いちゃいました。
御飯ください」
陛下は笑って食事の支度の指示を出してくれた。
俺はシルの隣に腰掛けて、先にパンと肉を分けてもらって食べだした。
「ゲルスの件、俺もローゼンバーグ公爵に同感ですね。
予想もしない手で、ある日突然奇襲が来ると思いますよ。
戦争でもなんでもなく」
「ほう。
何故そう思う」
陛下も、ランチのソテー肉をナイフで切り分けながら訊いてくる。
「理屈は無いのです。
ただ明確に感じるのです。
いつものように。
そう、あいつがそんな風に言っている気がする」
「あいつ?」
「あ、いえ何でも。
それと、一応騎兵団の方は準備出来ましたが、観覧式はいつやります?」
陛下は少し考える風にして、こう言ってくれた。
「そうさの、明日の午後ではどうじゃ。
さすがに今日の今日というわけにはの」
「わかりました。
では明日昼食後に。
場所は王宮前広場で宜しいですか?」
陛下は黙って頷いた。
「あと、家の方なのですが、ケモミミ園に隣接するあたりで離宮を造っては駄目でしょうか?
そのくらいが丁度いい具合なのかなと。
その、シルが身重になったりしたら馴染みの侍女さん達に来てほしいので、早急に用意したいと思うのですが。
出来れば早めに来て慣れていただきたいですね。
うちは他の貴族家なんかとは違って、少々特殊な環境なので」
「そうさのう。
まあそれもよいが、王宮ゾーンでの公爵邸の方もいくらかは滞在してほしいの。
公爵たる者が公爵邸を留守にするとは! とかいう者などもおってな」
やや顰めっ面で、そのように教えてくれる。
陛下もだいぶ閉口しているのだろう。
よし。
滞在するのなら、うちに大量にいるミミ付きの生き物達と一緒にな。
『公爵邸見学』の社会見学コースで!
更なる悪口雑言にケモミミ公爵を付け加えさせてやろう。
冗談抜きで、園児達や小学生達に将来を見据えた簡単な実習をやらせてみてもいいし。
なんたって、せっかく正規の公爵邸なんていう良い物が『幼稚園の付属施設』としてあるのに持て余しているんだから、そいつを幼稚園なんかで活用しない手はないわ。
あと、なんだったらゴーレムの影武者でも置いておくか。
『影武者グランバースト公爵』
うちのゴーレムならば、やりたがる奴が大勢いそうだ。
あいつらは、やろうと思えば変幻自在に容姿なんかは自由に変えられるからな。
御馴染みのネット掲示板の連中がそいつを見たら、さぞかし大爆笑するだろうぜ!
変身シーンも配信しておくか。
どうせなら芝居気たっぷりに演じさせてやろう。
観客は次元の彼方の住人だけだがな。
「そうですか。
他にもまだありそうですねえ。
そういう事ならば仕方がない。
観覧式、少し抑えようかと思っておりましたが、その連中がぐうの音も出なくなるほど派手にいきます」
そんな俺の宣言を聞いて若干不安になったのか、シルがこっちを見て視線で釘を刺してきた。
「御手柔らかにね」
俺はシルの髪を、右手の指で優しく撫でて返事に代えておいた。
「陛下、さっきの公爵以外の南の公爵様というのはどんな感じの人です?」
念のために訊いておきたいだけだったのだが。
「あれはローゼンバーグよりも、もっと気性が激しい男じゃから気を付けるがよい」
陛下も若干苦い顔だ。
うっわあ。
そういうタイプの人間とは、なるべく会いたくないな。
口がへの字になっているような人でなければいいのだがね。
まあ、そのうちには会わなければならん人なのだろうから。
というか、明日なんかその人も見に来るんじゃないのか?
たぶん国王陛下と一緒に。
それはつまり俺と一緒の席でって言う事だよな。
ふう、桑原桑原。
あまり食欲が湧くような話は無かったのだが、俺は遠慮なく昼食も御代わりして、ばくばくと飯を食っていた。
腹が減っては戦は出来ぬ。
なんたって俺は国防を担う白虎将軍なんだからな。
嫁さんの実家なんかで、一々遠慮なんかしていられないのだ。
挨拶もそこそこに王宮を辞したのだが、シルが訊いてきた。
「今日はどうするの?」
「んー、さっそく新居作りをしてみようか。
まだ構想が上手く纏まっていないんで、まあ御試しという事で」
「うん、わかった」
最近はアドロスの端っこがだいぶ歪な形になってしまっている。
俺があれこれと、色々な建物を作ってしまっているからだ。
広げる度に衛星写真で資料を作っている。
街の沿革とかアドロス史というか、そういう物だ。
この街の資料館を建ててみてもいいと思っている。
元々アドロスはそれほど大きな街ではない。
武自身も、あの地にはそう手を加えなかったのだ。
工数が足りないからアドロスは資源鉱山にすると割り切っていたのだろう。
元々ダンジョンの入り口しかなかったようなものが、後に王都の入場制限が始まってから、そこにどんどん貧民街が出来て、そこの人がダンジョン関連の商売を始めてという感じで、ダンジョンを中心にして今の雑多な街が出来ていった。
街の直径は二キロほどだ。
ケモミミ園はアドロスの中でも王都から見て反対側となる街の西側にある。
街の代官や国王陛下の許可をもらって、もう好き放題にあれこれと拡張し放題だ。
はっきり言ってしまえば、それらは荒れ地に過ぎない場所なのだが、俺が魔法で整地すればなんという事もない。
只の原野が宝石のような黄金の地に変わる。
トーヤを拾った、うどんを作ってくれる職人さんの工房が、たまたまそこにあったからという理由で、ケモミミ園を中心とした市街地計画の起点がそこに決まっている。
本来であればラーメン研究所が最初の建物なのだが、これはそこにあった建物を使っていただけの、あくまで一つのプロジェクトの始まりの地という扱いなので特に起点には用いていない。
商業ギルドのロゴスに頼んで買い取った工房でセーフハウスを作ったのに始まり、ケモミミ幼稚園・警備棟を加え、運動会をやれる運動場を確保した。
それからフードコートを作り、小学校を造成し、寺を建て、遊園地を建てた。
その後の拡張性を考えると、あまり変な場所に離宮を建てたくない。
後でまだ中学校や、第二幼稚園なんかが要るのではないかと思っているのだし。
まあ建て直しは利くんだけど、うち以外の人がこの辺りに何かを作り出すと困るんだよなあ。
そのあたりは代官のエドモント氏に頼んで、領主館区画として建築規制を敷いておいてもらうとするか。
当然の話だが、半ば無法地帯として名を馳せていた棄民都市アドロスとても、勝手に建物を建てたり何かの商売をやってはいけない。
ここでは全て代官の許可が必要なのだ。
エリ達がやっていた屋台だって、決められた場所での営業許可証が必要だった。
少し無計画にやりすぎた。
必要に迫られて増築していっただけだし。
遊園地は大型観覧車とジェットコースターをやりたい。
あとサーカスがやれる広場も欲しいし。
そうなるとまた、馬車のターミナルが必要になってくる。
それらの施設には、かなり拡張用のスペースが欲しいので、あれらの向こうに離宮は建てられない。
よし、決めた。
都市計画からやり直しもありうる。
とりあえず暫定で小離宮を造るとしよう。
そいつだけは早急になんとかしないと、また苦情が来そうだ。
場所をなんとか決めよう。
いざとなったら引っ越せば済むのだし。
もっとも、俺の事だから一旦作ってしまったら面倒になって、もうこれでいいやになる可能性が大いにあるんで要注意だけど。
「シル。
離宮はどこに建てたい?」
「そ、そうねー。
ケモミミ園からあまり離れないで、景観的に違和感が無い方がいいかな。
お寺の前とかは、ちょっとっていう感じかなあ」
それは俺も思った。
コーディネート的にちょっとな。
むしろ、実際に建てる俺の方が困るわ。
それじゃどうするかな。
「建物のタイプはどうする?」
「うちの王宮って、ちょっと地味なスタイルだよね。
王宮らしさに乏しい堅実さを表に出しているというか。
なんていうのかな。
本宮ではない離宮なんだから、あまり派手で華美な感じじゃないのだけれど、でも綺麗な物っていう感じでどう?
クリスタルなイメージというか」
まあ、それもいいな。
あの王宮ゾーンは、なんていうか仕事場と要塞に演習場しかない雰囲気だ。
作られた時の時代背景と武の人格が滲み出ている。
うちで作る物のイメージはプチクリスタル宮って感じかな。
もちろん、デザインはインターネット頼みだ。
探してみるも、なかなかこれはという感じの良い物が無い。
内装なんかはいいなと思うのはたくさんあるのだが。
とりあえず世界遺産で見かけた綺麗な感じの奴で作ってみる事にした。
ヨーロッパ、チェコにある宮殿だ。
ここは観光客からの評判もいい。
「こういう物はどうかな。
本来ならば広い土地にゆったりと作られて、庭園とセットで映えるデザインなんだけど」
「ああ、いいんじゃないかな。
中々綺麗でいいわね」
「これは地球でも世界遺産という特別な場所で、観光客に凄く人気があるところだから。
じゃ、この線でいくか。
採光を考えて、入り口というか表となるのは南側かな」
今日はこれで終わってしまった感じだ。
でもデザインが決まってよかった。
晩御飯前に少し時間が余った。
どうするかなと思ったら。
「ねえ」
「あ、はいはい」
奥さんから催促があったので、転移魔法で公爵宮へ跳んだ。
何しに行くって?
ヤボな事は訊きなさんな。




