57-7 挨拶回り
晩御飯を食べて、おチビ連は御風呂に入れてから寝かしつけた。
いつもなら、今時分から職員さんと一緒に軽く一杯といった感じなのだが、今日はとりあえず夫婦の時間を取らないといけない。
「ひゃあ、物凄い戦争だねえ」
「まあね」
昨日までの御姫様暮らしと違い、半分目を回す感じのシルが隣にいた。
まあ直に慣れるさ。
なんたって『孤児達の母』になったのだから早急に慣れてもらわないとな。
確か奥さんの遠い先祖が『孤児達の父』の称号を持っていたんじゃなかったっけかな。
うちの奥さんにも、そのうちに称号が付きそうだ。
そういや見た事がないけど、真理の奴って何か称号がついているのかな。
『ケモミミチビ・コレクター』とかだったりして。
とりあえず、今夜はここで寝るしかないかな。
「シル、悪いんだけど、今日はここね」
「うん、わかった。
一緒にいられるのなら、それでいいわ」
最近ファルはジョリーやシルヴィと一緒に寝ているのだ。
以前に比べると魔力を食い溜めしている上に、最近はもっぱら食い物の方にやたらと執着している。
ファルスがこんなに大食漢だったとは知らなかった。
そうこうするうちにウトウトしていたが、ふと気配を感じて身を起こすと枕を抱えたレミが覗き込んでいた。
「いっしょにねちゃだめ?」
「いいよ、おいで」
抱き上げて、レミを真ん中に寝かせた。
「どうしたの~」
シルも眠そうな目を半分開けてこちらを見た。
「ん、レミが来たから」
「そっか。御休み、レミちゃん」
おチビの額に軽くキスをすると、シルも再び眠りについた。
おチビは初めての「川の字」が嬉しいのか、俺とシルを交互に見比べて嬉しそうにしていたが、やはり瞼の重さに耐え切れなかったようで、直に夢の国へと旅立った。
それを見届けて、俺もその後を追った。
翌朝、いつもの戦争を終結させると日課の門前の掃除を始めた。
シルも一緒に箒を持った。
「ひゃあ、朝晩戦争なのねえ!」
「うん。また子供が増えたし」
「そのうち、うちにも、ね」
「ああ」
これに加えて赤ん坊が増えたら、また豪い事だな。
まあ、それは嬉しい増量なのだが。
そういや、公爵家って乳母さんが要るのかなあ。
そっちはどうしたもんかね。
「そういやさ、挨拶回りにいかないとな。
結婚式に来てくれた人はいいんだけど」
「どこがあるの?」
「えーとな……」
アントニオは来てくれたし、親方のところもOK。
シドも来てくれていたし、サイラス王家も。
俺が領主となったアドロスの代官も当然来てくれていたな。
式を取り仕切っていた内の一人である大神官のジェシカは当然いたし、レインもいた。
ザイードに帝国なんかの関係者はもちろんの事、リヒターとは会った時に話した。
ベルグリットも一応来てくれていた。
式に参加していた豪華メンバーに相当ビビっていたが。
あと学園長の侯爵も来てくれていたな。
よくよく考えてみると、殆どの関係者が式に来てくれていたじゃんか。
「あー、エルミアの教会くらいじゃないかな。
後はどこがあったっけな。
ああ、あとはギルマスのアーモン達か。
今半端でなく忙しいみたいだったから、さすがに来てもらえなかったな。
一応あそこも電話するだけはしておいたんだが。
アドロス冒険者ギルドのギルマス、ケニーは来てくれていた。
俺が領主となっているエルフ新町も顔だけ出しておこうかな。
代官やヘレンさんのところとかだ。
あの人はアルスの育ての親、義理の御母さんだよ。
とりあえず、そんなもんだね。
先に王宮へ顔出しするかい?」
シルも巻き毛の銀髪を指でくるくるしながら考えていた。
「そうねー。
実家にも顔を出さなくちゃ。
じゃあ、王宮から行ってもらっていいかしら」
「そうするか。
そっちは本当なら昨日行くべきだったんだけどね」
王宮の中庭にゲートを開き、広い庭園へとやってきた。
以前は特にそう考えなかったけど、改めて王宮ゾーンを見直すと、ここも広いよな。
とても王宮の中庭とは思えんほど、だだっぴろい。
この王宮の建物自体がやたらと広いからな。
英国最大クラスの宮殿の縦横三倍くらいはあるのだ。
王宮周りの王宮ゾーンともなると更に広くて、大型の国際空港二つ分くらいの広さがある。
そもそも、この王都アルバ自体がパリ市二つ分くらいの面積があるのだから。
「ただいまー」
シルが真っ先に声をかけたのはシルの御付きだった年嵩の侍女さんだ。
この間の青鰭蜥蜴娘ではない。
う、またあの味を思い出してしまったぜ。
「まあまあ、姫様。
御帰りなさいませ」
そして彼女は俺をチラっと見た。
あまり好意的な視線ではない。
多分、彼女は俺の事を快く思っていないのだ。
本来ならば御姫様が公爵家に下るのだ。
自分達も一緒についていくのが当然と思っていたのに。
それがついていけないどころか、御屋敷も用意出来ていない男のところへ嫁にやるなんて、と。
だが、とてもじゃないが、彼女達にすぐ来てもらえるような体制じゃないからな。
王宮にシルの私室が残っているので、侍女さん達はそちらの管理をしながら待機する格好だ。
学校付きの侍女は、当然そっちの仕事がある。
王女が結婚した場合、通常は外国とかへ行ってしまうので学園を辞めるのだが、地元なのでまだ通うことにしたのだ。
しかし、子供が出来たら辞める事になるだろう。
日本みたいに卒業を待ってなどと言われない。
シルを守る事が優先されたので、かなり強引な展開になったから色々な事が犠牲になった。
この侍女さんはシルが子供の頃から世話をしてくれているそうなので、子供が生まれたりしたらいてほしい人だ。
いや、身重になったらいてほしい。
なるべく御機嫌を損ねたくはない人なのだ。
この分じゃ、かなりあちこちで風当たりがキツイかもな。
陛下もいきなりすぎるぜ。
いや、こんな異世界でジューンブライドなんていう風習を始めた武の奴が悪い。
シルは侍女さん達に御土産を渡してから、楽しそうに島での土産話を始めた。
ん? 柱の影で手招きをしているのは、なんとシスコン王子じゃないか。
なんだ?
俺は、そっと近寄って小声で訊いた。
「ただいま。
なんだよ、こそこそして。
シルに会わなくていいのか?
もう家を出て嫁に行ったんだから、たまにしか会えなくなるんだぜ」
「お帰り。
いや、ちょっと色々とまずい事になっていてな」
例のあれか? イチャモンを付けてきている奴らか。
「とにかく、後で部屋にきてくれ」
「じゃ、今から行こう。
シルは、あれこれと挨拶があるだろ」
「わかった」
それから王宮へ転移して、シルに一言だけ言っておいた。
「シル」
「なんです、あなた」
「今から、ちょっと用足しがある。
君は他にも話したい人がいるだろう。
陛下のところでランチの時に会おう」
「そうね。じゃあ、そうしますわ」
彼女にしてみれば、ここは勝手知ったる実家なので何も困らないし、スマホがあるので旦那にはいつでも連絡が取れる。
呼べば旦那なんか、犬笛で呼ばれた犬みたいに転移魔法で飛んでくるし。
犬は、うちのプリティドッグじゃあるまいし、転移魔法なんて使わないけどね。
俺はこそこそしているミハエルに合わせて、同じくこそこそして消えた。




