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55-7 サンマは焼けなかった

 クラーケン達は、以前からゴーレム達に探させていたものだ。

 これだけの大物ともなると探すのに苦労したがな。


 魔法で生け捕りにして、以前退治したクラーケンの魔核をゴーレム魔核にして持っていた物を埋め込んだのだ。

 そして、そのクラーケンからは元々持っていた魔核を抜き取る。

 それを加工して、また次のゴーレム魔核を作ると。


 順番を間違えて、先にオリジナルの魔核を抜き取ってしまうと死んでしまうので要注意だ。

 あと超大型魔物なので御飯をやるのが実に大変だ。

 俺にコピー能力が無かったら絶対に持て余す、超大型ペットの出来上がりだ。


 こうすると、ゴーレムみたいに命令できる魔物が出来上がる。

 ただし魔核を元々持っているような上級魔物で、魔核の抜き差しに耐えられる生命力のあるものでないと駄目だ。


 この難行をAランクでこなせるのは異様に生命力の強いキメラくらいではないだろうか。

 まあ作らないけどね。

 猫はロボットよりも野生の猛獣の方が好みなのだ。


 触手でじゃれてくるクラーケン達を俺も適当にじゃらすと、そっちはゴーレム隊に任せて街道の方へ戻る事にした。



 連合軍の陸軍はもう進軍体制をとっているようだ。

 じゃあ、どうぞ『そのまま行ってちょうだい』な。


 ここの国境は開けていて、隠れるところもない見晴らしのいいところだ。

 街道が一本ぐいっと延びているだけの風景だ。

 海沿いなので、そっちの景色も素晴らしい。

 なんていうか、旅人が休んで御弁当を食べるのに丁度いい場所みたいな。


 国境線に塀などが作られているわけではなく、入出国のための手続きをする小屋があるだけだ。

 どうせ山越えされたら、出入りは簡単に出来てしまう。


 本来ならば、敢えてそういう真似をする後ろ暗い連中をこそなんとかせにゃあならんのだが、まあそういう事情はどこの国も本質的には変わらない。


 なんていうか、それは国境警備隊の詰所というよりは本当にただの小屋だ。

 さすがに物置サイズではないが、大きめの山小屋くらいのものだ。


 ケモミミハイムの連中は国境からかなり離れたところにいる。

 そうするよう狸大使に頼んでおいたのだ。


 小国連合側は斥候を出し、体制を整えている。

 船が着くタイミングを待って攻め入るつもりなのだ。

 もう連中が到着する事は永遠にないだろうがね。


 進軍は明日の明け方の予定か。

 俺はのんびりと待つ事にした。

 見張りは斉藤ちゃん達に任せて、迷彩柄テントを張ってキャンプを始めた。

 ビールはさすがに自粛したが。


 ノンアルコールビールは異世界へ持ってきていなかったので自分で作ってみたのだが、あまり出来がよくない。

 元々、あまり美味しくない代物だからな。


 俺はヨーロッパで一番売れているという銘柄の瓶入りの奴が好きだった。

 こういう時はアレを買いに地球に帰りたいなとか思う。

 あれも日本にいた頃は高いな~とか思って、殆ど買わないようにしていたが。

 たまに会社帰りの温泉で飲むくらいだったな。


 最初にこの世界に来た時には、持ってきたコンロ類とかを全部試せなかったので、今日はそいつを楽しもうと思ったら斉藤ちゃんから怒られた。


「焚き火台やガソリンコンロはやめてください。

 インビジブルを使っていても、煙が漏れれば敵から見咎められますので。

 大人しくガスコンロでも使ってください。

 そいつも、あまり強熱しますと空気が揺らいで存在がバレますので、ほどほどにしてくださいね。

 あ、サンマを焼くのは無しで御願いします」


 俺が手に持ったサンマ風の魚をも見咎められた。

 サイラスで手に入れた新鮮な魚だったのだが。


 まあ、今日はビールも飲まない事だし。

 仕方が無いので蕎麦でも打つことにした。

 この世界に来た頃は上手く蕎麦にならずボロボロになってしまっていたが、あれから俺も精進したのだ。


 不器用なので、ぶっとくて不揃いでよれよれだが、曲がりなりにもちゃんと御蕎麦になっているのだから、我ながら大したものよ。

 これは俺の歴史においては凄まじい進歩だ。


 地球の文明においては、月に宇宙飛行士が到達した歴史的快挙に等しいのではないだろうか。

 あれは陰謀論者によればフェイク映像だと言うそうだが、残念ながら本物なのが科学的に検証されている。

 あれをフェイクと呼ぶのは、金が無くて月面着陸船を打ち上げられなかった貧乏ソ連の悔し紛れのプロパガンダのせいだからな。

 よって俺の蕎麦打ちの成果もフェイクではなく本物なのだ。


 陽炎のように大気が揺らがぬよう空気の熱膨張による運動を制御をしながら蕎麦を豪快に茹であげると、俺はホクホク顔で美味しく食べる。

 やはり自分で打った蕎麦は美味い。

 でも、こういう真似が出来るなら秋刀魚を焼いたって良かったかも。


 なんだかんだいって「うわ、まずいな~。どうせなら山本さんの御蕎麦を食べたかった」とか造物主に向かって文句を垂れながら、斉藤ちゃんもしっかりと食べていた。

 ゴーレムは食わなくても生きていけるが、嗜好品としてあれこれ食べる。

 特にこの子はな。


 あと、同じく新選組から名を取った沖田(女の子)も食道楽で、二人とも仲がいいようだ。


 うちのゴーレムは俺が調子に乗って百万体以上も作ったので、油断するとクラーケン一匹よりも御飯をたくさん食べている場合があるから要注意だ。


 やはり兵を養うというのは大変な事なのだ。

 いや、それは何かが違う気もするのだが。

 本来なら飯なんて食わなくても活動出来る連中なんだからな。


 ベルンシュタイン戦役の時も帝国は大兵力を持ち出してきていたが、十三か国連合の奴らも大概だ。

 地球の大昔の大軍勢だって、下手をすると『街を作りながら』遠くまで進軍していったのだ。

 そうしないと兵站が間に合わないからだ。

 兵士だって途中の街で調達していったのかもしれないし。


 米軍なんか、チルド食品を全世界のどこへでも二十四時間供給できる生産能力や輸送力があるんだもの、あれは反則だわ。

 そうでなくては米軍を世界中に展開するなんて出来ないのかもしれないが。


 この世界の大国も、よく補給が間に合っているものだ。

 金も大枚かかるだろうに。

 まあ収納などもあるのだろうが、俺のコピー能力のような稀人チートには敵うまい。


 アルバの王宮では、料理人達が既に蕎麦打ちをマスターしており、王族なども椀子蕎麦を楽しんでいる。

 蕎麦汁も今はアルフォンス商会の物を使っているが、将来は自家製を使用する野望もあるようだ。

 醤油作りから始めているから、これまたとんでもなく通だ。


 この戦争、早く片付いてくれないかな。

 せっかく罠を張って待っているのに、もうじれったい。

 そもそも罠というのは仕掛けておいて、後で見に来るものなのだが。

 こうやってキャンプまでしながら、罠にかかるのを見張っているのは如何なものか。

 最初の頃じゃないが、俺がキャンプしてる時って普通じゃない状況の方が多いよな。


 テントに寝袋で、獲物が罠にかかるのをわくわくして待っていたのだが、いつの間にか眠ってしまっていて、朝になってから斉藤ちゃんに揺り起こされた。


「マスター、起きてください。

 ねえってば!」


「んー? おっはー。

 ふああ、朝飯まだ?」


「寝ぼけてないでください。

 獲物が罠にかかりましたよー。

 いいところを見損なっても知りませんからね」


「うわあ、そりゃあ大変だ」


 俺は慌てて飛び起きたが、そこにはただ見晴らしのいい街道が広がっているだけだった。

 そう、連中は俺の罠に見事にかかったのだ。

 俺が放った「無限の牢獄」に。


 まあ、こいつはそう大したもんじゃない。

 前回裏ダンジョンで散々な目に遭わせられたので、あの気持ちを誰かと分かち合いたいとか思ってみたまでだ。


 進軍していった連中は消えた。

 俺が作った携帯空間に。


 なんていうのか。

 自然体というか保護色というか、ごく普通に空港で連絡通路に進んでいく海外旅行の御客さんのように、通常通りに行軍しながら連中は自然に吸い込まれていったことだろう。

 この罠って、その辺の具合だけを特別に注力したのだからな。

 そして中にはアレが仕込んである。


 俺は罠にかかった獲物の具合を確認するために、無限の牢獄ならぬ携帯空間「夢幻の牢獄」へと足を踏み入れていった。

 さあ十三か国連合陸上部隊の諸君、無限にして夢幻たる特上のステージを篤と堪能してくれたまえ。


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